GX-ETS(排出量取引制度)で排出実績量から控除できるクレジットは、J-クレジットとJCMクレジットの2種類だけです。海外クレジットではJCMが唯一の選択肢で、VerraやGold Standardなどのボランタリークレジットは利用できません。利用上限は2種類の合計で、クレジット無効化量を控除する前の実排出量の10%です。
本記事では、なぜJCMだけが認められるのかという制度上の理由と、2種類合計の上限10%が自社にとって何トン・いくらに相当するのかの試算、そしてJCMクレジットの調達から登録簿口座・無効化・排出枠保有までの一気通貫の実務を解説します。2026年4月の義務化フェーズ移行で、対象企業にとってクレジット調達は「任意の環境活動」から「履行手段の設計」に変わりました。
この記事を読むことで、GX-ETSの義務履行にJCMクレジットをどう組み込むかを、数量・コスト・スケジュールの3点で具体的に設計できるようになります。
- GX-ETSの適格クレジットがJ-クレジットとJCMの2種類に限られる制度上の根拠
- JCMが「唯一の海外クレジット」である理由(パリ協定6条と相当調整)
- J-クレジットとJCMの合計上限「無効化前の実排出量の10%」の試算方法
- JCMクレジットの調達・無効化から翌年度1月31日の排出枠保有までの実務フロー
- 排出枠取引市場(2027年度秋開設予定)と価格コリドーの見通し
GX-ETSの基本:2026年度からの義務化で何が課されたか
適格クレジットの話に入る前に、義務の中身を確認します。クレジットの使いどころは、この義務の構造の中にあります。
対象は直接排出10万トン以上の300〜400社
2026年度から、CO2の直接排出量が直近3か年度平均で10万t-CO2以上の事業者は、GX-ETSへの参加が義務化されました。対象は300〜400社程度で、日本の温室効果ガス排出量の6割近くをカバーします。
判定に使われるのは直接排出(Scope 1に相当)のみで、電力使用に伴う間接排出(Scope 2)は含まれません。複数の生産拠点を持つ企業は事業者単位の合算で判定されるため、単独の工場では届かなくても合算で対象になるケースがあります。
鉄鋼・化学・電力などの重厚長大産業だけでなく、大型ボイラーを持つ食品加工、紙・パルプ、ガラス・セラミックといった中堅製造業も合算判定で網にかかりえます。「自社は対象外」と思い込む前に、直近3か年度の直接排出量を事業者単位で確認しておくことが出発点です。制度の全体像とフェーズ構造はGX-ETSフェーズ移行の解説記事で詳しく扱っています。
義務の中身:排出実績と同量の排出枠を翌年度1月31日に保有
制度対象者には排出枠(アロケーション)が無償で配分され、登録確認機関の確認を受けた毎年度の排出実績量と同量の排出枠を、翌年度の1月31日に保有する義務が課されます。J-クレジットとJCMクレジットを無効化した場合、その量は排出実績量から控除されます。2026年度の排出分であれば、最初の保有義務日は2028年1月31日です。
排出実績は自己申告ではなく、登録確認機関による第三者確認を経て確定します。排出量の算定データの整備から確認、クレジットの無効化、不足する排出枠の調達、1月31日の保有までを収める工程管理が、対象企業の年間サイクルになります。
配分された枠で足りない分は、市場や相対での排出枠の調達に加えて、適格クレジット(J-クレジット・JCMクレジット)の無効化で補填できます。ここがクレジットの使いどころです。
未履行なら上限価格の1.1倍の金銭負担
保有義務を果たせなかった場合、未履行分には上限価格(参考上限取引価格)の1.1倍の支払いが課されます。「第2フェーズは公表などの評判リスクだけ」という理解は誤りで、初回の履行期限から金銭負担が直接発生する設計です。
排出枠価格の高騰等により義務履行に支障が生じる状況として経済産業大臣が告示した場合には、上限価格に不足量を乗じた額の支払いで義務を履行したものとみなす価格安定化措置も用意されています。平時にいつでも選べる支払い手段ではありませんが、上限価格4,300円(2026年度)は対象企業の調達判断の参考線になります。
排出枠は無償配分:不足が出る企業は構造的に決まる
第2フェーズの排出枠は無償で配分されます。ただし配分は業種ごとの排出原単位ベンチマークに基づく方式が中心となる見込みで、同業他社より排出効率の悪い事業者ほど、配分と実排出のギャップが構造的に大きくなります。
