金融機関のカーボンオフセット付き商品は、①カーボンオフセット型私募債、②J-クレジット預金(定期預金)、③オフセット付きローン・リース、④ビジネスマッチング・クレジット創出支援の4類型に整理できます。いずれもJ-クレジットなどのカーボン・クレジットを金融商品に組み込み、取引先の脱炭素ニーズに応える設計です。
本記事では、私募債12行をはじめ預金・ローン・リースの全国事例をもとに、銀行・信用金庫がオフセット付き商品を作るための類型選び、スキーム設計、クレジット調達、無効化の運用までを解説します。2026年4月にGX-ETS(排出量取引制度)が法的義務を伴う本格稼働に移行し、取引先企業の排出量への向き合い方が変わる中で、金融機関の商品棚に環境価値を載せる動きが広がっています。
この記事を読むことで、自行に合った商品類型を選び、先行行の事例を根拠に企画を通し、法的根拠と税務まで整理した状態で商品組成に着手できるようになります。
- 金融機関がカーボン・クレジットを取り扱える法的根拠(銀行法の付随業務)
- 私募債・預金・ローン・ビジネスマッチングの4類型の仕組みと比較
- カーボンオフセット型私募債12行、J-クレジット預金・ローンの全国事例
- クレジット調達ルートの作り方と、募集総額から必要トン数を逆算する方法
- 「償却型」と「寄付型」の違い、会計・税務・表示の注意点
金融機関がカーボンオフセットを扱える根拠と市場環境
商品設計に入る前に、そもそも銀行がカーボン・クレジットを扱ってよいのか、という法的な土台を確認します。結論として、銀行本体による取扱いは制度上明確に認められています。
銀行法上の位置づけ:2008年解禁と金融庁Q&A
銀行本体がカーボン・クレジットの売買や媒介を行える根拠は、銀行法第10条第2項第14号の付随業務(算定割当量その他これに類似するものの取引)です。2008年の金融商品取引法等改正(平成20年法律第65号)で銀行・保険会社本体への排出権取引が解禁され、以来この枠組みで運用されています。
金融庁は「カーボン・クレジットの取扱いに関するQ&A」(2022年12月26日策定、2024年6月26日改訂)で、J-クレジット、JCMクレジット、GXリーグの超過削減枠がこの「類似するもの」に該当すると明文で確認しました。保険会社は保険業法第98条第1項第8号が対応条文で、信用金庫についても銀行法に準じた枠組みで同様の取扱いが行われています。
GX-ETSの義務化と「109.5億円早期完売」が示す需要
2026年4月から、GX-ETSはCO2を年間10万トン以上排出する300〜400社を対象に、法的義務を伴う本格稼働に移行しました。対象企業だけでなく、そのサプライチェーンに連なる中堅・中小企業にも排出量の算定・削減の要請が波及しつつあります。
金融庁も2024年6月から2025年5月にかけて「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等検討会」を計7回開催し、2025年6月20日に報告書を公表しました。内容は新規制の導入ではなく取引の透明性・健全性向上に向けた論点整理で、クレジット取引の拡大を前提に市場インフラを整える方向性が示されています。金融機関にとっては、規制強化よりも市場整備が先行している局面です。
出典:カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会報告書|金融庁
商品需要はすでに数字で実証されています。あいち銀行が2026年2月に取扱いを始めた「あいぎんJ-クレジット定期預金」は、募集総額100億円に対して120件・109.5億円の預入れが集まり、募集期間の途中である2026年3月13日に受付を終了しました。
続く2026年7月には、肥後・大分・宮崎・鹿児島の4行が共同で「九州J-クレジット預金」(募集枠は各行30億円、4行合計120億円)の取扱いを開始しています。法人預金の獲得競争が続く中で、環境価値を付けた預金が資金を集める商品として機能することが愛知で示され、他地域でも同型商品の投入が続いています。
