カーボンオフセット型私募債とは、企業が銀行保証付私募債を発行する際に、その発行に伴ってカーボン・クレジットの購入とオフセットが行われる私募債の総称です。銀行が発行手数料収入の一部(発行額の0.1〜0.2%相当)でJ-クレジット等を購入・無効化する型が中心で、発行企業の購入費用に銀行が補助金を出す変形(伊予銀行)もあります。発行企業に追加費用は原則かからず、資金調達と脱炭素貢献のPRを同時に実現できます。
本記事では、2023年の横浜銀行・名古屋銀行を皮切りに全国12行へ広がった商品を一覧比較し、自治体オフセット型・発行企業オフセット型・補助金型という3つのスキームの違い、発行企業側のメリットと表示上の注意点、金融機関側の設計手順までを解説します。個別銀行の商品案内はあっても、横断的に比較・整理した情報はほとんど公開されていないため、発行を検討する企業にも商品組成を検討する金融機関にも使える形でまとめました。
この記事を読むことで、自社が使える銀行と商品タイプを見極め、「何がオフセットされ、何が主張できるのか」を正確に理解したうえで発行・組成の判断ができるようになります。
- カーボンオフセット型私募債の仕組みと、通常のSDGs私募債との違い
- 全国12行の商品比較(充当率・オフセット対象・発行条件)
- 自治体オフセット型・発行企業オフセット型・補助金型の3類型の違い
- 発行企業が対外的に主張してよいこと・してはいけないこと
- 金融機関が商品を設計する手順と、クレジット調達・無効化の実務
カーボンオフセット型私募債とは?仕組みと広がり
最初に、この商品の基本構造を押さえます。名前は複雑ですが、実態は「寄贈型私募債の寄贈先をカーボン・クレジットに置き換えたもの」と理解するのが早道です。

仕組み:発行手数料の一部がクレジット購入に充てられる
銀行保証付私募債では、発行企業が銀行に保証料・引受手数料などの発行手数料を支払います。カーボンオフセット型では、銀行がこの手数料収入の一部(実務上は発行額の0.1〜0.2%相当)を自らの負担でJ-クレジットや非化石証書の購入に充てます。J-クレジットであれば登録簿上の無効化(使用済み処理)を行い、あらかじめ定めた対象のCO2排出をオフセットします(非化石証書の場合は対象施設の電力への充当処理)。以下は最も一般的な「銀行が購入する型」の説明で、補助金型・現金寄付型の変形は3類型の節で扱います。
発行企業から見ると、支払う費用は通常の私募債と同じで、追加負担なしにオフセットへの貢献という対外訴求材料が付いてきます。銀行から見ると、手数料収益の一部を地域貢献に還元する設計であり、既存の寄贈型私募債と同じ原資構造で組成できます。
SDGs私募債・寄贈型私募債との違い
SDGs私募債(寄贈型私募債)は、同じ原資で学校への物品寄贈やNPOへの寄付を行う商品として、全国の地方銀行に広く定着しています。カーボンオフセット型はその派生形で、寄贈の中身が「クレジットの購入と無効化」に変わった点だけが異なります。
ただし効果の性質は大きく変わります。物品寄贈は社会貢献にとどまるのに対し、クレジットの無効化は定量的なCO2オフセット(例:21t-CO2分)として成立し、対象施設・イベントの排出の埋め合わせを対外的に示せる環境価値になります。福井銀行が2025年4月に旧来の寄贈型と並ぶ新類型として「カーボンオフセット型」を新設したように、銀行側も両者を明確に区別して商品化しています。
出典:ふくぎんSDGs私募債(カーボンオフセット型)の取扱開始について|福井銀行
広がり:2023年の2行から全国12行へ
この商品は2023年4月の横浜銀行「横浜ゼロ」と同年9月の名古屋銀行「地産地消カーボンオフセット型私募債」が先行し、2024年に七十七・広島・ほくほく(北陸・北海道)・群馬・伊予の各行、2025年に福井・京葉・香川の各行が追随して、確認できるだけで全国12行に広がりました(静岡銀行を含む)。