「無償配分だから負担はない」とは限らず、ベンチマークを下回る効率の企業では毎年度不足が生じえます。その不足を、排出枠の追加調達・自社削減・適格クレジットのどの組み合わせで埋めるかが、対象企業の実務課題です。
適格クレジットはJ-クレジットとJCMの2種類だけ

義務の補填に使えるクレジットは、厳格に絞られています。この線引きを誤解したまま調達計画を立てると、使えないクレジットを抱えることになります。
適格の範囲:国内はJ-クレジット、海外はJCMのみ
GX-ETSで排出実績量から控除できる適格クレジットは、国内クレジットのJ-クレジットと、国際クレジットのJCMクレジットの2種類です。いずれも国が制度運営に関与し、削減量の算定・検証の枠組みを国が担保しているクレジットです。
J-クレジットは省エネ・再エネ・森林などの方法論による国内プロジェクト由来、JCMクレジットはパートナー国32か国での日本の技術・製品を活用したプロジェクト由来という違いがあります。主なクレジットのGX-ETSでの扱いを整理すると以下のとおりです。
| クレジットの種類 | GX-ETSでの利用 | 性格 |
|---|---|---|
| J-クレジット | 利用可(適格) | 国内制度。東証市場に上場し価格が公表される |
| JCMクレジット | 利用可(適格・唯一の海外クレジット) | 二国間制度。非上場・相対取引のみ |
| Verra(VCS)・Gold Standard等 | 利用不可 | 民間認証のボランタリークレジット |
| 第1フェーズの超過削減枠 | 第2フェーズへの持ち込み不可 | GXリーグ第1フェーズ内で完結 |
第1フェーズ(自主参加期)で取引されていた超過削減枠は、第2フェーズの保有義務には持ち込めない点にも注意してください。
VerraやGold Standardのボランタリークレジットは使えない
Verra(VCS)、Gold Standard、ACRなどのボランタリークレジットは、世界のカーボン・クレジット市場では主要な存在ですが、GX-ETSの保有義務の算定には利用できません。CDP回答や自主的なカーボンオフセットの文脈で保有しているボランタリークレジットがあっても、GX-ETSの履行には充てられない点に注意が必要です。
「クレジットなら何でも使える」わけではなく、用途ごとに使えるクレジットの種類が異なります。GX-ETS対応の調達は、J-クレジットとJCMの2択を前提に設計してください。
パリ協定6条4項に基づく国連管理型のクレジット(いわゆる6.4メカニズムのクレジット)も、現時点のGX-ETSの適格クレジットには含まれていません。国際的なクレジットの制度整備は進行中のため、将来の制度改定で適格範囲が見直される可能性はありますが、少なくとも第2フェーズの調達計画は現行の2種類を前提に組むのが確実です。
上限は2種類合計で「無効化前の実排出量の10%」
適格クレジットで控除できるのは、J-クレジットとJCMの無効化量を合計して、無効化量を控除する前の実排出量の10%までです。JCMだけに別枠で10%が与えられるわけではありません。基準は配分された排出枠(割当量)ではなく実排出量です。
実排出量が年20万t-CO2の企業なら、クレジットで充てられるのは最大2万t-CO2で、残りの不足分は排出枠そのものの調達か自社削減で埋める必要があります。クレジットはあくまで補完的な履行手段という位置づけです。
出典:GX-ETS第2フェーズの開始とJCMクレジット取引の今後|経済産業省
なぜJCMが「唯一の海外クレジット」なのか
海外クレジットの中でJCMだけが認められるのは、偶然ではなく制度設計の帰結です。理由を押さえておくと、今後の制度改定の方向も読みやすくなります。
パリ協定6条と相当調整:国の排出目標に算入できるから
JCMはパリ協定第6条2項の「協力的アプローチ」に基づく制度で、日本側に配分されたクレジットには相当調整(Corresponding Adjustment)が適用されます。パートナー国側がその分を自国の排出収支に加算して計上するため、同じ削減量が二重に主張されることがなく、日本のNDC(国が決定する貢献)の達成に正式に算入できます。
