温対法(地球温暖化対策推進法)の報告でJ-クレジットが使えるのは、調整後排出量の算定における「無効化したクレジットの控除」という1か所です。報告そのものは対象判定・算定・EEGSでの提出という一連の手続きであり、クレジットはその中の「調整後排出量を減らす手段」として位置づけられます。まず報告の全体像を押さえたうえで、どこにクレジットが効くのかを理解するのが、実務担当者にとっての近道です。
本記事では、温対法の報告義務がある企業の担当者に向けて、対象事業者の判定基準からEEGS(電子報告システム)での報告手順、J-クレジットの無効化が報告のどこに反映されるかの位置づけ、そして無効化の期限から7月末(または6月末)の報告期限までのスケジュール管理を、報告実務の全体手順として解説します。調整後排出量の計算式そのものを詳しく知りたい方は、姉妹記事の調整後排出量とは?J-クレジットで減らす計算式と温対法報告の実務もあわせてご覧ください。
この記事を読むことで、自社が報告対象かどうかの判定から、EEGSでの報告書作成、J-クレジットを活用する場合の手続き、期限管理まで、温対法報告の一連の流れを迷わず進められるようになります。
- 温対法の報告義務がある「特定排出者」の判定基準と、報告が国に届くまでの三層フロー
- 排出量の算定方法と、EEGS(電子報告システム)での報告手順STEP1〜4
- 報告のどこでJ-クレジットが使えるか(調整後排出量の控除という位置づけ)
- 無効化の期限(翌年度4〜6月)と、7月末・6月末の報告期限までの年間スケジュール
- 未報告・虚偽報告の罰則(20万円以下の過料)と、報告実務でありがちな失敗
温対法の報告義務とSHK制度の全体像
まず、温対法の報告制度がどのような仕組みで成り立っているのかを押さえておきましょう。

SHK制度とは?温対法に基づく報告・公表の仕組み
SHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)は、温対法に基づき、一定量以上の温室効果ガスを排出する事業者に自社の排出量の算定と国への報告を義務付ける制度です。SHKは「算定・報告・公表」の略で、報告された排出量は国が集計したうえで公表されます。
対象になるのは、後述する基準を満たす「特定事業所排出者」と「特定輸送排出者」です。温対法という法律名だけでなく「SHK制度」という呼び方もよく使われるため、社内資料や外部の解説記事では両方の表記が混在している点に注意してください。指しているのは同じ制度です。
出典:制度概要|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
報告の三層フロー:特定排出者→事業所管大臣→環境大臣・経済産業大臣
温対法上、報告書の宛先は環境省でも経済産業省でもなく「事業所管大臣」です。温対法第26条は、特定排出者に対し、自社の事業を所管する大臣(事業所管大臣)へ排出量を報告するよう義務付けています。製造業であれば経済産業大臣、運輸業であれば国土交通大臣など、業種によって窓口となる大臣が異なる仕組みです。
報告を受けた事業所管大臣は、温対法第28条に基づき遅滞なく排出量を集計し、その結果を環境大臣・経済産業大臣に通知します。通知を受けた環境大臣・経済産業大臣は、温対法第29条に基づき、その情報を電子計算機のファイルに記録し公表します。事業者から見れば、この三層構造を意識する必要はほとんどありません。提出先はすべてEEGS(電子報告システム)に一本化されており、システム上で報告書を提出すれば、事業所管大臣以降の処理は制度側で進みます。
基礎排出量と調整後排出量は両方が公表される
報告する排出量には、基礎排出量と調整後排出量の2つがあります。基礎排出量は燃料・電気・熱の使用量に基礎排出係数を掛けた「実際の排出量」で、調整後排出量は調整後排出係数を使い、さらに無効化したJ-クレジットなどを差し引いて算定する数値です。両者は並記されて公表されるため、実際の排出量と、クレジット活用などの制度上の調整を反映した数値の両方が外部から見える構造になっています。
調整後排出量の具体的な計算式(5つの構成要素と控除・加算のルール)は、本記事では概要のみ扱います。詳しい計算方法は調整後排出量とは?J-クレジットで減らす計算式と温対法報告の実務で解説していますので、算定担当者はあわせてご確認ください。
出典:集計結果|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
報告義務の対象になる事業者は誰か【対象判定】
