企業・自治体によるカーボンオフセットの事例は、①ゆかりの地型 ②商品CN(カーボンニュートラル)型 ③イベント型 ④地域連携型の4つのストーリー型に整理できます。どの型も土台はJ-クレジットなどのクレジットを購入して無効化することですが、「どこの・どんなクレジットを、何のために使うか」の組み立て方によって、単なる購入で終わるか、社内外に語れる取組になるかが分かれます。
本記事では、J-クレジット制度の公式事例集と各社・各団体の公式発表・報道をもとに、企業や自治体がカーボンオフセットをどのように事業や地域と結びつけて発信してきたかを、実例15件で解説します。2026年4月にGX-ETSが本格稼働し、企業のクレジット活用が制度対応だけでなく対外発信の観点でも注目されるいま、自社の取組を「買って終わりにしない」ものにするための参考にしてください。この記事では、事例を型として分類したうえで、実際の調達実務(産地選定・無効化・発信)と結びつけて、自社で再現するための手順まで扱います。
この記事を読むことで、自社の事業内容や拠点に合ったオフセットの型を見つけ、事例を根拠にした説明力のある取組を設計するヒントが得られます。
- カーボンオフセットの事例を分類する「4つのストーリー型」の考え方
- 創業の地・本拠地の森を守る「ゆかりの地型」の実例4選
- 商品・サービスに組み込む「商品CN型」の実例4選
- 試合・大会・祭りをオフセットする「イベント型」の実例4選
- 自治体と連携する「地域連携型」の実例3選と、自社に合う型の選び方・費用相場
カーボンオフセットの事例は「4つのストーリー型」で読むとわかりやすい
カーボンオフセットの事例を並べて見ると、扱う排出量や産業はさまざまでも、「何を対象に、どういう関係性でクレジットを選んでいるか」という軸で4つの型に分けられることがわかります。J-クレジット制度が公開している事例集や企業のプレスリリースを見比べると、この4つの型が繰り返し現れます。

4つの型は、排出量の大小ではなく、企業(または主催者)とクレジットの産地・由来との関係性で見分けられます。
- ゆかりの地型:自社の創業地・本社所在地・工場のある地域で創出されたクレジットを購入し、「地元の森を地元企業が守る」という地理的な必然性を物語の核にする型
- 商品CN型(CN=カーボンニュートラル):特定の商品・サービスのライフサイクル排出量をオフセットし、購入者が「買うことでオフセットに参加できる」体験として商品化する型
- イベント型:試合・大会・祭りなど期間の決まった催しの開催に伴う排出をオフセットし、来場者・参加者を巻き込んで発信する型
- 地域連携型:自治体や地域金融機関が主体となり、地域内で創出したクレジットを地域内の取組で使う「地産地消」の資金・価値循環を作る型
以降、各型の代表事例を見ていきます。事例に登場する数値・産地・クレジットの種類は、各社・各団体の公式発表・報道、またはJ-クレジット制度の公式事例集に基づく情報です。多くはJ-クレジットの事例ですが、一部にボランタリークレジットや旧制度(J-VER・国内クレジット)を使う事例も含まれており、その場合は本文中にクレジットの種別を明記しています。
15事例の一覧表:型・産地・数量
各事例の産地・数量を一覧で整理します。詳細は各型の解説セクションを参照してください。
| 企業・団体 | 型 | クレジットの産地・種別 | 数量の目安 |
|---|---|---|---|
| スズキ/ソミック石川 | ゆかりの地型 | 浜松市天竜区(浜松市産第1号・J-クレジット) | 9年間で2,400t-CO2 |
| 旭化成 | ゆかりの地型 | 宮崎県延岡市有林(J-クレジット) | 2025年度1,804t-CO2、16年で34,370t-CO2 |
| 川之江信用金庫 | ゆかりの地型 | 愛媛県四国中央市・宇摩森林組合(J-クレジット) | 預金1億円ごとに1t |
| invox | ゆかりの地型 | 兵庫県多可町「invoxの森」(J-クレジット) | 10年間で12,422t-CO2(創出見込量) |
