調整後排出量とは、温対法(地球温暖化対策推進法)の算定・報告・公表制度で報告する排出量のうち、J-クレジットなどの無効化したクレジットを控除して算定できる排出量のことです。実際の排出量である基礎排出量に対して、クレジットの活用など「排出量を減らすための行動」を反映できるのが調整後排出量であり、企業の削減努力を対外的に示す数字になります。
「基礎排出量と調整後排出量は何が違うのか」「クレジットはどこにどう効くのか」は、報告実務の担当になった方が最初につまずくポイントです。本記事では、環境省の公式Q&Aに準拠した調整後排出量の計算式を図解し、J-クレジットで控除する具体的な手順、無効化の期限、登録簿口座がない企業でも使える代理無効化と同意書類の実務まで解説します。あわせて、見落とされがちな「クレジットを売った側は調整後排出量が増える」という加算ルールにも触れます。
この記事を読むことで、自社の調整後排出量をJ-クレジットでどこまで・どうやって減らせるのかを判断し、報告期限から逆算して調達と無効化を進められるようになります。
- 基礎排出量と調整後排出量の違いと、調整後排出量の計算式(5つの構成要素)
- 調整に使えるクレジット6種類と、J-クレジットが第一候補になる理由
- クレジット調達から無効化・報告記載までの手順と期限(翌年度4〜6月)
- 登録簿口座がない企業が使う「代理無効化」と、同意を確認する書類の要件
- クレジットを創出・売却した側に働く「加算ルール」と森林・バイオ炭の例外
調整後排出量とは?温対法報告の基礎知識
まず、温対法の報告制度における調整後排出量の位置づけを押さえましょう。「基礎排出量との違い」が理解の出発点です。対象判定から報告手続きまでの全体像は温対法報告でJ-クレジットを使う方法で詳しく解説しています。
基礎排出量と調整後排出量の違い
温対法の算定・報告・公表制度(SHK制度)では、特定排出者に該当する企業は毎年度、温室効果ガス排出量を国に報告します。このとき報告する排出量には、基礎排出量と調整後排出量の2つがあります。
基礎排出量は、燃料・電気・熱の使用量に基礎排出係数を掛けて算定する「実際の排出量」です。一方、調整後排出量は、電気・熱について調整後排出係数を用い、さらに無効化したクレジットの分を差し引いて算定します。つまり、再エネメニューの電気を選んだり、J-クレジットを購入・無効化したりといった対策が数字に反映されるのは、調整後排出量のほうです。
自社の削減対策だけでは目標に届かない年度でも、J-クレジットの無効化によって調整後排出量を減らすことができます。これが、温対法対応におけるカーボン・オフセットの制度上の受け皿です。
報告義務の対象となる「特定排出者」の範囲
報告義務の対象は温対法の特定排出者です。エネルギー起源CO2については、全事業所のエネルギー使用量合計が原油換算1,500kl/年以上の事業者(省エネ法の特定事業者・特定連鎖化事業者など)が特定事業所排出者に該当します。
非エネルギー起源CO2やメタンなどのその他ガスについては、温室効果ガスの種類ごとに排出量がCO2換算3,000トン以上で、かつ常時使用する従業員が21人以上の事業者が対象です。このほか、省エネ法の特定貨物輸送事業者や特定荷主などの特定輸送排出者にも報告義務があります。
報告の期限は、特定事業所排出者が毎年度7月末日、特定輸送排出者が毎年度6月末日です。後述するクレジットの無効化期限(4〜6月)は、この報告期限から逆算した設定になっています。
出典:制度概要|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
報告した排出量は公表される
SHK制度で報告した排出量は、事業者ごとに集計され公表されます。取引先や金融機関、就職活動中の学生までもが閲覧できる公開情報であり、単なる行政手続きではなく企業評価に直結する開示です。
基礎排出量と調整後排出量は並記されるため、「実際の排出はこれだけあるが、クレジット活用でここまで調整した」という削減姿勢そのものが見える構造になっています。両者の差分は、いわば削減・調整の努力量として読まれる数字です。調整後排出量を適切に小さくしておくことは、脱炭素に取り組む企業としての対外的な説明力を高めます。
なお、報告の実務は電子報告システム「EEGS」での作成・提出が基本です。紙のWord様式の掲載は終了しており、算定・報告マニュアル(Ver6.1・令和8年3月)と様式第1に沿ってEEGSで報告書を作成します。クレジットで調整を行う場合は、無効化したクレジットの情報を所定の欄に記載するため、無効化通知書を手元に揃えてから入力するとスムーズです。