出典:「あいぎんJ-クレジット定期預金」の預入れ結果について|あいち銀行
カーボンオフセット付き金融商品の4類型【比較表】
金融機関がカーボン・クレジットを組み込める商品は、大きく4類型に分かれます。まず全体像を押さえてから、各論に入ります。

4類型の仕組みと代表例
4類型の仕組み、原資、代表例は以下のとおりです。
| 類型 | 仕組み | 原資の出どころ | 代表例 |
|---|---|---|---|
| ①カーボンオフセット型私募債 | 私募債の発行手数料の一部でクレジットを購入し、自治体施設や発行企業の排出をオフセット | 銀行負担(発行額の0.1〜0.2%相当を手数料収入から充当) | 横浜銀行・名古屋銀行・七十七銀行など12行 |
| ②J-クレジット預金 | 満期時元本に応じたクレジットを無効化し、預金者のオフセットに充てる | 銀行負担(調達原価は非公開) | 商工中金、あいち銀行、九州4行 |
| ③オフセット付きローン・リース | 融資・リース契約に排出量相当のクレジット調達・無効化を組み込む | 顧客が調達料金を負担(日本生命の例で融資額の0.05〜0.1%) | りそな銀行、日本生命、三菱HCキャピタル |
| ④ビジネスマッチング・創出支援 | クレジットを創出・購入したい取引先を専門事業者へ紹介する | 商品組成なし(紹介・仲介) | みずほ銀行、北海道銀行、信金中金 |
①②が「銀行がクレジット費用を持つ」設計、③が「顧客が費用を持つ」設計、④が「商品を作らず接点だけ持つ」設計です。同じオフセット付き商品でも、費用負担者と受益者の組み合わせが類型ごとに異なる点が、企画段階で最初に押さえるべき軸になります。
どの類型から始めるか:選び方の目安
すでにSDGs私募債や寄贈型私募債を扱っている金融機関であれば、①私募債型が最短です。既存商品の寄贈スキームを土台に、寄贈の中身を「クレジット購入によるオフセット」に改める設計で、発行企業に追加負担を求めずに組成できます(クレジット調達や無効化の運用設計は別途必要です)。
法人預金の獲得を強化したい場合は②預金型、融資・リースの本業に環境価値を直結させたい場合は③ローン型が候補です。商品組成の体制が整う前でも、④の顧客紹介契約から始めて取引先のニーズを把握し、後から自行商品に発展させる段階的な進め方が実務では多く見られます。
類型①:カーボンオフセット型私募債の作り方
私募債型は、4類型の中で最も導入行が多い型です。2023年の横浜銀行・名古屋銀行を皮切りに、2024〜2025年にかけて全国の地方銀行へ広がりました。

スキームは3類型:自治体型・発行企業型・補助金型
カーボンオフセット型私募債のスキームは3つに分かれます。最多数派は、銀行が発行企業から受け取る発行手数料の一部(発行額の0.1〜0.2%相当)でJ-クレジット等を購入し、県や市が所管する公共施設・イベントの排出をオフセットする「自治体オフセット型」です。名古屋銀行、七十七銀行、広島銀行、静岡銀行、香川銀行などがこの型を採っています。
第二の型は、同じ原資でオフセット対象を発行企業自身のスコープ1・2排出に切り替えた「発行企業オフセット型」です。横浜銀行は初代「横浜ゼロ」(2023年、自治体型)から後継の「横浜ゼロⅡ」(2025年1月)でこの型に転換しており、オフセット対象の設計が自治体支援から発行企業支援へ広がっていることを示す事例です。
第三の型は伊予銀行の「補助金型」で、銀行はクレジットを購入せず、発行企業が自らJ-クレジットや非化石証書を購入する費用や排出量可視化コンサルの導入費用に対して、発行額×0.2%(上限50万円)の補助金を交付します。発行企業が購入・無効化の主体になるため企業側に実務が残る一方、クレジットを購入・無効化した場合のオフセット効果は発行企業自身に帰属します。
全国12行の事例比較
2026年7月時点で確認できる主な導入行は以下のとおりです。
| 銀行 | 取扱開始 | クレジット充当率 | オフセット対象 |
|---|---|---|---|
| 横浜銀行(横浜ゼロⅡ) | 2025年1月 | 発行額の0.1% | 発行企業自身のスコープ1・2 |