| JTBコミュニケーションデザイン×奈良ホテル | 商品CN型 | 奈良県産(J-クレジット) | 宿泊プラン単位(非開示) |
| サントリー食品インターナショナル | 商品CN型 | 非開示(J-クレジット) | 自販機単位・全国順次展開 |
| ローソン×日本コカ・コーラ | 商品CN型 | 非開示(CO2排出権) | 累計12,359t削減(参加者1,350万人) |
| 東京ガス | 商品CN型 | 非開示(ボランタリークレジット) | 累計契約拠点数200件 |
| 阪神タイガース×阪神甲子園球場 | イベント型 | 兵庫県内企業由来ほか(J-クレジット等) | 約200〜225t/年(6〜9試合) |
| 浦和レッズ | イベント型 | 非開示(J-クレジット) | 約10t-CO2(スギの木約700本分) |
| 鹿島アントラーズ×LIXIL | イベント型 | 住宅用太陽光の自家消費分(J-クレジット) | 約500t(来場者約37,079人分) |
| JAF全日本ダートトライアル | イベント型 | 北海道道有林・石狩市有林 | 大会単位(非開示) |
| 神戸市 | 地域連携型 | 神戸市内(市民設備由来) | 市民参加分を集約(非開示) |
| 中国銀行 | 地域連携型 | 岡山県全域・鏡野町、広島県庄原市、島根県奥出雲町(J-クレジット) | 金融商品経由(非開示) |
| 仙台商工会議所 | 地域連携型 | 東北地域(国内クレジット) | 25の祭りを対象(非開示) |
ゆかりの地型:創業の地・本拠地の森を守る事例4選
ゆかりの地型は、自社の創業地・本社所在地・拠点のある地域で創出されたJ-クレジットを購入する型です。地理的なつながりがそのまま「なぜこの森なのか」の説明になるため、社内でも社外でも一番語りやすい型といえます。
スズキ×ソミック石川:本社を置く浜松市「産第1号」の森林クレジット
自動車メーカーのスズキ株式会社と自動車部品メーカーのソミック石川株式会社は、両社の本社所在地である静岡県浜松市天竜区の森林(有限会社天竜フォレスターが管理、約67ha)から生まれた「浜松市産第1号」の森林J-クレジットを購入する売買契約を結びました。2032年3月までの9年間で計2,400t-CO2の創出を見込んでいます。天竜材は古くから良質な木材の産地として知られる一方、海外産木材の増加や人口減少で地域産業が厳しさを増しているという課題も明記し、単なる環境活動ではなく「地元産業の存続支援」として物語化している点が特徴です。
出典:浜松市産「第1号」森林J-クレジットを購入|レスポンス
旭化成:発祥の地・延岡市の森林価値創出をDXで支える
旭化成株式会社は、本社は東京にありながら、創業の地である宮崎県延岡市の延岡市有林から生まれるJ-クレジットを購入しています。2025年度は1,804t-CO2、2040年度までの16年間で計34,370t-CO2相当の創出を見込む長期の取組です。同社は2023年から延岡市・延岡地区森林組合と「森林由来J-クレジット推進協議会」を組み、自社のDX技術でクレジットの申請業務を90%削減する支援システムを開発しました。単なる購入者ではなく「創業の地の森林価値創出プロセスそのものを技術で支える」という一段深い関与のストーリーです。
川之江信用金庫:地元製紙業を支える地元の森を、預金商品に組み込む
愛媛県四国中央市の川之江信用金庫は、同一市内で活動する宇摩森林組合が創出する森林由来クレジットを、預金1億円ごとにCO2 1トン相当のJ-クレジットを付与する「信金初」の定期預金として商品化しました。四国中央市は市域の約8割が森林で、地元の製紙業は森林が支える豊富な水資源に依存しています。「地元の森が地元の主力産業を支えている」という産業構造そのものをストーリーの核にした、地方金融機関ならではの地産地消モデルです。
invox:地理的なゆかりがなくても「invoxの森」と名付けて、ゆかりを作り出す