広島銀行が横浜銀行の仕組みを参考に導入したと報じられているように、スキームは横展開しやすく、導入行が積み上がってきました。逆に言えば、まだ取扱いのない地域・銀行が多数残っています。
背景には市場環境の変化もあります。金利のある世界に戻り、私募債は低金利時代ほどの発行妙味を打ち出しにくくなりました。金利以外の付加価値で選ばれる商品設計が求められる局面で、2026年4月にGX-ETSが本格稼働し(年間10万トン以上を排出する300〜400社が対象)、その取引先にも排出量への対応が波及し始めたことが、オフセット型への追い風になっています。
スキーム3類型:誰の排出をオフセットするか
12行の商品は、オフセットの対象と実施主体によって3類型に分かれます。発行を検討する企業にとっては、この違いが「自社が何を主張できるか」を決める最重要ポイントです。

①自治体オフセット型:地域貢献を打ち出す最多数派
最も多いのが、銀行が購入したクレジットで県や市が所管する公共施設・イベントの排出をオフセットする型です。名古屋銀行(愛知県の施設・イベント)、七十七銀行(宮城県・仙台市)、広島銀行(縮景園や平和記念資料館など)、静岡銀行(県主催イベント)、香川銀行(高松市の広報誌発行など)、京葉銀行(千葉県等の公共施設)がこの型です。
オフセットの受益者は自治体であり、発行企業は「地域の脱炭素への協力者」という立ち位置になります。名古屋銀行のように「発行企業自身のオフセットには活用できない」と商品概要に明記する銀行もあり、この線引きが後述する表示上の注意点につながります。
同じ自治体支援でも、北海道銀行は例外的な間接型です。銀行自身はクレジットを購入せず、発行額の0.2%を現金で北海道環境財団に寄付し、財団が事務局を務めるオフセットキャンペーンを通じて道内の国立公園・世界自然遺産の保全に充てる構造で、寄付型私募債とオフセット型の中間に位置します。
②発行企業オフセット型:自社排出のオフセットに使える型
2025年1月に取扱いが始まった横浜銀行「横浜ゼロⅡ」は、オフセット対象を発行企業自身のスコープ1・2排出に切り替えました。初代「横浜ゼロ」(2023年、自治体型)からの設計転換で、発行企業は発行額の0.1%相当かつ自社排出量の範囲内でクレジットの寄贈を受け、自社の排出のオフセットに使えます。
群馬銀行も「寄付先支援型」(群馬県の施設対象)と「発行先支援型」(発行企業自身が対象)の2コース制を採っており、企業が対象を選べる設計です。取引先から排出削減を求められている企業にとっては、資金調達と自社オフセットを一度に実行できるこの型の実利が大きく、横浜銀行の転換と群馬銀行の2コース制は、オフセット対象を発行企業自身に置く設計の広がりを示しています。
転換の背景として考えられるのは、需要側の変化です。大手企業のサプライチェーン排出削減目標が広がり、中堅・中小企業も「自社の排出をどうするか」を取引継続の条件として問われ始めました。地域貢献のPRよりも自社排出の手当てを優先する企業が増えれば、オフセットの受益者を発行企業自身に置く商品のほうが選ばれやすくなります。
③補助金型:発行企業が自ら購入する伊予銀行方式
伊予銀行の「カーボンオフセット私募債」(2024年8月開始)は構造が根本的に異なります。銀行はクレジットを購入せず、発行企業が自らJ-クレジットや非化石証書を購入する費用、または排出量可視化コンサルの導入費用に対して、発行額×0.2%(上限50万円)の補助金を交付します。
補助金の上限50万円は、発行額2億5,000万円で0.2%が上限に達する水準です。それ以上の大型発行では補助率が実質的に下がる一方、中小企業の標準的な発行額(3,000万〜1億円)では0.2%満額が効く設計になっています。
購入と無効化の主体が発行企業自身になるため、クレジットを購入・無効化した場合の効果と会計処理は企業に帰属します。第1号案件の四国ガス(発行額1億円・期間5年)はJ-クレジットの購入に充てており、企業側に排出量算定とクレジット選定の実務が発生する分、自社の脱炭素施策として実質を伴う型です。
全国12行の商品比較【一覧表】