| 群馬銀行 | 2024年7月 | 非公開 | 群馬県所管施設または発行企業 |
| 名古屋銀行 | 2023年9月 | 発行額の0.1% | 愛知県所管の施設・イベント |
| 北陸銀行・北海道銀行 | 2024年6月 | 発行額の0.2%以内 | 富山・福井県施設/道内国立公園等 |
| 七十七銀行 | 2024年4月 | 発行額の0.1%上限 | 宮城県・仙台市の施設・イベント |
| 福井銀行 | 2025年4月 | 発行額の0.2%以内 | 福井県立恐竜博物館 |
| 広島銀行 | 2024年1月 | 発行額の0.2%以内 | 広島県・広島市の施設 |
| 伊予銀行 | 2024年8月 | 補助金0.2%(上限50万円) | 発行企業自身 |
| 京葉銀行 | 2025年3月 | 0.1%+森林組合へ0.1%寄付 | 千葉県等の公共施設 |
| 静岡銀行 | 不明 | 発行額の0.1%目安 | 静岡県主催イベント |
| 香川銀行 | 2025年4月 | 発行額の0.1% | 高松市の広報誌発行等 |
実績も積み上がっています。七十七銀行は2024年9月末までに11社が発行し、宮城県・仙台市にそれぞれ120トン分のクレジットを贈呈しました。取扱開始から半年での実績であり、地方の中堅企業への浸透の速さを示しています。
原資構造:発行企業の追加負担はゼロが標準
自治体型・発行企業型のいずれも、発行企業が上乗せ費用を払うのではなく、銀行が受け取る発行手数料(保証料・引受手数料)の一部を銀行自身の負担でクレジット購入に充てるのが標準設計です。発行企業から見れば、通常の私募債と同じコストで脱炭素貢献のPR材料が付いてくることになります。
広島銀行の2025年度実績では、私募債取扱総額1億5,000万円に対し、広島県・広島市それぞれにJ-クレジット21t-CO2(15万円相当額)ずつを寄付しています。取扱総額に対するクレジット原価は0.2%と小さく、銀行にとっては手数料収益の範囲内で負担できる規模です。スキーム設計と行内稟議の通し方の詳細は、カーボンオフセット型私募債の解説記事で掘り下げています。
類型②:J-クレジット預金・カーボンニュートラル定期預金の作り方
預金型は2024年末に商工中金が口火を切り、2026年に入って地銀へ広がっている最も新しい型です。冒頭で触れたあいち銀行の109.5億円早期完売が、その資金吸引力を示しました。

償却型:満期時元本に応じてオフセットを付与する設計
J-クレジット預金の基本形は、満期時元本5,000万円につき5t-CO2分の森林由来J-クレジットを無効化(償却)し、預金者のCO2排出のオフセットに充てる設計です。国内初の商工中金「J-クレジット預金」(2024年12月発表、募集総額100億円)がこの換算を採用し、あいち銀行、九州4行も同じ5,000万円=5t-CO2の水準で追随しました。
対象は法人の新規資金に限定し、預入期間1年、中途解約時はオフセット特典なし、という設計も3商品で共通です。クレジットの調達とオフセット手続きは、商工中金がイトーキ、あいち銀行と九州4行がバイウィルと、いずれもJ-クレジットの専門事業者(プロバイダー)と提携して実装しています。
寄付型・資金使途限定型との違いに注意
「カーボンニュートラル定期預金」「サステナビリティ定期預金」という名称の商品がすべてクレジットを使うわけではありません。東邦銀行の「つながる未来」は預入総額の0.01%相当額を銀行負担で環境基金等に寄付する寄付型、武蔵野銀行の「むさしのサステナビリティ定期預金」も預入額の0.02%を5団体に寄付する寄付型で、いずれもクレジットの無効化は行いません。
三井住友銀行の「グリーン預金」や三十三銀行の「サステナブル預金」は、預金を再エネ等の融資に充てることを約束する資金使途限定型で、これもオフセットとは別物です。CO2排出の埋め合わせ(オフセット)が成立するのはクレジットを無効化する償却型だけであり、商品名だけで3類型を混同すると、顧客への説明でも競合分析でも判断を誤ります。
出典:サステナビリティ定期預金「つながる未来」の取扱開始について|東邦銀行