報告の第一歩は、自社が報告義務のある「特定排出者」に該当するかどうかの判定です。この判定は国からの通知を待つものではなく、事業者自身が行います。

特定事業所排出者・特定輸送排出者の判定基準
特定事業所排出者に該当するのは、次のいずれかの基準を満たす事業者です。第一に、エネルギー起源CO2について、全事業所のエネルギー使用量合計が原油換算1,500kl/年以上の事業者(省エネ法の特定事業者・特定連鎖化事業者等)です。第二に、非エネルギー起源CO2やメタンなどのその他ガスについて、温室効果ガスの種類ごとにCO2換算3,000トン以上、かつ常時使用する従業員が21人以上の事業者です。ガスの種類ごとの判定であり、複数ガスを合算して基準を満たすかどうかを判定するわけではない点に注意してください。
このほか、省エネ法の特定貨物輸送事業者・旅客輸送事業者・航空輸送事業者・特定荷主などに該当する事業者は、特定輸送排出者として報告義務を負います。荷主については、自社の貨物の年間輸送量が3,000万トンキロ以上になると特定荷主に該当し、輸送事業者側にも保有車両数などの基準があります。特定事業所排出者の報告期限は毎年度7月末日、特定輸送排出者の報告期限は毎年度6月末日です。1か月のズレがあるため、両方の基準に該当する事業者は期限管理を分けて考える必要があります。
判定基準を整理すると、以下のようになります。
| 特定事業所排出者 | 特定輸送排出者 | |
|---|---|---|
| 対象ガス・基準 | エネルギー起源CO2:原油換算1,500kl/年以上/その他ガス:種類別3,000t-CO2以上+従業員21人以上 | 貨物・旅客・航空の各輸送事業者の基準、または年間輸送量3,000万トンキロ以上の特定荷主 |
| 報告期限 | 毎年度7月末日 | 毎年度6月末日 |
| 根拠となる指定 | 省エネ法の特定事業者・特定連鎖化事業者等 | 省エネ法の特定貨物輸送事業者・旅客輸送事業者・航空輸送事業者・特定荷主等 |
| 報告先 | 事業所管大臣 | 事業所管大臣(業種により国土交通大臣等) |
出典:制度概要|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
対象外となる活動:海外拠点・委託先処理・工事現場の一時使用
判定にあたっては、対象から外れる活動も把握しておく必要があります。海外の事業所および海外法人は、日本国内の温対法の報告対象にはなりません。また、廃棄物の処理を外部の処理事業者に委託した場合、その処理に伴う排出は処理事業者側で扱われ、廃棄物を排出した側の事業者が重ねて算定する必要はありません。工事現場での一時的な作業に伴うエネルギー起源CO2についても、対象外の扱いとなる場合があります。
こうした除外規定を正しく理解していないと、算定の範囲を必要以上に広げてしまい、社内での集計作業が余計に膨らむことがあります。自社の事業所・委託関係を洗い出す段階で、どの排出が報告対象に含まれるのかを一度整理しておくと、後工程の算定がスムーズになります。
出典:Q&A|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
対象になるかは自己判定。毎年度の確認が必要
特定排出者としての指定は、国から個別に通知されるものではありません。事業者自身が、政省令で定められた算定方法・排出係数を用いて排出量を算定し、基準を満たすかどうかを判定します。前年度に対象でなかった事業者が、事業拡大や拠点の追加によって今年度から対象になることもありますし、逆に対象から外れることもあります。
そのため、報告実務の第一歩は「今年度も対象かどうか」を毎年度確認することです。特に、複数の事業所を持つ企業やグループ会社間で事業所の移管があった企業は、全社のエネルギー使用量合計を都度洗い直す必要があります。判定を怠って未報告になれば、後述する罰則の対象になり得ます。
排出量の算定方法【STEP解説】
対象判定が済んだら、実際の排出量を算定します。算定の骨格は環境省が示す4つのステップです。
算定の4ステップ:排出活動の抽出→算定→CO2換算→合計
排出量算定の流れは、①排出活動の抽出、②活動ごとの排出量の算定、③CO2換算値の算定、④排出量の合計値の算定、という4ステップで構成されます。まず自社のどの活動(燃料の使用、電気の使用、廃棄物の焼却など)が算定対象になるかを洗い出し、それぞれの活動量に対応する排出係数を掛けて排出量を求め、ガスの種類ごとにCO2換算し、最後に事業所単位・全社単位で合計します。