出典:集計結果|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)/マニュアル・様式|同制度(環境省)
調整後排出量の計算式【環境省Q&A準拠】
調整後排出量の計算式は、環境省の公式Q&Aで明示されています。構造を理解すれば、「どこをJ-クレジットで減らせるのか」が一目でわかります。

計算式は「3つの排出量−控除+加算」の5要素
環境省Q&Aによる調整後排出量(t-CO2)の計算式は以下のとおりです。
| 要素 | 内容 | 係数・備考 |
|---|---|---|
| ① | エネルギー起源CO2排出量(廃棄物原燃料使用に伴うものを除く) | 電気・熱・都市ガスは調整後排出係数で算定 |
| ② | 非エネルギー起源CO2排出量(同上を除く) | — |
| ③ | CH4・N2O・HFC・PFC・SF6・NF3の基礎排出量 | — |
| ④ | 【控除】無効化した国内認証排出削減量・海外認証排出削減量・非化石電源二酸化炭素削減相当量 | J-クレジットはここ |
| ⑤ | 【加算】自ら創出した国内認証排出削減量のうち他者へ移転した量 | 森林由来・バイオ炭由来は除く |
調整後排出量=①+②+③−④+⑤ という構造です。J-クレジットの無効化が効くのは④の控除項目で、無効化した量がそのままトン単位で差し引かれます。
出典:Q&A(調整後温室効果ガス関係)|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
④控除:無効化したクレジットがトン単位で効く
控除項目④のポイントは、購入しただけでは効かないことです。J-クレジットは登録簿上で無効化の手続きを完了させ、環境価値の使用を確定させてはじめて控除に使えます。
また、控除に使えるのは他者が創出したクレジットを取得して無効化したものです。自社が創出したクレジットを自社で無効化しても、調整後排出量の控除には使えません。この点は誤解が多いため、創出事業を持つ企業は特に注意してください。
無効化の手続き自体は登録簿システム上でリアルタイムに完了し、証跡となる無効化通知書も即時にダウンロードできます。無効化と通知書の実務はJ-クレジット無効化通知書とは?記載項目・取得手順・代理無効化を解説で詳しく解説しています。
⑤加算:クレジットを「売った側」は排出量が増える
見落とされがちなのが加算項目⑤です。自ら創出した国内認証排出削減量を他者へ移転(売却)した場合、その量を自社の調整後排出量に加算しなければなりません。環境価値を手放した分は、自社の削減としてカウントできなくなるという整理です。
ただし重要な例外があります。森林の整備・保全による吸収量として認証されたもの(令和4年度報告から)と、バイオ炭の農地施用による貯留量として認証されたもの(令和5年度報告から)は、加算の対象から除かれています。森林由来・バイオ炭由来のクレジットは、売却しても自社の調整後排出量が増えないということです。
出典:Q&A(調整後温室効果ガス関係)|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
計算例:J-クレジット500t-CO2を無効化するとどうなるか
数字のイメージを持つために、簡単な例で確認します。ある製造業の特定事業所排出者が、次の条件だったとします。
| 項目 | 数量 |
|---|---|
| ①エネルギー起源CO2(調整後排出係数ベース) | 9,200 t-CO2 |
| ②非エネルギー起源CO2 | 300 t-CO2 |
| ③その他ガス(CH4等)の基礎排出量 | 500 t-CO2 |
| ④無効化したJ-クレジット | 500 t-CO2 |
| ⑤創出クレジットの他者移転 | 0 t-CO2 |
調整後排出量=9,200+300+500−500+0=9,500 t-CO2 となります。①〜③の合計10,000t-CO2に対し、無効化した500t-CO2がそのまま差し引かれ、5%の削減が数字に表れました。
控除は1トン=1トンで効くため、効果の予測が立てやすいのが特徴です。「今年度は基礎排出量の◯%相当を無効化する」という形で、予算と目標を対応させて計画できます。
調整後排出量が基礎排出量より大きくなるケース
環境省Q&Aでは、調整後排出量が基礎排出量を上回るケースも想定されています。契約している電気事業者の調整後排出係数が基礎排出係数より大きい場合や、前述の加算(売却分)が控除(無効化分)を上回る場合です。
「調整後=必ず小さくなる数字」ではない点を押さえたうえで、自社の係数と創出・売却の状況を確認しておきましょう。
調整に使えるクレジットの種類とJ-クレジットを選ぶ理由