たとえばインドネシアの工場で1万t-CO2を削減し、日本側に5,000t分のクレジットが配分された場合、インドネシア側はパリ協定上の排出収支(NDC達成の算定)で5,000t分を加算する調整を行います。この調整があるからこそ、日本の国の制度であるGX-ETSが海外由来の削減量を正式な履行手段として認められるのです。
一般的なボランタリークレジットにはこの国家間の調整がなく、日本の排出目標には算入できません。適格範囲そのものは制度規則で「J-クレジットとJCM」に定められていますが、国の制度であるGX-ETSが国の目標に算入できるクレジットを適格とするのは一貫した設計です。相当調整の仕組みはパリ協定6条と相当調整の解説記事で詳しく扱っています。
国の目標:2030年度までに累積約1億トンの国際削減量を確保
政府は地球温暖化対策計画(2025年2月閣議決定)で、官民連携により2030年度までに累積約1億t-CO2、2040年度までに累積約2億t-CO2の国際的な排出削減・吸収量の確保を目標に掲げています。2025年4月にはJCMが温対法上で法制化され、実施機構(JCMA)が発足しました。
GX-ETSでJCMを適格とすることは、対象企業のクレジット需要をJCMプロジェクトの組成拡大につなげる政策的な回路でもあります。企業側から見れば、JCMの利用は制度が後押しする方向にあり、供給拡大策(民間資金プロジェクトの組成ガイダンス整備など)も毎年更新されています。
パートナー国は2013年の5か国から2026年4月時点の32か国まで拡大を続けており、約300件のプロジェクトが組成されています。民間主導のプロジェクト組成を促す組成ガイダンスは2023年の初版から2024年・2026年と改定を重ねており、供給サイドの拡大余地は大きいというのが当社の見立てです。
出典:民間資金を中心とするJCMプロジェクトの組成ガイダンス(2026年改定版)|環境省ほか
J-クレジットの供給制約:2種類しかない選択肢のもう片方が細い
適格クレジットが2種類しかない中で、J-クレジットの供給は年間100〜150万t-CO2の認証量にとどまっており、GX-ETS対象企業の需要が本格化すると需給の逼迫が見込まれます。当社が東京証券取引所カーボン・クレジット市場の市場参加者としてJ-クレジットを調達している実感でも、森林由来をはじめ供給の細さは恒常的です。
需要側の規模感も押さえておきます。対象企業がJ-クレジットとJCMを合計して利用上限10%まで使うと仮定すると、当メディアの試算では最大1,500〜2,000万t-CO2規模の需要枠が顕在化します。年間100〜150万t-CO2の認証供給しかないJ-クレジットだけで受け止められる規模ではありません。
GX-ETS対応でまとまった量のクレジットが必要な企業ほど、J-クレジット一本足ではなくJCMを組み合わせる必然性が高まる構図です。需給構造の詳細はJ-クレジット需給逼迫の解説記事を参考にしてください。
2種類合計の上限10%は何トン・いくらか【試算】

制度の枠組みを自社の数字に落とします。以下はJ-クレジットとJCMの合計上限をすべて使う参考試算であり、JCM単独に10%の別枠があるという意味ではありません。
実排出10万トンの企業なら年1万トン・約3,000万円から
実排出量が年10万t-CO2の企業(義務化対象の下限規模)を例にすると、適格クレジットで充てられる上限は年1万t-CO2です。JCMクレジットを当社確認の実勢である3,000円台前半で調達できれば、年間のクレジット費用は約3,000〜3,500万円になります。
同じ1万トンをJ-クレジットで調達する場合、2026年8月14日の東証基準値段は森林4,400円、省エネルギー4,950円、再エネ(電力)4,950円で、費用は4,400〜4,950万円です。当社確認のJCM実勢との差は、1万トン当たり約900万〜1,950万円になります。GX-ETSの参考上限取引価格4,300円は排出枠価格の参考線であり、JCM価格の上限でも、平時に自由に選べる調達単価でもありません。
排出規模別に上限量と年間コストの目安を整理すると、以下のとおりです。
| 実排出量(年) | 2種類合計の利用上限 | JCM実勢(3,000〜3,500円)の場合 | J-クレジット(4,400〜4,950円)の場合 |
|---|---|---|---|
| 10万t-CO2 | 1万t-CO2 | 約3,000〜3,500万円 | 約4,400〜4,950万円 |