ゆかりの地型の変化形として、ゆかりそのものを新しく作り出した事例もあります。請求書クラウドを提供するinvox株式会社は、本社は東京都新宿区で地理的なつながりはないものの、兵庫県多可町加美区の森林(約420ha、北はりま森林組合管理)を「invoxの森」と命名し、J-クレジットの連携協定を締結しました。対象となるのは2026〜2035年度の10年間で12,422t-CO2の創出見込量です。地理的な必然性がなくても、「うちの森」という物語は命名と継続的な関与によってゼロから作れることを示す好例です。
出典:森林由来J-クレジットによるカーボンオフセットの取り組み開始|PR TIMES
商品CN型:買うだけで語れる商品・サービスにする事例4選
商品CN型は、特定の商品・サービスのライフサイクル排出量をオフセットし、「購入する」という日常の行動そのものをオフセットへの参加体験に変える型です。買って終わりにしないためのわかりやすい入り口として、もっとも件数の多い型でもあります。
JTBコミュニケーションデザイン×奈良ホテル:宿泊地と同じ県のクレジットで「CO2ゼロSTAY」
JTBコミュニケーションデザインと奈良ホテルは、宿泊に伴うCO2排出相当量を奈良県産J-クレジットでオフセットする新宿泊プラン「CO2ゼロSTAY®」を展開しています。泊まる場所と支える場所を一致させることで、地域貢献ストーリーを宿泊プランの購買動機そのものに組み込んでいる点が特徴です。
出典:「CO2ゼロSTAY」新プラン発表|JTBコミュニケーションデザイン
サントリー食品インターナショナル:自販機というインフラを「カーボンオフセット自販機」に
サントリー食品インターナショナルは、自動販売機の設置・稼働に伴うGHG排出量をJ-クレジットでオフセットする「カーボンオフセット自販機」を展開しています。個々の商品ではなく「自販機というインフラそのもの」を対象にし、全国順次展開という規模の訴求でブランド全体の環境印象を刷新する設計です。クレジットの詳細な産地は非開示ながら、GHG排出量実質ゼロという訴求の裏付けにJ-クレジットを使うことを明示して発信しています。
出典:カーボンオフセット自販機|サントリー食品インターナショナル
ローソン×日本コカ・コーラ:1本購入で1kg-CO2をオフセットする「参加型」の飲料
ローソンと日本コカ・コーラは、CO2排出権付き飲料「リアルスパーク」ほか飲料・日用品計28商品で、「1本購入で1kg-CO2、日用品1品で250gをオフセット」という仕組みを商品化しました。使われているのは詳細非開示のCO2排出権(クレジット)で、J-クレジットに限定されない取組ですが、累計参加者1,350万人・12,359トン削減という規模の数字を積み上げ、消費者が能動的に参加できる購買体験としてオフセットを継続的に訴求しています。
東京ガス:「使うだけで実質CO2ゼロ」の都市ガスを法人向けに商品化
東京ガス(東京ガスエンジニアリングソリューションズ経由)は、天然ガスの採掘から燃焼までの工程で発生するGHGをオフセットした「カーボンニュートラル都市ガス」メニューを2019年に業界で初めて開始し、2024年7月に累計契約拠点数200件を達成しました。使われているのはJ-クレジットではなく民間認証機関発行のボランタリークレジット(第三者検証は日本品質保証機構)です。「使うだけで実質CO2ゼロになるガス」という受動的な脱炭素体験を法人向けに商品化し、契約件数という定量指標で規模の物語を積み上げています。
出典:カーボンニュートラル都市ガス 累計契約200件達成|東京ガス
イベント型:試合・大会・祭りをオフセットする事例4選
イベント型は、試合・大会・祭りなど開催期間の決まった催しに伴う排出をオフセットする型です。来場者・参加者を巻き込みやすく、単発のニュースにも継続開催のブランドにもなり得る、発信力の高い型です。
阪神タイガース×阪神甲子園球場:夏の恒例「カーボン・オフセット試合」を6年以上継続