確認できる12行の商品を、充当率・オフセット対象・発行条件まで含めて比較します。
商品比較表:充当率・対象・発行条件
| 銀行 | 商品名 | 取扱開始 | 充当率 | オフセット対象 | 発行額の下限 |
|---|---|---|---|---|---|
| 横浜銀行 | 横浜ゼロⅡ | 2025年1月 | 0.1% | 発行企業自身 | 非公開 |
| 群馬銀行 | ぐんぎんSDGs私募債 | 2024年7月 | 非公開 | 県施設または発行企業 | 3,000万円 |
| 名古屋銀行 | 地産地消カーボンオフセット型私募債 | 2023年9月 | 0.1% | 愛知県の施設・イベント | 5,000万円 |
| 北陸銀行 | <ほくほく>カーボンオフセット型私募債 | 2024年6月 | 0.2%以内 | 富山県・福井県の施設 | 5,000万円※ |
| 北海道銀行 | <ほくほく>カーボンオフセット型私募債 | 2024年6月 | 0.2%(現金寄付) | 道内国立公園等 | 3,000万円 |
| 七十七銀行 | 77SDGs私募債カーボン・オフセットコース | 2024年4月 | 0.1%上限 | 宮城県・仙台市 | 3,000万円 |
| 福井銀行 | ふくぎんSDGs私募債カーボンオフセット型 | 2025年4月 | 0.2%以内 | 福井県立恐竜博物館 | 3,000万円 |
| 広島銀行 | 〈ひろぎん〉カーボンオフセット型私募債 | 2024年1月 | 0.2%以内 | 広島県・広島市の施設 | 3,000万円※ |
| 伊予銀行 | カーボンオフセット私募債 | 2024年8月 | 補助金0.2%(上限50万円) | 発行企業自身 | 非公開 |
| 京葉銀行 | 京葉銀行カーボンオフセット私募債 | 2025年3月 | 0.1%+森林組合へ0.1%寄付 | 千葉県等の公共施設 | 3,000万円※ |
| 静岡銀行 | しずぎんカーボンオフセット私募債 | 不明 | 0.1%目安 | 静岡県主催イベント | 5,000万円 |
| 香川銀行 | かがわカーボンオフセット型私募債 | 2025年4月 | 0.1% | 高松市の広報誌等 | 実績3,000万円〜 |
※は保証形態(銀行保証か信用保証協会保証か)で下限が変わる商品です。発行期間は2〜7年が中心ですが幅があり(北海道銀行は3〜10年、広島銀行の銀行保証付は2〜10年)、無担保が標準で、適債基準(純資産額や自己資本比率などの財務基準)を満たす法人が対象です。
使われる環境価値は「J-クレジットまたは非化石証書」とする銀行が大半です。J-クレジットは排出削減・吸収量そのものをオフセットに使えるのに対し、非化石証書は電力の環境価値を示す証書で、施設の電力使用に伴う排出の実質再エネ化に充てられます。福井銀行が恐竜博物館の「使用電力量」を対象にしているように、対象施設の排出の中身に合わせて両者が使い分けられています。
特色ある3商品:設計の参考になる個性派
横浜銀行「横浜ゼロⅡ」は前述のとおり、自治体型から発行企業型へ舵を切った先行例の少ない転換事例です。京葉銀行は発行額の0.1%を千葉県森林組合への寄付に、さらに0.1%相当の森林由来J-クレジット購入に充てる二段構えで、森林整備の支援とオフセットを両立させています。
福井銀行は寄贈先を県立恐竜博物館という単一施設に固定し、私募債発行年度の翌年度6〜7月頃に博物館で寄贈式を開催すると商品要項に明記しました。寄贈先を絞ることで発行企業に「恐竜博物館を支えた企業」という具体的な物語を渡す設計で、対象の分かりやすさが商品の顔になる好例です。
実績データ:数十トン規模の寄贈が続く
公表されている実績を見ると、七十七銀行は2024年9月末までに11社が発行し、宮城県・仙台市それぞれへ120t-CO2分を贈呈しました。広島銀行は2025年度の取扱総額1億5,000万円に対し広島県・広島市へ21t-CO2(15万円相当額)ずつ、香川銀行は2026年2月に7社分・88t-CO2を高松市へ寄贈しています。