設計の要点:クレジット原価と供給枠を先に固める
5,000万円=5t-CO2という換算の原価を確認します。東京証券取引所のカーボン・クレジット市場の基準値段は、2026年7月時点で森林由来4,400円/t-CO2前後です。5t分で2万円強、元本に対して0.04%程度となり、預金金利に換算してもわずかな上乗せでオフセット特典が付けられる計算です。
当社が相対で取り扱う地域限定の森林由来クレジットの実勢は5,000〜6,000円台からで、県単位まで限定すると1万円を超えることもあります。その場合でも原価は元本の0.1%程度にとどまります。
見落とされやすいのは供給枠です。募集総額100億円の預金が完売すると、満期時に約1,000t-CO2の森林由来クレジットが必要になります。当社がクレジット供給側として金融機関案件に関わる実務では、地域限定の森林由来はそもそも新規発行量が細く、募集開始後に慌てて集められる量ではないため、募集総額から必要トン数を逆算し、発行者との複数年契約や代替クレジットの取り決めまで含めて募集前に枠を押さえておくことを必須の工程としています。クレジット種類ごとの価格水準はJ-クレジットの価格相場の解説を参考にしてください。
類型③:カーボンオフセット付きローン・リースの作り方
ローン・リース型は、融資や設備導入という金融機関の本業の接点に、排出量相当のクレジット調達・無効化を組み込む型です。私募債型・預金型と違い、クレジット費用を顧客が負担する設計が主流です。
融資実行時オフセット型:りそな銀行・日本生命
りそな銀行の「カーボンオフセットサポート融資」(2024年9月開始)は、融資契約と同時に、融資金額に応じた排出量をクレジット購入でオフセットする商品です。J-クレジット3種(森林・再エネ・省エネ由来)とボランタリークレジット3種から顧客が選べる点が特徴で、調達は資本業務提携先のウェイストボックスが担います。融資金額5,000万円以上、事業性資金限定です。
日本生命は2025年4月に「ニッセイ・カーボンオフセットローン」を開始しました。融資実行時にCarbon EX社がクレジットを提供し、調達料金は融資金額の0.1%相当を顧客が負担する設計です。排出量見える化システムをセットにした「サポートローン」(調達料金0.05%+システム利用料6か月分)との2商品体系で、算定から相殺までを融資に同梱しています。
出典:「カーボンオフセットサポート融資」の取扱開始について|りそなホールディングス
リース・割賦組み込み型:車両・設備の排出をまとめて処理
リースでは、三菱HCキャピタルが「B+Alpha」ブランドでカーボンオフセット付きリース・割賦を提供し、リース期間中の排出に対するクレジット購入・無効化手続きを一括代行しています。
日本カーソリューションズの「カーボンクレジット付リース」は、車両のリース期間中の排出量を燃費等から試算し、東京センチュリーがJ-クレジットの購入・無効化を行って顧客に無効化通知書を交付する設計です。2025年8月には建機レンタル大手アクティオの業務用車両107台への導入例が公表されています。
EV化が難しい車両を抱える企業に「ガソリン車のままでも排出に手当てできる」選択肢を提供する型であり、金融機関系リース会社が自社商品として組成しやすい領域です。
出典:カーボンオフセット付きリース/割賦|三菱HCキャピタル
地域連動型:三島信用金庫の地産地消スキーム
信用金庫の規模でも実装例があります。三島信用金庫は2024年10月に御殿場市が創出したJ-クレジットを購入し、「さんしんカーボンオフセットローン」の利用企業が支払う利息の一部をクレジットに換算して同市へ寄付、市制施行70周年記念式典の排出をオフセットしました。融資金額500万円から、固定金利年0.95%の期間限定商品です。
自治体が創出したクレジットを地元金融機関が買い、地元企業の融資を通じて自治体に還元する地産地消の循環は、大手にはない地域金融機関ならではの物語になります。
出典:さんしんカーボンオフセットローンの取扱いについて|三島信用金庫