控除項目④に使えるクレジットは、環境省Q&Aで6種類が示されています。
控除に使える6種類の一覧
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| J-クレジット | 国内の省エネ・再エネ・森林等由来。現在の調達の中心 |
| 国内クレジット制度のクレジット | 旧制度(2013年にJ-クレジット制度へ統合) |
| J-VER制度のクレジット | 旧オフセット・クレジット制度(同上) |
| グリーンエネルギーCO2削減相当量 | グリーン電力・熱証書に係る認証量 |
| JCM(二国間クレジット制度)のクレジット | 海外プロジェクト由来の国際クレジット |
| 非化石電源二酸化炭素削減相当量 | 非化石証書に係る削減相当量(令和4年度報告から使用可能) |
出典:Q&A(調整後温室効果ガス関係)|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
実務の第一候補がJ-クレジットになる理由
6種類のうち、現在の調達実務で第一候補になるのはJ-クレジットです。理由は3つあります。
第一に、流通量と調達手段の多さです。旧制度(国内クレジット・J-VER)は新規発行が終了しており、市中在庫は限られます。J-クレジットは相対取引・東証カーボン・クレジット市場・プロバイダー経由など複数の調達ルートがあり、必要量を確保しやすい状況です。購入方法の比較はJ-クレジットの購入方法4つを比較をご覧ください。
第二に、用途の広さです。J-クレジットは温対法の調整だけでなく、CDP・SBT・RE100への報告(再エネ電力由来の場合)や、2026年度に義務化されたGX-ETS(排出量取引制度)の適格クレジットとしても使えます。GX-ETSの適格クレジットはJ-クレジットとJCMの2種類のみで、使用上限は各年度の実排出量(無効化量控除前)の10%とされています。複数制度への対応を見据えるなら、汎用性の高いJ-クレジットを軸に調達するのが合理的です。
第三に、価格と種類の選択肢です。省エネ由来・再エネ電力由来・森林由来など、目的と予算に応じて種類を選べます。相場の最新動向はJ-クレジット価格の推移と2026年以降の見通しで解説しています。
温対法・GX-ETS・CDPでルールが違う点に注意
同じJ-クレジットでも、報告先の制度によって使えるルールが異なります。混同しやすいポイントを整理します。
| 温対法(調整後排出量) | GX-ETS | CDP・SBT・RE100 | |
|---|---|---|---|
| 使えるクレジット | 6種類(J-クレジット・JCM・非化石電源CO2削減相当量ほか) | J-クレジットとJCMのみ | 再エネ電力・熱由来のJ-クレジット等 |
| 量の上限 | Q&A上、控除量の上限は示されていない | 実排出量(控除前)の10% | 制度・基準による |
| 期限・タイミング | 対象年度またはその翌年度4〜6月までの無効化 | 制度の遵守期間に応じる | 報告サイクルに応じる |
| 自己創出クレジット | 控除に使用不可 | — | — |
「温対法用」と「GX-ETS用」など活用範囲の異なる目的は、1つの無効化申請にまとめることができません。複数制度に対応する年度は、目的別に無効化を分けて設計してください。
また、調整に用いる温室効果ガスは基礎排出量の報告対象となっているもののみです。報告対象外のガス(例:3,000t-CO2未満の非エネルギー起源ガス)の分まで調整する必要はありません。
調整後排出係数とは?電気の契約でも調整後排出量は変わる
計算式の①で登場した調整後排出係数についても押さえておきましょう。クレジットの無効化と並ぶ、調整後排出量のもう一つの調整レバーです。
基礎排出係数と調整後排出係数の違い
電気の使用に伴う排出量は「使用量×排出係数」で算定しますが、係数には基礎排出係数と調整後排出係数の2種類があります。調整後排出係数は、小売電気事業者が非化石証書やJ-クレジットなどの環境価値を反映して調整した係数で、環境省・経済産業省が毎年度、電気事業者別排出係数として公表しています。
再エネ比率の高い電力メニューを契約していれば、その分だけ調整後排出係数が小さくなり、①の排出量が下がります。つまり調整後排出量は、「どの電気を買うか」と「クレジットをどれだけ無効化するか」の両輪で減らせる数字です。
自社が契約している事業者・メニューの係数は、環境省の「算定方法・排出係数一覧」ページで毎年度公表される電気事業者別排出係数の一覧で確認できます。契約更改のタイミングでメニュー別係数を比較すれば、電気の切り替えによる調整後排出量の削減余地を定量的に把握できます。