阪神タイガースと阪神甲子園球場は、夏季の主催公式戦(当初6試合、後に9試合)で排出される約200〜225tのCO2をJ-クレジットでオフセットする「KOSHIEN “eco” Challenge」を、協賛企業を替えながら6年以上継続してきました。この量を「杉の木約14,000本が1年間に吸収するCO2量に相当」という換算で伝えている点も特徴です。大阪ガスの協力で兵庫県内企業の国内クレジットを用いた回では、選手によるプレス発表や車内ポスターで大規模に展開され、第3回カーボン・オフセット大賞で経済産業大臣賞を受賞しています。スポーツ×地域×継続開催を組み合わせた代表事例です。
出典:カーボン・オフセット試合の開催|オカムラ、カーボン・オフセット事例集|J-クレジット制度
浦和レッズ:CO2排出量を「スギの木約700本分」に翻訳する「サステナブルDAY」
浦和レッドダイヤモンズは、試合運営で避けられないCO2排出量(約10t-CO2)を「サステナブルDAY」という冠イベントでオフセットしています。この量を「スギの木約700本が1年間に吸収するCO2に相当」「ピッチ約1.2面分の森が必要な量」という身近な単位に翻訳した見せ方が特徴で、将来的には選手・スタッフ・来場者の移動排出量まで含めたカーボンニュートラル化を目指すとしています。
出典:カーボンオフセットの実施について|浦和レッドダイヤモンズ
鹿島アントラーズ×LIXIL:自社の主力事業と観戦体験を結びつける造語「家産社消」
鹿島アントラーズは、オフィシャルパートナーであるLIXILの提供により、対横浜F・マリノス戦でのサポーター約37,079人の移動に伴うCO2(約500t)を、住宅用太陽光発電の自家消費分から生成されたJ-クレジットでオフセットしました。LIXILの主力事業である住宅の太陽光と観戦体験を結び付けた造語「家産社消」で、個人の生活が社会の脱炭素に直結していることを可視化しています。
出典:LIXIL J-クレジットでスポーツをカーボンオフセット|carboncredits.jp
JAF全日本ダートトライアル:北海道の森林クレジットで継続開催する地域密着型モータースポーツ
JAF全日本ダートトライアル選手権「北海道ダートスペシャルinスナガワ」は、2021年から毎年、競技車両・運営車両・発電機からのCO2排出を北海道の道有林・石狩市有林由来の森林吸収クレジットでオフセットしています。参加者から1回500円の協力金を募る形で個人参加も組み込み、「ゼロカーボン北海道」という道の政策目標と紐づけた、継続性のある地域密着型の事例です。
地域連携型:自治体・地域ぐるみで発信する事例3選
地域連携型は、自治体や地域金融機関が主体となって地域内のクレジットを地域内の取組で使い、地産地消の資金・価値循環そのものを物語にする型です。企業単体の取組より規模が大きく、地域ブランディングの色が強くなります。
神戸市:市民の自宅設備の削減量を集約する「こうべCO2バンク」
神戸市は、「こうべCO2バンク」の会員である市民の太陽光発電・エネファームなど住宅用設備によるCO2削減量を集約してクレジット化しています。このクレジットは神戸ルミナリエや神戸ポートタワー点灯といった地元開催イベントのオフセットやカーボンオフセット商品の販売に活用され、売却益は市の環境保全事業に還元されます。市民参加型の完全な地産地消モデルとして、J-クレジット制度の公式事例集にも掲載されています。
中国銀行:営業エリアの森林価値を預金・私募債で地元企業に還元
株式会社中国銀行は、バイウィルと連携し、岡山県全域・岡山県鏡野町や広島県庄原市東城町・島根県奥出雲町の森林管理由来クレジットを、「ちゅうぎんJ-クレジット預金」や「SDGs私募債(オフセット型)」といった金融商品を通じて地元企業に提供しています。中四国地方という営業エリア=地元圏内の森林価値を金融機能を通じて地域に還元する、地方銀行による地産地消の資金循環モデルです。
仙台商工会議所:東北の祭りを東北のクレジットでオフセットする広域ネットワーク
仙台商工会議所が事務局を務める「東北まつりネットワーク」は、平成23年の開始から平成26年度には東北地域の25の祭りへと拡大し、震災復興地域で創出された国内クレジットを、同じ震災復興地域の祭りのオフセットに使うという地域内の循環を作りました。単独の企業では成立しない、複数団体の広域連携による地域連携型の代表例です。
4つの型の比較と、自社に合う型の選び方