静岡銀行は2026年3月に、県主催の産業イベントやコンサートなど5件・約11t-CO2分のオフセット実績(対象私募債の取扱総額6億円、2025年4〜9月発行分)を公表しました。オフセット対象を銀行と県が協議して決める建付けで、年度ごとに対象イベントが入れ替わるのが特徴です。
1件あたりのオフセット量は数トンから数十トンと、工場1棟の排出に比べれば小さい規模です。それでも自治体のイベントや施設のオフセットには実際に使われており、「発行企業を束ねて地域の排出を埋め合わせる」という商品設計の狙いに沿った規模です。
発行企業の実例:16社でみる実際の条件
商品概要だけでは発行のイメージが湧きにくいため、各行が公表している実際の発行事例を集めました。銀行のプレスリリースに散在している情報を横断で並べると、どんな企業がいくらで発行しているかが見えてきます。
公表されている発行事例の一覧
| 発行企業 | 所在地 | 引受銀行 | 発行額 |
|---|---|---|---|
| ソディック | 神奈川県 | 横浜銀行 | 10億円(期間5年) |
| 四国ガス | 愛媛県 | 伊予銀行 | 1億円(期間5年) |
| グリーンエナジー&カンパニー | 徳島県 | 香川銀行 | 3億円 |
| アルテ工業 | 香川県 | 香川銀行 | 1億円 |
| 精和製作所 | 群馬県 | 群馬銀行 | 5,000万円 |
| ヨシイ | 群馬県 | 群馬銀行 | 5,000万円 |
| ジャパレン関東 | 群馬県 | 群馬銀行 | 3,000万円 |
| アール・エフ・マネジメント | 東京都 | 群馬銀行 | 3,000万円 |
| 隅田商事 | 埼玉県 | 群馬銀行 | 3,000万円 |
| 泉川製作所 | 香川県 | 香川銀行 | 3,000万円 |
| ロジック | 香川県 | 香川銀行 | 3,000万円 |
| 日東不動産 | 広島県 | 広島銀行 | 非公開 |
| rohas company | 岡山県 | 広島銀行 | 非公開 |
| エイト | 東京都 | 静岡銀行 | 非公開 |
| エンリード不動産 | 東京都 | 静岡銀行 | 非公開 |
| 新日本住建 | 東京都 | 静岡銀行 | 非公開 |
上場企業のソディック(10億円)から地場の製作所(3,000万円)まで、発行額のレンジは広く、業種も機械・ガス・不動産・エネルギーと多彩です。適債基準を満たす財務が前提になるものの、上場・非上場や規模の大小を問わず使われていることが実例から確認できます。
出典:かがわカーボンオフセット型私募債の受託について|香川銀行
実例から読み取れる3つの傾向
第一に、発行額3,000万〜5,000万円の中小企業案件が件数の中心で、億単位の案件が混ざる構成です。銀行にとっては既存の私募債顧客層がそのまま対象になっており、新しい顧客開拓を待たずに実績が積み上がっています。
第二に、静岡銀行の3社と群馬銀行のアール・エフ・マネジメントは東京都内の企業でした。オフセットの寄贈先は銀行の地元自治体である一方、発行企業の所在地は銀行の本店所在県に限られていません。
第三に、香川銀行は取扱開始の発表と同時に、それ以前に発行済みの4件の受託をまとめて公表しました。見込み顧客への事前提案を済ませたうえで商品を公表する進め方がうかがえます。
発行までの流れ:企業側の手続き
発行を検討する企業向けに、相談から発行後までの標準的な流れを整理します。基本の手続きは通常の銀行保証付私募債と同じで、オフセット固有の追加作業はほとんどありません。以下は各行の商品概要と実例リリースから読み取れる共通の流れで、細部は銀行ごとに異なります。
手続きの5ステップ
流れは、①取引銀行への相談(カーボンオフセット型の取扱有無とスキーム類型の確認)、②適債基準の審査(純資産額・自己資本比率・償還能力などの財務基準)、③発行条件の決定(発行額・期間・保証形態・手数料)、④発行と手数料の支払い、⑤銀行によるクレジット購入・無効化と寄贈式・公表、の5段階です。
