2026年度に義務化された排出量取引制度(GX-ETS)では、対象企業に排出枠が無償で配分されます。「タダで配られるなら負担はない」と受け止められがちですが、配分量は毎年度、機械的に減っていきます。減り方は既に政府資料で数値まで確定しており、グランドファザリング方式で年率1.7%、ベンチマーク方式では2030年度までに業種上位32.5%の効率水準まで段階的に引き下げられます。
つまり、平均的な効率の企業では制度初年度からわずかに不足が生じ、2028年、2030年と進むほど不足は機械的に拡大します。最初の支払期限も決まっています。2026年度排出分の償却期限である2028年1月31日です。この日までに、不足分を排出枠の購入か適格クレジット(J-クレジット・JCMクレジット)で埋められなければ、制度上の義務を果たせません。
この記事では、無償割当が「いつ、どれくらい減るのか」を経済産業省の一次資料に基づいて整理し、不足が顕在化するタイミングと、対象企業が2026年度のうちに始めるべき準備を解説します。
- 無償割当が毎年減っていく仕組み(ベンチマーク方式とグランドファザリング方式の算定式)
- 政府資料で確定している削減率の数値と、その根拠
- 排出枠の不足がいつ発生し、いつ現金支出に変わるのか(2028年1月31日の初回償却期限)
- 自社の不足量の見積もり方と、不足を埋める3つの手段の使い分け
GX-ETSの無償割当とは
無償割当とは、政府が制度対象企業に対して、CO2を排出する権利である排出枠を無料で配分する仕組みです。GX-ETSの第2フェーズ(2026年度〜)では、対象となるすべての事業者への割当が無償で行われます。欧州のEU-ETSのように排出枠をオークションで購入させる方式は、日本では発電事業者向けに2033年度から段階導入される予定で、それまで一般の事業会社が枠の対価を直接支払うことはありません。
対象となるのは、CO2の直接排出量が前年度までの3か年度平均で10万トン以上の事業者です。約300〜400社が該当し、日本の温室効果ガス排出量の約6割をカバーすると見込まれています。判定は工場単位ではなく事業者単位の合算で行われるため、大型ボイラーを複数拠点に持つ企業では、単独では基準未満の事業所の排出も合算されて対象になる場合があります。制度全体の枠組みはGX-ETSフェーズ移行の解説記事で詳しく扱っています。
無償とはいえ、配分量が実際の排出量を下回れば、その差分は企業の負担になります。不足分は、排出枠を他社から購入するか、自社で排出を削減するか、適格クレジットを調達して埋める必要があるためです。無償割当の設計を理解する意味は、この「不足がいつ、どれだけ生じるか」を自社について予測できるようになる点にあります。
出典:排出量取引制度について|GX推進機構 排出量取引制度ポータルサイト
割当量の決まり方:ベンチマークとグランドファザリング
ベンチマーク方式:業種内の効率上位と比較される
ベンチマーク方式は、業種ごとに「目指すべき排出原単位」を定め、それに各社の生産量を掛けて割当量を算定する方式です。算定式は「割当量=基準活動量×各年度の目指すべき排出原単位」で、基準活動量には制度開始直前の3か年度(2023〜2025年度)の生産量等の平均を使います。
目指すべき排出原単位は、同じ業種の中で製品1トンあたりの排出量を比較し、効率の良い側から数えて「上位X%」に相当する水準として設定されます。自社の排出効率が業種のベンチマーク水準より良ければ割当は排出量を上回り(余剰)、悪ければ下回ります(不足)。つまりベンチマーク方式の下では、不足するかどうかは自社の絶対的な排出量ではなく、同業他社と比べた相対的な効率で決まります。
対象は鉄鋼、石油精製、セメント、紙パルプ、化学など、エネルギー多消費型の17業種です。発電部門と、貨物自動車運送や内航海運などの運輸部門も含まれます。各業種の具体的な算定式は、経済産業省の製造業ベンチマーク検討WGと発電ベンチマーク検討WGが業界ヒアリングを経て設計しました。
グランドファザリング方式:自社の過去実績が基準になる