類型④:ビジネスマッチング・クレジット創出支援
商品を組成しなくても、取引先とクレジット専門事業者をつなぐ形で環境価値ビジネスに参入できます。公表ベースでは、紹介契約や自治体との協定の形で関与する金融機関が数多く確認できます。
顧客紹介契約:最も軽い参入形態
基本形は、クレジットの創出・購入ニーズを持つ取引先を専門事業者に紹介する顧客紹介契約です。専門事業者側の公表によれば、みずほ銀行が2024年3月に締結した契約は金融機関との顧客紹介契約として34件目にあたり、その時点で金融機関からの紹介顧客は累計600件を超えています。
紹介手数料の料率はいずれの案件でも公開されていませんが、銀行側は自前の商品を組成せずに取引先の脱炭素ニーズに応えられるため、地銀・信金の参入形態として定着しています。
出典:みずほ銀行とバイウィルが顧客紹介契約を締結|バイウィル
自治体×金融機関×専門事業者の三者協定
一歩進んだ形が、森林を保有する自治体・金融機関・専門事業者の三者協定です。自治体の保有林からJ-クレジットを創出し、金融機関が地元の買い手企業を紹介し、専門事業者が登録申請からモニタリング、販売までを代行する分業で、売却収益は森林整備や地域振興に還元されます。
この型は2026年に入って月1〜2件のペースで全国に量産されており、北海道銀行は佐呂間町・興部町・大樹町、中国銀行は津山市、大垣共立銀行は白川村、山口銀行はグループ会社を含む4者で美祢市と、それぞれ協定を結んでいます。クレジットの「創出側」に立つこの動きは、自行商品(私募債・預金)で使う地元産クレジットの調達源確保にもつながりえます。
出典:美祢市有林のJ-クレジット創出・活用に関する連携協定|山口銀行
信用金庫業界の一斉参入:しんきんグリーンプロジェクト
信用金庫業界では、信金中央金庫が2022年4月に始動した「しんきんグリーンプロジェクト」に254金庫・7,077店舗(2025年2月時点)が参加し、排出量の見える化から省エネ診断、金利優遇ファイナンスまでの支援メニューを共通化しています。2024年12月にはクレジット専門事業者との連携を開始し、中小企業や森林組合のJ-クレジット創出代行までメニューに加わりました。
個別の信金が単独で商品を組成しなくても、業界共通の枠組みに乗る形で取引先の脱炭素支援に参入できる状態が整っています。
導入実務:商品化の5ステップ
類型を選んだら、商品化は次の5ステップで進めます。先行行の公表資料から読み取れる標準的な工程に、クレジット供給側から見た実務上の勘所を加えて解説します。
ステップ1:商品類型と対象顧客を決める
最初に、4類型のどれで、誰の排出を、誰の負担でオフセットするかを一枚で確定します。既存のSDGs私募債があるなら私募債型の派生、法人預金の獲得目標があるなら預金型、というように既存の営業目標に接続すると行内の合意形成が早くなります。
このとき「オフセットの受益者」を曖昧にしないことが後工程の分岐点になります。自治体型なら地域貢献PR、発行企業型なら企業自身の脱炭素実績と、訴求できる内容が変わるためです。
ステップ2:クレジットの調達ルートと供給枠を確保する
調達ルートは主に、専門事業者(プロバイダー)との提携、自治体や森林組合など創出者からの直接相対購入、取引所での市場調達の3つです。先行事例では商工中金×イトーキ、あいち銀行×バイウィル、りそな×ウェイストボックスのように提携型が主流で、地産地消を打ち出す場合は三島信金のような自治体直接購入が使われています。
募集型商品(預金・私募債)では、募集総額から必要トン数を逆算した供給枠の事前確保が不可欠です。当社が金融機関向けにクレジットを供給する際も、単価だけでなく、由来地域の指定可否、発行時期、調達不能時の代替種別まで契約で固めることを推奨しています。地域限定クレジットは希少性が訴求力の源泉である反面、供給の細さがそのままリスクになるためです。
ステップ3:法務・会計・税務を整理する
法務面は前述のとおり銀行法の付随業務で整理できますが、行内では金融庁Q&Aの該当箇所を根拠資料として稟議に添付するのが確実です。あわせて、J-クレジット等は金融商品取引法上の有価証券に該当しないため、金商法の販売規制ではなく、商品説明の適切性という観点で社内ルールを整えます。