発行企業側の固有の準備は③の条件決定までで、④の発行・手数料支払い後のクレジット調達・無効化は銀行と提携事業者が行います。補助金型(伊予銀行)は発行企業自身がクレジットを選定・購入するため⑤の主体が企業側に移り、発行企業オフセット型では自社排出量の範囲確認が加わります。
確認しておくべき3点
相談段階で確認すべきは、第一にスキーム類型(自社の排出がオフセットされる型か、自治体支援型か)です。前述のとおり、対外的に主張できる内容がここで決まります。
第二に公表の扱いです。発行時のプレスリリースや寄贈式への出席は多くの銀行で標準ですが、公表を望まない場合の可否は事前に確認が必要です。
第三に、取扱期間と発行時期です。銀行によっては年度単位で運用されており、決算期との兼ね合いで発行時期の選択肢が限られる場合があります。補助金型を選ぶ場合は、補助対象の費目(クレジット購入か可視化コンサルか)と交付時期・上限額もあわせて確認してください。
発行企業側のメリットと注意点
ここからは発行を検討する企業の視点で、得られるものと注意すべき点を整理します。
メリット:追加負担ゼロで資金調達と環境訴求を両立
前提として、銀行保証付私募債そのものが持つ調達手段としてのメリットがあります。無担保で、経営者の個人保証によらず発行できる(保証は銀行または信用保証協会が付す)社債という形式が、金融機関の審査を通過した信用力の証明として機能します。
そのうえで第一のメリットは費用構造です。補助金型を除き、クレジット費用は銀行の手数料収入から充当されるため、発行企業の負担は通常の私募債と変わりません。信用力の対外証明に、脱炭素貢献という訴求が上乗せされます。
第二に、発行時には銀行がプレスリリースを出し、自治体への寄贈式や感謝状の授与が行われる例が多く、地元メディアへの露出機会になります。取引先や金融機関への説明資料に載せられる第三者発の実績として使える点も、自社単独の取り組みにはない利点です。地域金融機関と自治体が関与する取り組みのため、単独の寄付やクレジット購入よりも第三者性のある形で公表される点が、広報素材としての強みです。
注意点:自治体型では自社の排出はオフセットされない

最も誤解が起きやすいのがこの点です。自治体オフセット型では、無効化されたクレジットは自治体施設の排出に充当され、発行企業自身の排出のオフセットには使われません。発行企業が「当社はカーボンオフセットを実施しました」「自社排出を相殺しました」と表示すると、実態と異なる主張になり、誤認を招くおそれがあります。
対外的に使ってよいのは「地域のカーボンオフセットに貢献」「県のオフセット施策に協力」といった貢献表現までです。自社の排出をオフセットしたい場合は、発行企業型(横浜ゼロⅡなど)を選ぶか、補助金型(伊予銀行)で自らクレジットを購入・無効化するか、私募債とは別に自社名義でのクレジット購入・無効化を行う必要があります。自社排出のオフセットの進め方はカーボンオフセット商品の作り方の解説も参考にしてください。
税務・会計:類型によって扱いが変わる
自治体型では、クレジットを購入・無効化するのは銀行であり、発行企業側に特別な会計処理は発生しません。銀行からの寄贈は銀行自身の負担で行われるため、発行企業の寄付金控除の対象にもなりません(ほくほくフィナンシャルグループが商品概要で明記しています)。発行企業型でクレジットの寄贈を受ける場合の処理は商品ごとに建付けが異なるため、取扱行と顧問税理士に確認してください。
補助金型で発行企業が自らJ-クレジットを購入し無効化した場合は、無効化された日を含む事業年度に、その価額相当額を「国等に対する寄附金」として損金算入できます(国税庁が2014年に確認)。国内法人からの有償購入であれば、消費税は課税仕入れとして仕入税額控除の対象です。
自社購入の場合、登録簿から発行される無効化通知書が客観的な証憑になります。決算や排出量報告で使う場面に備え、無効化の名義・日付・トン数を確認して保管してください。無効化手続きと証憑の実務はJ-クレジットの無効化手続きの解説で詳しく扱っています。