この4ステップは、エネルギー起源CO2にも非エネルギー起源のその他ガスにも共通する骨格です。算定範囲が広い企業ほど、事業所ごとの活動量データを集める初期工程に時間がかかるため、報告期限のかなり手前から準備を始めるのが実務上の定石です。
出典:制度概要|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
基礎排出係数と調整後排出係数の違い
電気・熱の使用に伴う排出量は「使用量×排出係数」で算定しますが、係数には基礎排出係数と調整後排出係数の2種類があります。基礎排出係数はその電気事業者の実際の発電構成に基づく係数で、調整後排出係数は、小売電気事業者が非化石証書やJ-クレジットなどの環境価値を反映して調整した係数です。基礎排出量の算定には基礎排出係数を、調整後排出量の算定には調整後排出係数を使います。
契約する電力メニューにメニュー別の調整後排出係数が公表・適用されている場合、その係数が調整後排出量に反映されます。つまり調整後排出量は、電気の契約先・メニューの選び方によっても変わる数字であり、クレジットの無効化だけが調整の手段というわけではありません。
排出係数は環境省の公表値を毎年度確認する
算定に使う排出係数は固定値ではなく、環境省・経済産業省が毎年度、電気事業者別排出係数として公表しています。契約している電気事業者・メニューの係数は、この一覧で確認します。新規参入事業者などで係数が未公表の場合は代替値を使用し、その場合は基礎・調整後とも同じ値になります。
前年度の係数をそのまま使い回すと、算定結果が実際と食い違うことがあります。報告書を作成する年度ごとに、最新の公表値を確認してから算定に取りかかりましょう。基本的な用語や制度の全体像を確認したい場合は、J-クレジットとは?制度・種類・仕組み・価格市場・活用事例を分かりやすく解説も参考になります。
出典:算定方法・排出係数一覧|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
EEGSで報告書を作成・提出する手順【STEP1〜4】
算定が終わったら、報告書を作成し提出します。令和4年度以降、この作成・提出は原則としてEEGS(省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム)で行います。

STEP1. 対象確認と基本情報の登録
EEGSはポータルサイト(https://eegs.env.go.jp/eegs-portal/)から利用します。初めて利用する場合は、法人情報・事業所情報などの基本情報を登録する必要があります。令和4年度から電子報告システムでの作成が可能になり、紙のWord様式の掲載は終了しているため、現在はEEGSでの報告が基本のルートです。
基本情報の登録は、初回利用時に一度済ませておけば、翌年度以降は同じ情報を引き続き利用できます。担当者が変わる場合は、ログイン情報の引き継ぎを忘れないようにしてください。
出典:省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
STEP2. エネルギー使用量・活動量の入力
基本情報の登録後、燃料・電気・熱の使用量や、その他ガスの排出に関わる活動量を入力します。ここで入力する数値は、前章で算定した排出量算定の元データです。事業所が複数ある場合は、事業所ごとに入力するため、あらかじめ事業所別のデータを整理しておくと入力作業が早く進みます。
森林の炭素蓄積変化量を扱う事業者向けには、専用の算定シートも用意されています。算定方法が特殊な活動がある場合は、算定・報告マニュアル(Ver6.1・令和8年3月)の該当箇所を確認しながら入力してください。
出典:マニュアル・様式|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
STEP3. 報告書(様式第1・第2)の作成
入力したデータをもとに、様式第1(算定排出量等報告書)と様式第2(増減状況情報)を作成します。前年度から排出量が大きく増減した場合は、増減の理由を様式第2に記載する必要があります。J-クレジットを無効化して調整後排出量を控除する場合は、この報告書作成の段階で、無効化通知書に記載されている情報(無効化数量・処理日など)を控除欄に反映します。
EEGSで扱う様式を整理すると、以下のとおりです。
| 様式 | 内容 |
|---|---|
| 様式第1 | 算定排出量等報告書(基礎排出量・調整後排出量・控除に使ったクレジット情報など) |
| 様式第2 | 増減状況情報(前年度からの排出量の増減理由) |
| 様式第4〜6 | 電子システム届出書(EEGS利用に関する届出) |