| 20万t-CO2 | 2万t-CO2 | 約6,000〜7,000万円 | 約8,800〜9,900万円 |
| 50万t-CO2 | 5万t-CO2 | 約1.5〜1.75億円 | 約2億2,000万〜2億4,750万円 |
いずれも当社確認のJCM実勢と2026年8月14日時点の東証基準値段(森林・省エネ・再エネ電力)を置いた参考試算で、上限いっぱいまで一方の種類だけを使う場合の比較です。実際には2種類を組み合わせられ、必要量は排出枠の配分と自社削減の進み具合で決まります。
第2フェーズは2026年度から2032年度までの7年間続きます。仮に毎年1万t-CO2をクレジットで充て続けるなら、期間合計は7万t-CO2で、調達単価が1,000円違えば総額で7,000万円の差です。単年のスポット価格だけでなく、フェーズ全体の調達コストとして単価を見ることをおすすめします。
J-クレジットとJCMの単価差:同じ適格性でも調達費は変わる
GX-ETSの排出実績量から控除する用途に限れば、J-クレジットとJCMクレジットはいずれも適格です。2026年8月14日の東証基準値段と当社確認のJCM実勢を比べると、JCMは森林・省エネ・再エネ電力の各区分より1t-CO2当たりおおむね900〜1,950円低い水準です。
この価格差の背景には、JCMが取引所非上場で価格が不透明なこと、買い手側の認知がまだ低いことがあります。実勢を把握して調達できる企業にとっては、同じ履行効果をより低いコストで達成できる選択肢です。
一方で、調達の手間は価格差の対価でもあります。J-クレジットは東証市場で今日にでも買えるのに対し、JCMは売り手探し・条件交渉・移転手続きに時間がかかります。単価差と調達リードタイムをセットで比較してください。
価格コリドーの見通し:4,300円は年度ごとに見直される参考線
経済産業省が2025年12月19日に示した価格コリドーは、2026年度で上限4,300円・下限1,700円です。参考上限取引価格と調整基準取引価格は毎年度、年度開始前に設定されます。将来の水準が4,300円に固定されるわけでも、必ず上昇するわけでもありません。
下限1,700円には価格の下支えの機能があり、下限を下回る状況が続く場合の需給調整の仕組みも検討されています。制度側の想定レンジが1,700〜4,300円である以上、実勢3,000円台前半のJCMは「レンジ中央で買える適格クレジット」という位置づけになります。
上限価格の意味と海外ETSとの比較はGX-ETS上限価格の解説記事で詳しく扱っています。調達判断では、毎年度公表される価格とJCM・J-クレジットの実勢を同じ時点で比較してください。
出典:カーボン・クレジット市場日報(2026年8月14日)|東京証券取引所
調達から無効化・排出枠保有までの一気通貫実務

JCMクレジットをGX-ETSの履行に使うまでの実務は、4つのステップに整理できます。
ステップ1:JCM登録簿に法人口座を開設する
JCMクレジットの保有には、日本国JCM登録簿の法人等保有口座が必要です。GX-ETSの排出枠を管理するERMS(排出枠管理システム)の口座とは別のシステム・別の口座なので、両方を用意します。
JCM登録簿の口座開設はJCMA(JCM実施機構)への電子メール申請で、手数料14,400円、処理期間の目安は2週間程度です。一方のERMSは2026年6月から口座開設が始まっており、GビズID(プライムまたはメンバー)でアカウントを開設すると口座が自動的に開設されます。ERMS口座を開設できるのは制度対象者のみである点を含め(2026年7月に当社が事務局に確認)、開設手順の詳細は制度事務局の公表資料を確認してください。
出典:日本国JCM登録簿の利用に係る各種手続に関する手順書|JCM登録簿
ステップ2:相対で調達する(取引所はない)
JCMクレジットは東証カーボン・クレジット市場に上場しておらず、調達はすべて相対取引です。公表相場が存在しないため、複数の売り手からの見積りと実勢の物差しを持って交渉する必要があります。
契約時には、数量・単価に加えて、削減実現時期(ビンテージ)と発行日、政府配分後のネット数量であることの証憑を確認します。ビンテージと発行日は、温対法(SHK制度)での利用可否を左右する条件でもあるため、GX-ETSと温対法の両方で使う可能性があるなら、契約書で必ず特定しておくべき項目です。