出典:オフセット・クレジットの取引に係る税務上の取扱いについて|国税庁
金融機関側の設計手順【4ステップ】
商品を組成する金融機関の視点では、先行行の公表資料から標準的な設計手順が読み取れます。クレジット供給側として案件に関わる立場から、実務の勘所を加えて4ステップで整理します。

ステップ1:スキーム類型と寄贈先を決める
最初の分岐は、自治体型・発行企業型・補助金型のどれを採るかです。自治体型を選ぶ場合は、寄贈先となる県・市との調整が先行します。名古屋銀行は愛知県と覚書を締結し、静岡銀行はオフセット対象イベントを県と協議して決める建付けにしているように、自治体側との事前の取り決めが商品組成の土台になります。
寄贈先は広く浅く(県所管施設全般)でも、狭く深く(福井銀行の恐竜博物館)でも設計できます。発行企業に渡す物語の具体性を考えると、対象を絞る設計のほうが訴求は強くなります。
ステップ2:充当率と原資を設計する
先行行の充当率は発行額の0.1〜0.2%に収れんしています。仮に発行額1億円・充当率0.1%なら原資は10万円で、東京証券取引所のカーボン・クレジット市場の基準値段(2026年7月時点で森林由来4,400円/t-CO2前後)なら20t強を購入できる計算です。広島銀行の実績(21t-CO2を15万円相当額で寄付)を単純換算すると1トンあたり約7,000円です。当社の調達実務でも、地域由来クレジットの相対調達は市場基準値段より高くなることを前提に原資を設計します。
群馬銀行のように充当割合を非公開とする例もあり、公表の粒度は銀行ごとに異なります。他行比較の際は、充当率だけでなくオフセット対象と無効化の建付けまで含めて見る必要があります。
原資は銀行の手数料収益の範囲内に設計されています。全国の地銀が短期間で追随できたこと自体が、導入ハードルの低さを示しています。
充当率を上げる代わりに使途を分ける設計もあります。京葉銀行は0.1%を千葉県森林組合への寄付、別途0.1%相当をJ-クレジット購入に充てる合計0.2%の二段構えで、森林整備の川上支援とオフセットの川下実行を一つの商品に収めました。原資の割き方そのものが商品の個性になります。
ステップ3:クレジットの調達ルートを確保する
調達ルートは主に、専門事業者(プロバイダー)との提携、グループ会社や創出者(自治体・森林組合等)経由の相対調達(静岡銀行は静銀経営コンサルティングが仲介)、取引所での市場調達の3つです。「地産地消」を打ち出す場合は、地元県内で創出されたJ-クレジットの指定が入るため、相対での事前確保が必須になります。
当社が金融機関向けにクレジットを供給する実務では、県単位の由来指定は供給が細く実勢価格も1万円を超えることがあるため、①由来地域の優先順位(県内→隣県→地方ブロック)、②クレジット種別の代替(森林由来→省エネ由来)、③調達不能時の取り決めまで、商品要項の確定前に契約で固めることを推奨しています。募集後に「地元産が集まらない」となると商品の訴求自体が崩れるためです。クレジット種別ごとの価格水準はJ-クレジットの価格相場の解説にまとめています。
ステップ4:無効化・寄贈式・公表を運用に落とす
購入したクレジットは登録簿上の無効化によってはじめてオフセットとして成立します。無効化の名義、実施時期(年度末一括か発行都度か)、証憑(無効化通知書)の交付先を商品要項に定めます。
無効化の実務では、当社が代理無効化を担う案件でも年度末・決算期に登録簿の申請が集中するため、寄贈式の日程から逆算したスケジュール設計が要点になります。
公表の型も先行行に多く見られます。取扱開始時のプレスリリース、発行の都度の引受公表、寄贈式・実績公表(トン数・相当額)のセットを商品設計の段階で決めておくと、発行企業への提供価値がぶれません。金融機関のオフセット付き商品全体の設計論は金融機関のカーボンオフセット付き商品の作り方で扱っています。
よくある質問(FAQ)