報告書作成支援ツールを使う方法と、EEGS上で直接作成する方法のどちらかを選べます。複数の事業所・複数の担当者が関わる場合は、入力ミスを防ぐために、提出前に別の担当者がダブルチェックする体制を組んでおくと安心です。
出典:マニュアル・様式|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
STEP4. 提出と提出後の訂正ルール
作成した報告書をEEGS上で提出すると、制度上は事業所管大臣に到達したことになります。前述のとおり、事業者側で事業所管大臣に個別連絡する必要はありません。
提出後の訂正は、報告年度や公表の前後によって扱いが異なり、いつでも自由にできるわけではありません。提出前の確認を徹底し、ミスに気づいた場合はEEGSの案内と所管窓口の指示に従って速やかに対応してください。
出典:Q&A|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
報告のどこでJ-クレジットが使えるか【クレジット活用の位置づけ】
ここまでの報告手続きの中で、自社が調達・無効化するJ-クレジットが直接関わるのは、調整後排出量を算定する際の「控除」という工程です。
調整後排出量の計算式とJ-クレジットが効く場所
環境省Q&Aによる調整後排出量の計算式は、①エネルギー起源CO2排出量+②非エネルギー起源CO2排出量+③その他ガスの基礎排出量−④無効化したクレジット等+⑤自ら創出し他者へ移転した量、という5つの要素で構成されます。J-クレジットが効くのは④の控除項目で、無効化した量がそのままトン単位で差し引かれます。
購入しただけでは控除に使えず、J-クレジット登録簿システム上で無効化の手続きを完了させて初めて反映されます。また、控除に使えるのは他者が創出したクレジットを取得して無効化したものに限られ、自社が創出したクレジットを自社で無効化しても控除には使えません。計算式の詳細な構造や具体的な計算例は、調整後排出量とは?J-クレジットで減らす計算式と温対法報告の実務で解説しています。
出典:Q&A(調整後温室効果ガス関係)|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
無効化通知書の情報をEEGSの報告書に記載する
J-クレジットの無効化が完了すると、J-クレジット登録簿システムから無効化通知書がPDFで即時に発行されます。EEGSでの報告書作成(前章STEP3)では、この通知書に記載されている無効化数量・処理日などの情報を控除欄に反映します。添付の要否など提出方法の詳細はEEGSの案内・記入要領に従い、報告内容と通知書の記載が一致していることを社内の記録として整理しておきましょう。
当社(カーボンリンク)が代理無効化のご相談を受ける中でも、温対法の報告を目的とするケースでは、無効化の処理日を6月中旬までに済ませておくことをおすすめしています。7月末の報告期限直前は社内の数値確定作業が重なりやすく、6月末ギリギリの無効化では、報告書作成に充てる時間が圧迫されてしまうためです。無効化通知書の記載項目や取得手順は、J-クレジット無効化通知書とは?記載項目・取得手順・代理無効化を解説で詳しく解説しています。
温対法以外の活用(GX-ETS・CDP等)との違い【比較表】
同じJ-クレジットの無効化でも、報告先の制度によって扱いが異なります。混同しやすいポイントを整理すると、以下のようになります。
| 温対法(調整後排出量) | GX-ETS | CDP・SBT・RE100 | |
|---|---|---|---|
| 報告書類 | EEGSの様式第1・第2 | GX-ETS登録簿での償却報告 | 各イニシアティブの回答フォーム |
| 使えるクレジット | J-クレジットほか6種類 | J-クレジットとJCMのみ | 再エネ電力・熱由来のJ-クレジット等 |
| 量の上限 | Q&A上、明示的な上限は示されていない | 実排出量(控除前)の10% | 制度・基準による |
| 無効化・償却の期限 | 対象年度またはその翌年度4〜6月 | 制度の遵守期間に応じる | 報告サイクルに応じる |
GX-ETSは2026年度から義務化された排出量取引制度で、直接排出量が10万t-CO2以上の事業者に排出枠の遵守義務が課されます。GX-ETSでの手続きは「償却」と呼ばれ、報告書もEEGSとは別のGX-ETS登録簿で扱われます。複数制度への対応が必要な事業者は、同じJ-クレジットでも、どの報告書のどの欄に何を記載するのかを制度ごとに分けて管理してください。クレジットの調達ルートの比較は、J-クレジットの購入方法4つを比較|買い方の流れと活用方法を解説をご覧ください。