グランドファザリング方式は、業種共通のベンチマークを設定することが技術的に難しい分野に適用される方式で、自社の過去の排出実績を基準に割当量を決めます。算定式は「割当量=基準排出量×(1−削減率×経過年数)」です。基準排出量はベンチマーク方式と同じく2023〜2025年度の3か年平均を使います。
この方式の特徴は、割当の減り方が完全に機械的である点です。ベンチマーク方式のように同業他社との比較は入らず、毎年度、決まった削減率の分だけ自社の基準から割当が減っていきます。自社の排出量が基準年度から変わらなければ、削減率×経過年数の分がそのまま不足になります。
どちらの方式でも、割当のベースとなる2023〜2025年度の実績は原則として固定されます。ただし、その後の活動量が基準期間から7.5%を超えて変動した場合の調整や、省エネによる燃料使用量の減少は割当を減らさない配慮、制度開始前の早期削減を割当に加算する措置など、公平性のための調整ルールが併せて定められています。

「どれくらい減らされるか」は数値まで決まっている
グランドファザリングは年率1.7%(プロセス由来は0.3%)
割当の削減率は、2025年12月19日に排出量取引制度小委員会が取りまとめた実施指針への意見で数値が確定し、2026年4月施行の省令・実施指針に反映されました。グランドファザリング方式の削減率は、燃料の燃焼によるエネルギー起源CO2について年率1.7%です。
1.7%という数字には根拠があります。グランドファザリング対象分野では既にエネルギーの約4割が排出係数の低い都市ガスに転換済みで、残りのエネルギーも10年かけて都市ガス相当の排出係数まで燃料転換を進めると仮定した場合に必要な削減ペースが年率1.7%でした。つまり「実行可能な燃料転換のペース」から逆算された数字であり、達成不可能な水準を課すものではない一方、何もしなければ確実に不足が生じる水準に設定されています。
鉄鉱石の還元や石灰石の熱分解のように、生産に伴って不可避的にCO2が発生するプロセス由来の排出には、より緩い年率0.3%(2030年度までの5年間で1.5%)が適用されます。削減手段が製品収率の改善などに限られることを踏まえた設定です。
出典:排出量取引制度の30年度ベンチマークは上位32.5%、グランドファザリング削減率は年1.7%に|ITmedia
ベンチマークは上位50%水準から2030年度に上位32.5%水準へ
ベンチマーク方式の水準は、基準年度に業種内の上位50%(標準的な効率)からスタートし、2030年度に上位32.5%の水準まで毎年度、直線的に引き下げられます。省エネ法の経験則で「業種全体がトップランナー水準(上位15%程度)に到達するには10年程度かかる」とされていることから、5年後の中間点として32.5%が採用されました。
小委員会資料の例示では、基準年度の排出原単位が1.50t-CO2/トンの業種の場合、目指すべき水準は2026年度1.44、2027年度1.38、2028年度1.32、2029年度1.26、2030年度1.20と毎年度下がっていきます。業種の中央値にいる企業から見ると、初年度から数%の不足が生じ、2030年度には基準比で2割高い効率を求められる計算です。
ただし、激変緩和のための下限が設けられています。制度開始当初の5年間に限り、2030年度のベンチマーク水準は「上位32.5%の水準」と「上位50%の水準×0.915」のうち緩い方が適用されます。0.915という係数は、グランドファザリングの年率1.7%×5年から算出されたもので、ベンチマーク対象業種だけが極端に厳しくならないよう、両方式の削減ペースを揃える趣旨です。結果として、当初5年間は業種の中央値企業に求められる削減ペースも実質年1.7%程度が上限になります。
出典:排出量取引制度「GX-ETS」が本格始動|日経ビジネス電子版

排出枠の不足はいつから始まるか
2026年度:帳簿上の不足は既に始まっている
割当の削減は制度初年度から適用されます。業種の平均的な効率の企業であれば、2026年度の割当は基準排出量の約98.3%(グランドファザリングの場合)となり、排出量が基準年度から変わらなければ約1.7%の不足が帳簿上、既に生じています。年間30万トンを排出する企業なら約5,100トンです。