調達ルートの選び方と売り手の審査方法はJCMクレジットの購入方法の解説記事で詳しく解説しています。
ステップ3:無効化して排出実績量から控除する
調達したクレジットをGX-ETSの履行に使うには、JCM登録簿上で無効化します。無効化量は排出実績量から控除され、その後に保有すべき排出枠の量が決まります。JCM登録簿の手順書では、政府保有口座への移転として扱う無効化の処理期間の目安を2週間としています。
GX-ETSへの反映手続きの詳細は制度事務局の公表資料に沿って処理することになります。確実なのは、社内の排出量報告と照合できるよう、期限直前ではなく余裕を持って無効化を済ませることです。
無効化の名義と記録の管理にも注意が必要です。どの口座の・どのクレジットを・どの年度の義務履行に充てたかを社内で追跡できる形にしておかないと、翌年度以降の報告や監査対応で照合に手間取ります。無効化通知・登録簿の記録・売買契約書は年度単位でひとまとまりに保管してください。
ステップ4:排出枠の保有義務日(翌年度1月31日)から逆算する
排出年度の翌年度1月31日は、確認済みの排出実績量と同量の排出枠を保有する義務日です。JCMクレジット単独の無効化期限ではありません。登録確認機関による排出量の確認、クレジットの調達・移転・無効化、不足する排出枠の調達という工程を逆算すると、調達の意思決定は排出年度のうちに始めておくのが安全です。
年度末や期限前は、JCMAへの移転申請や無効化の処理が集中しうるため、手続きの実施主体と処理期間を早めに確認してください。JCMは移転に原則としてJCMAへの申請と手数料納付の工程が挟まるため、J-クレジット以上に前倒しの調達が必要です。
初回の保有義務日(2028年1月31日)を例に逆算すると、2027年夏までに不足量の見込みを固め、秋までに調達契約、年内に移転・無効化を進め、年明けに排出枠の保有量を最終確認する工程が安全です。移転・無効化にはJCMAの納付確認や処理期間があるため、直前着手は避けてください。
調達戦略:いつ・どの価格帯で・どう買うか

制度と実務を踏まえて、対象企業(および対象化が見込まれる企業)の調達戦略を3点に整理します。前提として、制度の主なスケジュールは次のとおりです。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年4月 | 義務化フェーズ(第2フェーズ)開始。対象企業への排出枠の無償配分 |
| 2027年度秋(予定) | GX推進機構が排出枠取引市場を開設 |
| 2028年1月31日 | 2026年度排出分の初回の排出枠保有義務日 |
| 2028年度 | 化石燃料賦課金の導入 |
| 2033年度以降 | 第3フェーズ。排出枠の有償オークション導入 |
排出枠取引市場は2027年度秋開設:それまでの調達は相対のみ
配分された排出枠を売買する排出枠取引市場は、GX推進機構が2027年度秋頃に開設する予定です。市場参加者は①制度対象事業者に加え、②カーボン・クレジットについて一定の取引経験を有する取引業者(マーケットメイカー等)の2類型が認められる方針で、詳細はGX推進機構の業務方法書で定められます。
当社が2026年7月にGX-ETS事務局(GX推進機構カーボンプライシング部)へ直接照会したところ、市場参加者の要件を含めた市場設計は「政府における今年度の検討事項」との回答でした。市場開設までの間は、排出枠も適格クレジットも調達は相対が中心で、公表価格を参照できる調達手段は限られます。
需要の立ち上がり前に単価を固定する
GX-ETSのクレジット需要は、初回の排出枠保有義務日(2028年1月31日)に向けて段階的に顕在化します。J-クレジットの供給制約を踏まえると、需要の本格化後は適格クレジット全体の需給がタイト化する公算が大きく、実勢3,000円台前半のJCMが安く買える局面が続く保証はありません。
不足量の見込みが立った時点で、複数年分の数量を単価とセットで押さえる(長期契約・オフテイク)ことが、履行コストの変動を抑える有力な方法です。長期契約には売り手の発行遅延・数量未達のリスクが伴うため、代替供給や解約の条件までを契約に織り込みます。
排出枠そのものとクレジットの使い分けは、市場開設後の価格次第です。市場開設後は、排出枠の市場価格と適格クレジットの実勢を比較し、J-クレジットとJCMの合計上限10%を守りながら組み合わせるのが基本戦略になります。