無効化から報告完了までの期限管理【年間スケジュール】
報告実務でもっとも手戻りが起きやすいのが、無効化の期限と報告の期限を混同することです。両者は別のタイミングで設定されています。

報告期限(7月末・6月末)と無効化期限(翌年度4〜6月)の関係
調整に使えるのは、算定対象の排出年度中またはその翌年度の4〜6月までに無効化されたクレジットです。たとえば2025年度の排出量の調整であれば、2025年4月1日から2026年6月30日までに無効化されたものが対象になります。期限の判定は、無効化通知書に記載される処理日が基準です。通知書の受領が7月であっても、処理日が6月中であれば対象年度の報告に使えます。
一方、報告そのものの期限は特定事業所排出者が毎年度7月末日、特定輸送排出者が毎年度6月末日です。無効化期限(4〜6月)と報告期限(6月末・7月末)はいずれも「翌年度」に設定されていますが、月がずれているため、無効化を先に終えてから報告書作成に進むという順序を意識しておく必要があります。
年間スケジュールの目安【表で整理】
年間のサイクルを整理すると、以下のようになります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 排出年度中(4月〜翌年3月) | 算定見込みの把握、クレジット必要量の見積り・調達 |
| 翌年度4月〜6月 | J-クレジットの無効化(処理日ベースで期限判定) |
| 翌年度6月末 | 特定輸送排出者の報告期限 |
| 翌年度7月末 | 特定事業所排出者の報告期限(EEGSで提出) |
無効化の手続き自体は登録簿システム上で即時に完了します。時間がかかるのはその手前のクレジット調達と社内決裁であり、報告期限の直前に慌てて動くと、この調達フェーズにしわ寄せが集中します。
期限直前に慌てないための逆算のコツ
実務上のコツは、7月末(または6月末)の報告期限から逆算してスケジュールを組むことです。まず報告期限から、無効化を終えておきたい時期(特定事業所排出者は6月中旬まで、報告期限が6月末の特定輸送排出者は6月上旬までが目安)を決め、さらにそこから逆算して、クレジットの調達に必要な期間(標準的には5〜20営業日程度)を見込みます。加えて、毎年4〜6月は無効化の駆け込みでクレジットの引き合いが強まる時期でもあるため、年度末までに調達を終え、4〜6月は無効化と報告書作成に専念できる状態を作っておくのが安全です。
社内の決裁や予算取りに時間がかかる企業ほど、この逆算スケジュールの効果は大きくなります。初めて温対法の報告でJ-クレジットを使う場合は、前年度のうちに調達計画を立てておくことをおすすめします。
報告義務違反の罰則と公表リスク
報告義務を怠った場合、あるいは事実と異なる内容を報告した場合には、法律上の罰則が科されます。
未報告・虚偽報告の罰則(20万円以下の過料)
温対法第75条第1号は、第26条第1項の規定による報告をせず、または虚偽の報告をした者について、20万円以下の過料に処すると定めています。過料は刑罰である罰金とは異なる行政上の制裁ですが、法律に明記された罰則である点は変わりません。
「今年度は忙しいから報告を後回しにする」という判断は、この罰則の対象になり得ます。算定に不備があり結果的に誤った数値を報告した場合も、訂正対応や行政からの確認の対象になり得るため、算定・入力の各段階でのチェックが重要です。
罰則より重い「公表」による信用リスク
20万円以下の過料という金額そのものは、企業規模によっては大きな負担にならないかもしれません。しかし、報告した排出量は基礎排出量・調整後排出量ともに公表され、取引先・金融機関・ESG投資家などの外部関係者が閲覧できるオープンデータになります。未報告や虚偽報告が明らかになれば、この公表制度を通じて、金銭的な罰則以上に大きな信用面での影響が及ぶ可能性があります。
サプライチェーン上の取引先から排出量データの提出を求められる場面も増えており、報告実務の正確性は、単なる法令対応にとどまらず、対外的な説明力そのものにつながっています。
権利利益の保護に係る請求(非公表にできる例外)
報告した排出量情報の公表によって自社の権利利益が害されるおそれがあると考える場合、事業者は事業所管大臣に対して「権利利益の保護に係る請求」を行うことができます。温対法第27条に定められた手続きで、請求が認められた場合、該当する情報は非公表として扱われます。