それでも「初年度はほぼ無風」と言われるのには理由があります。不足の規模がまだ小さいことに加え、精算の期限が先だからです。排出枠の償却(排出実績に見合う枠やクレジットを国に納める手続き)には期限が設けられており、2026年度排出分の期限は2028年1月31日です。初年度の不足が現金支出に変わるまでには、1年半以上の猶予があります。
この構造は、制度対象企業の調達行動にタイムラグを生みます。義務は2026年度から発生しているのに、支払いの痛みは2028年に来る。不足への対処を先送りする企業と、猶予期間のうちに安く調達を済ませる企業とで、対応が分かれるのが現在の局面です。
2028年1月31日:最初の償却期限で需要が「強制」になる
2028年1月31日は、GX-ETSで最初にお金が動く日付です。2026年度の排出実績が確定・検証された後、この日までに排出量に見合う排出枠と適格クレジットを保有していなければなりません。不足したまま期限を迎えるわけにはいかないため、対象企業の調達は遅くとも2027年中に本格化すると見られます。
需給の観点では、この期限が需要の起点になります。制度開始前のクレジット市場は買い手の様子見で軟調に推移してきましたが、償却期限が近づけば、不足を抱えた300〜400社が一斉に調達側に回ります。J-クレジットの供給量は年間100万トン台にとどまっており、需要の立ち上がりに供給が追いつかない構図はJ-クレジット需給逼迫の解説記事で解説したとおりです。
売り手側の行動も変わります。価格の先高観が強まると、クレジット創出者は売り惜しみに転じ、スポットでまとまった量を確保することが難しくなります。過去にも、制度の節目で価格期待が高まった局面では、売り手が販売量を絞る動きが見られました。買い手にとっては、需要が顕在化して売り手が強気になる前に調達を進められるかどうかが、調達単価を左右します。
2028〜2030年度:不足は毎年積み増しされる
割当の削減は一度きりではなく、毎年度積み上がります。年率1.7%の削減は、2027年度には3.4%、2028年度には5.1%、2030年度には8.5%の不足(いずれも基準比、排出量横ばいの場合)へと拡大します。年間30万トン排出の企業なら、2030年度の不足は約2.55万トンです。
費用に換算すると規模感がつかめます。排出枠の取引価格には上限と下限が設定されており、2026年度は上限4,300円、下限1,700円です。この上下限は毎年3%に物価上昇分を加えた率で引き上げられ、2030年度には実質ベースで上限4,840円、下限1,913円になります。2.55万トンの不足を上限価格近辺で埋めれば年間約1.2億円、下限でも約5,000万円の支出です。価格帯の設計と海外制度との比較はGX-ETS上限価格の解説記事で詳しく扱っています。
割当が年々減り、価格の上下限が年々上がる。この二つの逓増が同時に走るのがGX-ETSの設計です。同じ1トンの不足でも、埋めるのが早いほど安く、遅いほど高くつく構造が制度に組み込まれています。
出典:令和8年度の参考上限取引価格・調整基準取引価格に関する意見|経済産業省

不足が出やすい企業、出にくい企業
ベンチマーク対象:業種内の効率ポジションがすべて
ベンチマーク対象業種では、不足の大きさは自社の絶対的な排出量ではなく、同業他社と比べた効率で決まります。業種内で効率が上位32.5%より良い企業は2030年度時点でも割当が排出を上回り、余剰を売却できる側に回ります。逆に中央値より効率が悪い企業は、初年度から平均を上回る不足を抱えます。
自社の排出原単位が業種のどの位置にあるかを把握することが、不足予測の出発点です。ベンチマークの水準は業界統計から機械的に定まるため、自社の製品1トンあたり排出量と業種の分布を突き合わせれば、割当が余るのか足りないのかは制度開始前でも見当がつきます。設備の新しさ、燃料構成、自家発電の有無が主な変動要因です。
なお、自家発電を持つ企業と購入電力に頼る企業の間で不公平が生じないよう、複数の業種でベンチマーク指標は直接排出と間接排出の合計で作成し、割当量の算定時に各社の直接排出比率を掛ける補正が入ります。自家発電を持つ企業は「電力購入に切り替えれば見かけの排出が減る」わけではない設計になっている点に注意が必要です。