税務面では、発行企業や預金者に説明できる材料として、クレジットを無効化した場合の損金算入の取扱い(後述)を整理しておきます。顧客がクレジット費用を負担する類型(ローン型・補助金型)では、この説明が営業ツールになります。
ステップ4:無効化と証憑の運用を設計する
オフセットは、クレジットを購入しただけでは成立せず、登録簿システム上の無効化(使用済み処理)によって完成します。誰の名義で無効化するか(九州J-クレジット預金は顧客名義と明示)、無効化通知書を顧客にいつ渡すか、満期や発行からどの期間内に処理するか(九州4行は初回満期月の翌々月末まで)を商品要項に落とし込みます。
当社が代理無効化を担う案件の実務では、年度末や決算期に無効化申請が集中するため、寄贈式や顧客への報告時期から逆算した申請スケジュールを組んでおくことが運用安定の要になります。無効化手続きの実務はJ-クレジットの無効化手続きの解説で詳しく扱っています。
ステップ5:公表・寄贈式・実績報告を型にする
先行行の多くは、取扱開始時のプレスリリースと寄贈式・実績公表をセットで運用しています。福井銀行は私募債発行年度の翌年度6〜7月頃に県立恐竜博物館で寄贈式を開催すると商品要項に明記し、七十七銀行や広島銀行は年度ごとの贈呈実績(トン数・相当額)を公表しています。
オフセット付き商品は、発行企業・預金者にとって「対外的に語れること」が価値の中核です。公表の場をあらかじめ用意しておくことが、商品の価値を顧客に実感させる仕掛けになります。
会計・税務・表示の注意点
最後に、商品設計の詰めでつまずきやすい3つの論点を整理します。いずれも顧客への説明品質に直結する部分です。
無効化したクレジットは寄附金として損金算入できる
法人が購入したJ-クレジットを無効化口座に移転(オフセットに使用)した場合、無効化された日を含む事業年度に、その価額相当額を「国等に対する寄附金」として損金算入できます(国税庁が2014年に確認、JCMクレジットも2016年に同様の枠組みを確認)。国内法人からの有償購入であれば、消費税は課税仕入れとして仕入税額控除の対象です。
一方、無効化せずに保有し続ける場合の会計処理は取得目的によって扱いが分かれるため、商品説明では「無効化まで行った場合」の取扱いであることを明確にし、個別の会計処理は顧客の顧問税理士・監査人に確認を促す建付けが安全です。
出典:J-クレジットの取引に係る税務上の取扱いについて|J-クレジット制度事務局
出典:JCMクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて|国税庁
「誰の排出がオフセットされたか」を正確に表示する

自治体オフセット型の私募債では、無効化されたクレジットは自治体施設の排出に充当され、発行企業自身の排出のオフセットには使われません。名古屋銀行が商品概要に「発行企業自身のオフセットには活用できない」と明記しているように、発行企業が「当社はカーボンオフセットを実施」と対外表示すると誤認を招くおそれがあります。
商品組成時には、顧客が使ってよい表現(例:オフセットに貢献、地域の脱炭素に協力)と使えない表現(例:自社排出をオフセット済み)を整理した表示ガイドを付けることを推奨します。これは商品全般の表示ルールと共通の論点で、詳細はカーボンオフセット商品の作り方の解説でも扱っています。
提携条件・手数料は非公開が通例:他行比較は構造で行う
先行事例の調査では、専門事業者との紹介手数料率や、預金型商品の銀行側損益の内訳を公開している例は1件もありませんでした。公表資料から分かるのは役割分担と、商品によってはクレジット充当率までです(群馬銀行のように充当割合まで非公開の例もあります)。
したがって他行比較は「手数料がいくらか」ではなく、費用負担者・オフセット受益者・クレジットの由来という構造の比較で行うのが実務的です。本記事の類型整理は、そのための比較軸として使えるように組んでいます。
よくある質問(FAQ)