15の事例を踏まえて、4つの型を比較・整理します。どの型にも共通するのは「クレジットの産地・由来を選ぶ理由」を明確に持っていることです。
比較表:型ごとの特徴
| 型 | 主体 | クレジット産地の決め方 | 主な発信の場 | 代表事例 |
|---|---|---|---|---|
| ゆかりの地型 | 事業会社・金融機関 | 創業地・本社所在地・拠点のある地域(命名で創出する変化形も) | 購入証交付式、ニュースリリース、企業サイト | スズキ、旭化成、川之江信用金庫、invox |
| 商品CN型 | 製造業・サービス業 | 商品の産地連動、または任意選定 | 商品パッケージ・ラベル、店頭POP、商品名 | JTBコミュニケーションデザイン、サントリー、ローソン、東京ガス |
| イベント型 | イベント主催者・協賛企業 | 開催地域、または協賛企業の事業由来 | プレスリリース、来場者向け掲示、公式サイト | 阪神タイガース、浦和レッズ、鹿島アントラーズ、JAF |
| 地域連携型 | 自治体・地域金融機関 | 地域内で創出されたクレジットに限定 | 自治体広報、地域メディア、金融商品の説明資料 | 神戸市、中国銀行、仙台商工会議所 |
選び方:まず「語れる接点」がどこにあるかを洗い出す
自社に合う型は、次の順番で考えると絞り込みやすくなります。まず、創業地や本社・工場の所在地といった拠点との地理的な接点があるかを確認します。あれば、ゆかりの地型が最も説明力のある選択です。地理的な接点がなくても、invoxの事例のように森の命名と継続的な関与でゆかりを作り出す方法もあります。特定の商品・サービスに環境価値を載せて訴求したいなら商品CN型、単発の式典や大会、周年行事があるならイベント型、自治体や地域の金融機関と組んで地域ブランディングとして展開したいなら地域連携型が候補になります。なお、4つの型は排他的ではなく、組み合わせても構いません。たとえば、ゆかりの地の森からクレジットを調達し、それを周年記念のイベントでオフセットに使えば、ゆかりの地型とイベント型を同時に満たす事例になります。創業○周年・上場○周年といった節目のタイミングは、地元の森という接点と組み合わせやすく、発信のニュース性も高まります。

なお、いずれの型を選ぶ場合も、まず自社の削減努力を前提としたうえでオフセットを補完的に設計することが大原則です。カーボンオフセットの基本的な進め方はカーボンオフセットのやり方|企業の実践手順6ステップと費用・注意点で解説しています。
クレジットの価格相場(2026年最新)
事例に登場する企業がどれくらいの予算感でクレジットを調達しているかは、公開情報だけでは掴みにくいところです。ここでは2026年時点の相場観を紹介します。
種類別の価格帯
J-クレジットの価格は、創出方法や在庫の状況によって幅があります。当社が実際に取り扱う在庫ベースでは、森林由来クレジットで概ね5,000〜20,000円/t-CO2(税抜)が目安です。ゆかりの地型のように「特定の産地」を条件に指定すると、在庫が限られる分、相場の上限に近づきやすくなります。逆に産地を問わない調達であれば、選択肢が広がり単価を抑えやすくなります。事例のような「地元の森」を条件にした調達は、コストではなく物語の説得力を優先した意思決定であることが多い点も踏まえておくとよいでしょう。カーボンオフセット全体の費用構造はカーボンオフセットの費用|内訳と価格の考え方で詳しく解説しています。
数量の目安:小口から大口まで幅がある
事例に登場する数量にも幅があります。トライス株式会社の松阪市有林・私有林クレジット購入は100t-CO2(令和6年度分)、川之江信用金庫の預金商品は預金1億円ごとに1t、旭化成は2025年度で1,804t-CO2、invoxは10年間で12,422t-CO2の見込みです。数量の大小は事例としての規模感に影響しますが、「語れるストーリーになるか」は数量よりも産地選定の理由づけに左右されるというのが、実際の調達支援を通じて見えてくる傾向です。
自社で「語れるオフセット」を作る3ステップ