グランドファザリング対象:不足量は今日から計算できる
グランドファザリング対象の企業は、比較対象がいない分、予測は簡単です。基準排出量に年率1.7%(プロセス由来は0.3%)を掛けるだけで、各年度の不足が計算できます。2023〜2025年度の排出実績は既に手元にあるはずなので、2030年度までの不足カーブは今日の時点で確定的に描けます。
計算に織り込むべき変動要因は二つです。燃料転換や省エネ投資の予定がある企業はその削減効果を差し引きます。増産や減産の予定がある企業は、活動量が基準期間から7.5%を超えて変動した場合に割当が翌年度以降調整されるルールを織り込みます。この二つを反映すれば、単純計算より精度の高い調達計画になります。
配慮措置の対象なら不足は小さくなる
割当には、一律の削減を和らげる配慮措置がいくつか組み込まれています。輸出入の競争にさらされる業種で、排出枠の調達コストが営業利益の4%を超える場合には、不足分の一定割合が追加で割り当てられるカーボンリーケージ対策が用意されています。国内で炭素コストを課した結果、生産が規制の緩い海外へ移転してしまえば地球全体の排出は減らないため、競争条件を守る趣旨です。
制度開始前の削減努力も無駄になりません。基準年度より前に平均を上回るペースで排出を減らしてきた企業には、早期削減分を割当に加算する措置があります。また、GX関連の研究開発投資を行う企業には、投資額に応じた追加割当が2027年度から適用されます。自社がこれらに該当するなら、実際の不足は単純計算より小さくなります。逆に言えば、該当の有無を確認しないまま不足量を見積もると、調達計画が過大になります。
不足分を埋める3つの手段と使い分け
手段1:自社の排出削減
最も本質的な手段は、燃料転換や省エネ投資で排出そのものを減らすことです。排出が減れば割当との差は恒久的に縮まり、毎年の調達コストが不要になります。グランドファザリングの年率1.7%という削減率自体が「都市ガスへの燃料転換を10年で進める」ペースから逆算されているため、燃料転換を実行できる企業にとっては、制度が求める削減は達成可能な水準です。
ただし時間の制約があります。ボイラーの更新や燃料設備の切り替えには、計画から稼働まで通常2〜3年を要し、2028年1月の初回償却には間に合わないケースが多いのが実情です。削減投資は2029年度以降の不足を抑える中期の手段と位置づけ、当面の不足は後述の調達手段で埋める組み合わせが現実的です。
手段2:排出枠の購入
第二の手段は、割当が余った企業から排出枠を買い取ることです。ベンチマークより効率の良い企業には余剰が生じるため、制度全体では売り手が一定数存在します。
ただし当面は使いにくい手段です。排出枠を売買する取引市場をGX推進機構が開設するのは2027年度秋の予定で、それまでの取引は相対交渉に限られます。市場開設前は価格の透明性が低く、そもそも余剰かどうかは排出実績の検証が終わるまで確定しないため、初年度に売り手として動ける企業は限られます。まとまった量の枠を予見性をもって確保する手段としては、市場開設後の2028年度以降が本番になります。
出典:排出量取引制度について|GX推進機構 排出量取引制度ポータルサイト
手段3:適格クレジットの調達
第三の手段が、適格クレジットの調達です。GX-ETSで償却に使えるのはJ-クレジットとJCMクレジットの2種類のみで、ボランタリークレジットは使えません。利用上限は各年度の実排出量の10%です。
この10%という上限は、当面の不足に対しては十分な広さがあります。年率1.7%ペースで積み上がる不足は2030年度時点でも基準比8.5%にとどまるため、計算上は2030年度まで不足のほぼ全量をクレジットで埋められます。取引市場の開設を待つ必要がなく、今日から調達を始められる点も、排出枠の購入にはない利点です。
J-クレジットとJCMクレジットには使い分けがあります。J-クレジットは東証の市場で今日でも購入できる流動性がある一方、需給逼迫で価格は先高傾向です。JCMクレジットは相対取引が中心で調達に手間がかかる分、単価面で優位に立つ場合が多く、大口の複数年契約に向きます。両者の制度上の位置づけと使い分けはGX-ETSで使える海外クレジットの解説記事で詳しく扱っています。