Q. 銀行や信用金庫がカーボン・クレジットを取り扱うことは法律上問題ありませんか?
銀行については問題ありません。
銀行法第10条第2項第14号の付随業務として整理されており、金融庁のQ&AでJ-クレジット・JCMクレジット・GXリーグ超過削減枠の取扱いが可能と明文で確認されています。2008年の法改正で銀行本体への排出権取引が解禁されて以来、15年以上の運用実績がある枠組みです。
信用金庫でも私募債型・ローン型の実装例があり同様の取扱いが定着していますが、根拠条文の整理は銀行法と異なるため、商品組成時には自庫の業務範囲として個別に確認してください。
Q. カーボンオフセット付き商品の費用は誰が負担するのですか?
類型によって異なります。
私募債型と預金型は銀行が手数料収益や商品原価の範囲で負担し、顧客に追加負担はありません。ローン型は顧客が調達料金を負担する設計で、日本生命の例では融資額の0.05〜0.1%相当です(りそな銀行は所定の手数料と公表しています)。
いずれの類型でも、クレジットに係る費用は対象金額の0.2%以下という商品性を壊さない水準に設計されています。
Q. J-クレジット預金と寄付型のサステナビリティ定期預金は何が違いますか?
無効化の有無が違います。
J-クレジット預金はクレジットを実際に無効化し、預金者のCO2排出をオフセットします。寄付型は預入額の一定割合を環境団体等に寄付するだけで、クレジットの無効化は行わず、オフセットは成立しません。
名称が似ていても効果がまったく異なるため、商品企画でも顧客説明でも「無効化の有無」で区別してください。
Q. クレジットはどこから調達すればよいですか?
主なルートは3つあります。
専門事業者(プロバイダー)との提携、自治体や森林組合など創出者からの直接相対購入、東京証券取引所のカーボン・クレジット市場での調達です。地域性を訴求する商品なら地元由来クレジットの相対調達、汎用的な商品なら市場調達が向いています。
募集型商品では、募集総額に対応する供給枠を募集開始前に確保しておくことが最も重要です。
Q. 小規模な信用金庫でも導入できますか?
できます。
三島信用金庫は融資金額500万円からの期間限定ローンで、自治体創出クレジットの地産地消スキームを実装しました。
単独での商品組成が難しい場合も、しんきんグリーンプロジェクトの共通メニューや顧客紹介契約から始める段階的な参入が可能です。
まとめ:類型選びと調達設計が成否を分ける
金融機関のカーボンオフセット付き商品は、私募債・預金・ローン・リース・ビジネスマッチングの4類型に整理できます。銀行法の付随業務としての明文確認、無効化時の税務の取扱い、そして12行超の先行事例が揃っており、銀行にとっては着手可能な状態です。あいち銀行の109.5億円早期完売のように需要の強さを示す事例も出ており、取扱いのない地域・類型はまだ多く残っています。
商品化の成否を分けるのは、クレジットの調達設計です。募集総額からの必要トン数の逆算、由来地域の指定、無効化の名義と時期、顧客に渡す証憑と表示ガイドまでを商品要項に落とし込めれば、金融商品としての完成度で差別化できます。
当社カーボンリンクは、J-クレジット・JCMクレジットの調達から無効化代行、金融商品への環境価値の組み込み設計までを一気通貫で支援しています。商品企画の初期段階からの壁打ちも歓迎です。
オフセット付き商品の設計からクレジット供給までの支援内容は、オフセット商品開発支援のサービス案内で詳しくご案内しています。