事例を見て「自社にもできそうな型」が見えてきたら、実際の進め方は次の3ステップに整理できます。当社が調達代行の中で実際に支援している工程で、ヒアリングから発信物の草案提供までを一体で進める点が、クレジットの調達だけを担う一般的な仲介と異なるところです。
STEP 1. ストーリー設計:自社の接点を洗い出す
最初に行うのは、自社の創業地・拠点・事業内容とクレジットの産地・方法論の接点を洗い出す作業です。地理的な接点があればゆかりの地型、なければ商品・サービス・イベントとの接点を探ります。ここで接点が明確になっているほど、後工程の産地選定・調達がスムーズになります。当社では、この洗い出しを調達の相談時にヒアリングし、産地・方法論の選定候補をご提案しています。
STEP 2. 調達・無効化:相場に基づいて実行する
接点が決まったら、対象の産地・方法論のクレジットを相場に基づいて調達し、登録簿システムで無効化の手続きを行います。特定の産地を条件にする場合は在庫の有無に左右されるため、早めの見積が有効です。無効化の手続き自体は通常短期間で完了します(登録簿の処理状況等により変動します)。対外的に主張する際の裏付けとして、当社では無効化の実務に基づく対応資料をお渡ししています。
STEP 3. 発信支援:プレスリリース・レポート・掲載文の草案を作る
最後が、事例のように「語れる」形にする発信の工程です。当社では、プレスリリースの文面、CSRレポートへの記載例、自社サイト掲載文の草案を作成する支援を行っています。発信物はあくまで草案のご提供であり、最終化や配信は各社にてご判断いただく前提です。この工程を欠くと、購入・無効化までは完了していても社外に伝わらず、事例として蓄積されないまま終わってしまいます。

事例を発信する場と、活用できる文脈
作った事例をどこで・どう発信するかも、事例研究から見えてくる型があります。
発信の場:プレスリリース・CSRレポート・自社サイト・数値の翻訳表現
事例に共通するのは、複数の発信チャネルを組み合わせている点です。プレスリリース(PR TIMESや企業サイトのニュース)で第一報を出し、統合報告書やCSRレポートに数値付きで記載し、自社サイトに掲載文として残す、という流れが基本形です。加えて、浦和レッズの「スギの木約700本分」のように、排出量やクレジット量を身近な単位に翻訳した表現を添えると、専門知識のない読者にも規模感が伝わりやすくなります。発信のタイミングも重要です。決算期・株主総会・創業記念日といった社内の節目に合わせて公表すると、取組の文脈が伝わりやすくなります。中国銀行や神戸市の事例のように、金融商品や自治体広報にオフセットを組み込む場合は、既存の広報チャネルにそのまま乗せられるため、新たな発信の場を用意する必要がない点も実務上のメリットです。

制度上の文脈:温対法・CDP/SBT/RE100・GX-ETSとの関係
発信は広報目的だけではなく、制度上の報告にも関わります。ただし、制度ごとにオフセットの扱いは大きく異なります。温対法では、無効化したJ-クレジットを調整後排出量の報告で排出量から控除できます。一方、SBTでは削減目標の達成手段としてクレジットによるオフセットは原則認められておらず、目標達成とは別枠の貢献として位置づけるのが基本です。RE100は再生可能エネルギー電力の調達を求める枠組みで、カーボンクレジットによるオフセットは要件の達成手段になりません。CDPは質問書にクレジットの利用状況を開示する項目があり、取組の透明性を示す材料として使えます。2026年4月に本格稼働したGX-ETSでは、適格性が認められたカーボン・クレジットを一定の条件の下で排出量の償却に利用できる仕組みがあり、対象企業は自社の排出量管理の中でオフセットをどう位置づけるかが今後さらに問われます。制度用語の基本整理はJ-クレジットとは?|制度の仕組みを図解で解説、クレジット自体の仕組みは【図解あり】カーボンクレジットとは?で解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. カーボンオフセットの事例で多い形は何ですか?