出典:排出量取引制度について|GX推進機構 排出量取引制度ポータルサイト

2031年度以降はルールが厳しくなる可能性が高い
緩和装置は軒並み2030年度で期限を迎える
ここまでの削減スケジュールは、2026〜2030年度の5年間についてのみ確定したものです。2031年度以降の割当方法は見直すことが小委員会の取りまとめに明記されており、現行の緩やかなパスがそのまま続く保証はありません。
見直しの方向性はいくつか示唆されています。グランドファザリング方式は2031年度以降は適用しない(ベンチマークへの移行を目指す)方向が示され、ベンチマークの激変緩和措置(上位50%×0.915の下限)も当初5年限りとされています。過去の削減努力の勘案措置も同様です。つまり、現在の設計に含まれる「慣らし運転」のための緩和装置は、軒並み2030年度で期限を迎えます。
国の削減目標とのギャップが強化圧力になる
国全体の削減目標との整合も、強化圧力として働きます。日本のNDC(国が決定する貢献)は2035年度に60%減、2040年度に73%減(いずれも2013年度比)で、年率1.7%の割当削減はこのペースより明らかに緩やかです。GX-ETSが国の排出量の約6割をカバーする制度である以上、NDCの達成には割当削減の加速が算術的に必要になります。
法定済みのスケジュールも同じ方向を指しています。発電部門では2033年度から排出枠の有償オークションが法律で決まっており、2028年度には化石燃料の輸入事業者等への賦課金も始まります。制度全体が段階的に厳しくなる方向は既定路線であり、対象企業にとっては、緩い5年間のうちに削減投資と調達体制を整えられるかが、2031年度以降のコストを左右します。
出典:地球温暖化対策計画(2025年2月18日閣議決定)|環境省
対象企業が2026年度のうちにやるべき準備
準備1:自社の不足量を試算する
最初にやるべきは、自社の不足量の予測です。2023〜2025年度の排出実績(基準排出量)に削減率を当てはめれば、2030年度までの各年度の不足量は今日の時点で計算できます。ベンチマーク対象業種であれば、業種内での自社の効率ポジションの把握が先決です。
不足量が見えれば、償却期限から逆算した調達計画が立てられます。逆に、試算をしないまま2027年を迎えると、初回償却の直前に他社と同じタイミングで調達に走ることになり、単価でも量でも不利な条件を受け入れざるを得なくなります。試算は排出データが手元にあれば数日で終わる作業であり、後回しにする理由がありません。
準備2:調達手段を早期に確保する
次に、調達手段の確保です。取引市場の開設が2027年度秋である以上、それまでの調達はクレジットの相対取引が中心になります。J-クレジットは需給逼迫で先高観が強く、JCMクレジットは供給者との関係構築に時間がかかります。いずれも「必要になってから探す」やり方では、望む量と価格を両立できません。
複数年分の必要量を早期に固定する長期契約は、単価と量の両方を確保する手段として、需要が顕在化する前の現時点でこそ選択肢が広がっています。売り手側から見れば、償却期限前の確実な販売先を確保できる長期契約には応じる動機があり、スポット価格より有利な条件を引き出しやすい局面です。JCMクレジットの調達実務はJCMクレジットの購入方法の解説記事で解説しています。
準備3:炭素コストの逓増を経営計画に織り込む
最後に、経営層への費用インパクトの共有です。排出枠の不足は2028年1月に初めて損益に現れ、以後毎年拡大します。上下限価格が毎年3%に物価分を加えて引き上げられることも含めると、炭素コストは「一度発生したら毎年増える固定費」として扱うのが実態に合います。
中期経営計画に炭素コストの逓増を織り込んでおけば、削減投資とクレジット調達の予算判断が場当たりにならずに済みます。削減投資の回収年数を計算する際も、回避できる炭素コストが毎年増えていく前提を置くかどうかで、投資の優先順位は変わります。2031年度以降のルール強化を見据えるなら、炭素コストを保守的に高く見積もっておく方が、経営判断としては安全側です。
よくある質問(FAQ)