この請求は誰でも自由に認められるものではなく、事業所管大臣が判断基準に従って審査します。営業秘密に該当するなど、公表によって具体的な不利益が生じる合理的な理由が必要です。原則は公表であることを前提に、例外的な保護の仕組みとして理解しておきましょう。
よくある失敗と実務チェックリスト
最後に、温対法の報告実務で実際に起こりがちな失敗を押さえておきましょう。
ありがちな5つの失敗
- 今年度の対象判定を怠った:指定通知は来ません。事業拡大や拠点変更があった年度は特に、自己判定を毎年度やり直す必要があります。
- 無効化期限と報告期限を混同した:無効化の期限(翌年度4〜6月)と報告の期限(6月末・7月末)は別のタイミングです。無効化を報告期限当日まで先延ばしにすると間に合いません。
- 自社創出クレジットを控除に使おうとした:調整後排出量の控除に使えるのは他者創出クレジットの無効化分のみです。
- 報告書提出後に記載ミスに気づいた:提出後の訂正には制限があります。提出前のダブルチェックが重要です。
- 旧Word様式の情報のまま作業した:令和4年度以降、報告はEEGSが基本です。古い資料を参照して様式を混同しないよう注意してください。
報告前チェックリスト
- 今年度の対象判定(特定事業所排出者・特定輸送排出者)を確認したか
- 排出係数は最新年度の公表値を使用しているか
- J-クレジットを控除に使う場合、無効化の処理日は期限内(対象年度またはその翌年度6月まで)か
- 無効化通知書の記載情報とEEGSの報告書の記載内容が一致しているか
- 報告期限(特定事業所排出者7月末・特定輸送排出者6月末)に対して、社内決裁を含めたスケジュールを確保しているか
よくある質問(FAQ)
Q. 温対法の報告義務があるのに報告しなかった場合、どうなりますか?
温対法第75条第1号により、報告をしなかった場合、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料に処されます。加えて、報告制度自体が排出量の公表を前提としているため、未報告や虚偽報告が明らかになった場合の信用面での影響も見込んでおく必要があります。
Q. EEGSでの報告に、J-クレジットの無効化通知書のPDFをそのまま添付する必要がありますか?
EEGSの報告書には、無効化通知書に記載されている無効化数量や処理日などの情報を控除欄に入力しますが、通知書のPDFファイル自体を添付する義務はありません。ただし、報告内容の根拠として、通知書は社内で保管しておく必要があります。
Q. 前年度分の報告に記載ミスがあった場合、後から訂正できますか?
提出後の訂正は、報告年度や公表の前後によって扱いが異なります。ミスに気づいた場合は、EEGSの案内と所管窓口の指示に従って早めに対応してください。
Q. 自社が対象事業者かどうか、国から通知が来ますか?
来ません。特定事業所排出者・特定輸送排出者への該当は、事業者自身が政省令で定められた基準に基づいて毎年度判定します。事業拡大や拠点の統廃合があった年度は、判定をやり直す必要があります。
Q. J-クレジットを無効化すれば、報告義務そのものがなくなりますか?
なくなりません。J-クレジットの無効化は、調整後排出量を算定する際の控除に使える手段であり、報告義務そのものを免除するものではありません。特定排出者に該当する限り、基礎排出量・調整後排出量の両方を毎年度報告する義務は続きます。
まとめ
温対法の報告実務は、対象判定→算定→EEGSでの報告→期限管理という一連の手続きであり、J-クレジットはその中の「調整後排出量を減らす手段」として位置づけられています。最後に本記事の要点を整理します。
- 報告先は事業所管大臣。EEGSで提出すれば、事業所管大臣・環境大臣・経済産業大臣への処理は制度側で進む
- 対象判定は自己判定。指定通知はないため、毎年度自社で基準を確認する
- J-クレジットが効くのは調整後排出量の控除のみ。無効化の処理日が対象年度またはその翌年度6月までであることが条件
- 無効化期限(翌年度4〜6月)と報告期限(6月末・7月末)は別のタイミング。逆算したスケジュール管理が必須
- 未報告・虚偽報告には20万円以下の過料。加えて排出量は公表されるため、信用面のリスクも大きい
当社カーボンリンクのカーボンオフセットデスクでは、報告目的でのJ-クレジットの選定・調達から、代理無効化、無効化通知書のお渡し、報告スケジュールに合わせた期限管理のご案内までを一括でサポートしています。累計3.5億円を超えるJ-クレジット取引の実務経験をもとに、選定から通知書のお渡しまで、案件の内容・数量・時期により変動しますが標準5〜20営業日程度でご案内しています。今年度の報告に向けたご相談も歓迎します。