単年のスポットと複数年契約を組み合わせる
実務では、確定した不足分をスポットで、将来分を開発段階案件への前払い型(2,000円台後半〜)で仕込む組み合わせが有効です。前払い型は単価が安い分、プロジェクトの発行リスクを負うため、売り手の発行実績・配分証憑の審査が欠かせません。
カーボンリンクは、JCMでは買い手・投資家・オフテイカー候補の紹介と、用途・数量・希望時期・価格感などの条件整理を支援しています。発行リスクや売り手の確認に専門的な判断が必要な場合は、責任主体を明確にしたうえで関係者との進行を調整します。
これから対象になる企業・対象外の企業の動き方
現時点で対象外でも、事業拡大や拠点の追加で直近3か年度平均が10万t-CO2に近づいている企業は、対象化を前提とした準備を始めるべき段階です。排出量の算定体制の整備と並行して、JCM登録簿の口座開設(約2週間)や少量のトライアル調達など、コストの小さい準備は先行して済ませられます。
対象外のままの企業にとっても、JCMクレジットは温対法の調整後排出量の削減や、取引先からの排出削減要請への対応手段として機能します。GX-ETS対象の大企業がサプライチェーン全体に削減を求める構図が強まるほど、非対象の中堅企業にもクレジット活用の場面は増えていきます。
よくある質問(FAQ)
Q. VerraやGold Standardのクレジットは本当にGX-ETSで使えませんか?
使えません。
GX-ETSの排出実績量から控除できるのはJ-クレジットとJCMクレジットの2種類のみで、ボランタリークレジットは適格外です。
保有しているボランタリークレジットは、自主的なオフセットの表明など別の用途で活用することになります。
Q. JCMクレジットはどこで買えますか?
取引所では買えません。
JCMクレジットは東証カーボン・クレジット市場の取扱対象外で、保有者・開発事業者との相対取引か、専門事業者経由での調達になります。
公表相場が存在しないため、複数の売り手からの相見積りと実勢の物差しを持って交渉することが大切です。
Q. 上限10%は排出枠(割当量)の10%ですか?
いいえ、無効化量を控除する前の実排出量の10%です。
配分された排出枠の量ではなく、登録確認機関の確認を受けた実排出量が基準になります。上限はJ-クレジットとJCMの無効化量の合計に適用されます。
実排出量が年10万t-CO2なら、クレジットで充てられるのは最大1万t-CO2です。
Q. GX-ETSの対象でない企業にもJCMクレジットは関係ありますか?
あります。
温対法の算定・報告・公表制度(SHK制度)では、JCMクレジットの無効化により調整後排出量を減らせます(削減実現時期と発行日による条件があります)。
取引先からの排出削減要請への対応や、自主的なカーボンオフセットにも活用できます。
Q. 排出枠が足りない場合、全部クレジットで埋められますか?
埋められません。
適格クレジットで控除できるのは、J-クレジットとJCMを合計して実排出量の10%までです。それを超える不足分は排出枠の調達(市場・相対)か自社削減で対応する必要があります。
どうしても未履行となった分には、上限価格の1.1倍の金銭負担が発生します。
まとめ:2種類合計の上限内で、価格と供給を見て組み合わせる
GX-ETSの排出実績量から控除できるクレジットはJ-クレジットとJCMの2種類だけで、上限は両者を合計して無効化前の実排出量の10%です。JCMはパリ協定6条の相当調整により国の排出目標に算入できる、制度上唯一の海外クレジットです。ボランタリークレジットや第1フェーズの超過削減枠は使えないため、調達計画はこの2択を前提に組む必要があります。
同じ適格クレジットであっても、当社が確認するJCMの実勢単価は3,000円台前半で、2026年8月14日のJ-クレジット主要区分よりおおむね900〜1,950円低い水準です。J-クレジットの供給制約を考えれば、まとまった量が必要な企業ほどJCMを組み合わせる価値が大きくなります。難点は取引所も公表相場もないことで、実勢を知らない買い手は高値をつかみやすい構造です。
カーボンリンクは、J-クレジットの候補提示・売買・代理無効化と、JCMの買い手・投資家・オフテイカー候補の紹介・条件整理を支援しています。GX-ETSで使う用途、数量、希望時期、予算感が固まった段階で、取引条件を個別に確認します。