Q. 無償割当の量は毎年同じですか?
いいえ、毎年度減っていきます。
グランドファザリング方式では基準排出量から年率1.7%(プロセス由来CO2は0.3%)ずつ、ベンチマーク方式では業種上位50%の水準から2030年度に上位32.5%の水準まで毎年度、割当の基準が引き下げられます。基準となる2023〜2025年度の実績は原則固定のため、排出量が変わらない企業では不足が毎年拡大します。
Q. 排出枠の不足分は、クレジットで全部埋められますか?
2030年度までは、平均的なケースでは埋められます。
クレジットの利用上限は各年度の実排出量の10%ですが、年率1.7%ペースで積み上がる不足は2030年度時点でも基準比8.5%程度で、上限の範囲内に収まります。ただし利用できるのはJ-クレジットとJCMクレジットのみで、ボランタリークレジットは使えません。業種内で効率が劣後する企業は不足が10%を超える可能性があり、その場合は排出枠の購入や自社削減との併用が必要です。
Q. 排出枠はいつから売買できますか?
取引市場の開設は2027年度秋の予定です。
それまでの排出枠の取引は相対交渉に限られ、公表価格を参照できる調達手段はJ-クレジットの東証市場などに限られます。初回償却期限(2028年1月31日)の直前は調達が集中する可能性があるため、市場開設を待たずにクレジットで先行手当てする企業が増えています。
Q. 自社が制度対象かどうかは、どう判定されますか?
CO2の直接排出量が、前年度までの3か年度平均で10万トン以上かどうかで判定されます。
判定は事業者単位で、複数の工場や事業所の排出量を合算します。単独では10万トン未満の拠点しか持たない企業でも、合算で基準を超えれば対象です。該当する場合は届出の義務があり、約300〜400社が対象になると見込まれています。
Q. 2031年度以降の割当はどうなりますか?
見直しが行われることだけが決まっており、内容は未定です。
グランドファザリング方式は2031年度以降は適用しない方向が示され、ベンチマークの激変緩和措置も2030年度で期限を迎えます。国の削減目標(2035年度60%減)との整合を踏まえると、割当の削減ペースは現行の年1.7%相当より厳しくなる可能性が高いと見られます。確定情報は排出量取引制度小委員会の審議資料で公表されます。
まとめ:不足は2026年度から静かに始まり、2028年1月に現金化する
GX-ETSの無償割当は「どれくらい減らされるか」まで政府資料で確定しています。グランドファザリングで年率1.7%、ベンチマークで2030年度に上位32.5%水準。平均的な企業の不足は初年度の約1.7%から2030年度の約8.5%まで毎年積み上がり、最初の支払期限は2028年1月31日です。
割当は毎年減り、価格の上下限は毎年上がり、2031年度以降はルール自体が厳しくなる方向です。調達の選択肢が最も広く、単価が最も低いのは、需要がまだ顕在化していない現在です。不足量の試算と調達計画の策定は、2026年度のうちに着手することをおすすめします。
カーボンリンクは、J-クレジットの直接買取とJCMクレジットの調達支援を手がける売買特化の専門会社です。GX-ETS対応の不足量試算から、スポット調達、複数年の長期契約まで、貴社の状況に合わせた調達プランをご提案します。