件数としては、購入するだけで参加できる商品CN型と、来場者を巻き込みやすいイベント型が多く見られます。一方で、旭化成やスズキのようなゆかりの地型は件数こそ少ないものの、地理的な必然性があるため報道やプレスリリースでの説明力が高く、企業単体の広報効果としては目立つ傾向があります。自治体を巻き込む地域連携型は件数は限られますが、1件あたりの関係者数・波及範囲が大きい点が特徴です。
Q. カーボンオフセットの費用はどのくらいですか?
クレジットの種類と在庫状況によって幅がありますが、森林由来J-クレジットは当社の実際の取扱いベースで概ね5,000〜20,000円/t-CO2(税抜)が目安です。特定の産地を条件にするゆかりの地型は、在庫が限られる分、相場の上限に近づきやすくなります。費用の内訳全体はカーボンオフセットの費用|内訳と価格の考え方で解説しています。
Q. 小さい会社でもできますか?
できます。事例に登場する数量にも幅があり、J-クレジット制度の公式事例集には、マツダが会社案内の印刷・製本電力という1t規模の排出をオフセットした事例が掲載されています。トライス株式会社の100t-CO2も、全国規模の大企業ではなく地元企業による事例です。数量の大小より、「なぜこのクレジットを選んだか」の説明がある方が事例として成立しやすいというのが、実務を通じて見えてくる傾向です。
Q. どのくらいの量からオフセットを始めればいいですか?
決まった下限はありません。まず自社の年間排出量のうち、どの範囲をオフセットの対象にするかを決め、そこから逆算して必要な量を算定するのが基本の順序です。全社の排出量ではなく、特定の商品・イベント・拠点に絞ってスモールスタートする事例も多く見られます。具体的な算定・調達の手順はカーボンオフセットのやり方|企業の実践手順6ステップと費用・注意点で解説しています。
Q. 事例を発信するときに注意することはありますか?
「CO2ゼロ」「カーボンニュートラル」といった表現を使う場合は、対象範囲(どの製品の・どの期間の・どの排出か)を明示することが原則です。範囲を示さない全称的な主張は、無効化通知書などの根拠資料で裏付けようがなく、後からグリーンウォッシュと指摘されるリスクにつながります。表現を確定する前に、どこまでを対象にオフセットしたかを社内で正確に共有しておきましょう。
まとめ
企業・自治体のカーボンオフセット事例は、ゆかりの地型・商品CN型・イベント型・地域連携型の4つのストーリー型に整理できます。どの型も、クレジットを購入して無効化するという行為自体は同じですが、「どこの・どんなクレジットを、なぜ選んだか」という接点の説明が、単なる購入と語れる事例を分けます。まずは自社の創業地・拠点・商品・イベントのどこに接点があるかを洗い出し、そこから産地・方法論を選び、調達・無効化・発信までを一体で設計することが、買って終わりにしないオフセットにつながります。