Q. カーボンオフセット型私募債の発行に追加費用はかかりますか?
原則かかりません。
クレジットの購入費用は、銀行が受け取る発行手数料の一部から銀行自身の負担で充当されるため、発行企業の費用は通常の銀行保証付私募債と同じです。
例外は伊予銀行の補助金型で、発行企業が自らクレジットを購入する代わりに、銀行から発行額×0.2%(上限50万円)の補助金を受け取る構造です。
Q. 発行すれば自社がカーボンニュートラルを名乗れますか?
名乗れません。
最多数派の自治体オフセット型では、オフセットされるのは自治体施設の排出であり、発行企業自身の排出のオフセットにはなりません。対外表示は「地域のオフセットに貢献」までにとどめる必要があります。
自社排出のオフセットを目的にする場合は、発行企業型(横浜銀行「横浜ゼロⅡ」など)を選ぶか、補助金型で自らクレジットを購入・無効化するか、別途自社名義でクレジットを購入・無効化してください。
Q. どんな企業が発行できますか?
各行の私募債適債基準を満たす法人が対象です。
適債基準は純資産額・自己資本比率・償還能力などの財務基準で、発行額の下限は3,000万円または5,000万円、期間は2〜7年を中心とした年単位、無担保が標準的な条件です。
上場企業だけでなく、地域の中堅・中小企業の発行例が多いのがこの商品の特徴で、香川銀行の第1号案件は発行額3,000万円の製作所でした。
Q. 使われるクレジットはどんな種類ですか?
J-クレジットと非化石証書が主流です。
名古屋銀行の中部産CO2クレジット、京葉銀行の千葉県森林組合由来、静岡銀行の県内創出分など、地元で創出されたクレジットを指定する「地産地消」設計が多く見られます。
地域由来の指定は訴求力を高める一方、供給が細く単価も上がるため、銀行側には事前の調達契約が求められます。
Q. 金融機関が新規に商品を作る場合、何から始めるべきですか?
スキーム類型の選択と、自治体型なら寄贈先自治体との合意形成が起点です。
自治体オフセット型・発行企業オフセット型・補助金型のどれを採るかで商品の性格が決まります。並行して、クレジットの調達ルートと供給枠を商品要項の確定前に固めます。
充当率0.1〜0.2%・発行下限3,000万円・期間2〜7年という先行行の標準条件に合わせれば、既存の寄贈型私募債の事務フローが組成の土台になります(クレジット調達と無効化の運用設計は新たに必要です)。
まとめ:受益者の設計が商品の価値を決める
カーボンオフセット型私募債は、発行額の0.1〜0.2%相当という小さな原資で、発行企業・銀行・自治体の三者に価値を配る設計のスキームです。全国12行の事例は、自治体オフセット型・発行企業オフセット型・補助金型の3類型に整理でき、オフセットの受益者を誰にするかが商品の性格を決めます。
発行企業は「自社が何を主張できる型なのか」を確認してから銀行を選ぶこと、金融機関は「地元産クレジットの調達枠」を商品要項より先に固めることが、それぞれの要点です。
当社カーボンリンクは、地域由来J-クレジットの調達から無効化代行、私募債・預金など金融商品への環境価値の組み込み設計までを支援しています。商品組成の検討段階からご相談ください。