なお、新規参入事業者などで係数が公表されていない場合は代替値を使用し、その場合は基礎・調整後とも同じ値になります。
出典:算定方法・排出係数一覧|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
電気事業者側の係数調整にもJ-クレジットが使われている
視点を変えると、小売電気事業者・ガス事業者・熱供給事業者は、自社の調整後排出係数やメニュー別係数の調整にJ-クレジット(再エネ電力由来等)を活用しています。ガス事業者・熱供給事業者による調整は2024年度から可能になりました。
需要家企業が「排出係数の低いメニュー」として購入している電気の裏側でも、J-クレジットが働いているということです。自社での無効化とメニュー選択のどちらが費用対効果に優れるかは、使用量と単価次第なので、両方を並べて試算する価値があります。
J-クレジットで調整後排出量を減らす4つの手順【期限は翌年度4〜6月】
ここからは、実際にJ-クレジットで調整後排出量を減らす手順を、報告期限から逆算して整理します。年間サイクルの目安は、排出年度中に必要量の見積もりと調達を進め、翌年度の4〜6月に無効化を完了し、7月末の報告期限(特定事業所排出者の場合)までにEEGSで報告書を提出する、という流れです。この順番で進めれば、期限直前の手戻りを減らせます。

STEP 1. 控除したい量を決める
まず、基礎排出量の見込みと削減目標から、控除したいトン数を決めます。調整後排出量の報告における控除は無効化した量がそのまま反映されるため、必要量=購入・無効化すべき量です。
社内の予算取りでは、クレジット単価×必要トン数で概算します。単価は種類と時期で変動するため、早めに見積もりを取り、予算枠を確保しておくのが実務の定石です。
なお、J-クレジットは1t-CO2単位で流通・無効化されます。控除したい量に端数がある場合は切り上げでトン数を確保しておくと、報告時に不足が生じません。
STEP 2. クレジットを調達する
必要量が決まったら調達です。温対法の調整が目的であれば、控除の効果はどの種類でも1トン=1トンで同じなので、コスト最優先なら比較的安価で流通量の多い省エネ由来が第一候補になります。一方、CDP・SBTのScope2算定やRE100への活用も視野に入れるなら再エネ電力由来、地域貢献やCSRの文脈で発信したいなら森林由来、と目的によって最適解が変わります。
調達ルートは、売り出しクレジット一覧からの相対取引、東証カーボン・クレジット市場、プロバイダー経由の3つが主要です。報告期限が近い場合は、調達から無効化・書類整備までを一括で任せられるプロバイダー経由が進めやすい選択肢です。
当社(カーボンリンク)のカーボンオフセットデスクでは、累計3.5億円を超えるJ-クレジット取引の実務経験をもとに、用途と予算に応じたクレジットの選定から調達までを代行しています。クレジットの選定から無効化通知書のお渡しまでの所要は、標準的には5〜20営業日程度です。
STEP 3. 期限までに無効化する(無効化日が判定基準)
調整に使えるのは、算定対象の排出年度中またはその翌年度の4〜6月までに無効化されたクレジットです。たとえば2025年度の排出量の調整なら、2025年4月1日から2026年6月30日までに無効化されたものが対象になります。環境省Q&Aでは、期限の判定は通知書に記載される無効化(償却)の処理日を基準とすることが示されています。通知書を受け取った日付が7月でも、処理日が6月中であれば対象年度の報告に使えます。
無効化の手続き自体は登録簿システム上で即時に完了します。時間がかかるのはその手前の調達と社内決裁です。毎年4〜6月は無効化の駆け込みでクレジットの引き合いが強まる時期でもあるため、年度末までに調達を終え、4〜6月は無効化と報告作成に充てるスケジュールをおすすめします。
STEP 4. 無効化通知書の情報を報告に記載する
無効化が完了したら、無効化通知書をダウンロードし、記載されている情報(認証番号・クレジット特定番号・無効化数量・処理日など)をEEGSでの報告に反映します。通知書はPDFで何度でも再出力できますが、報告書類との突合を考えると、報告に使った通知書を年度・用途ごとにファイリングしておくのが安全です。1通の無効化通知書は単年度のみの使用とされているため、複数年度の報告に同じ通知書を使い回すことはできません。
なお、無効化時に入力する特定排出者コードと利用期間が報告内容と整合していることも確認してください。無効化後は記載内容を変更できないため、入力前の確認が肝心です。
口座がなくても使える「代理無効化」と同意書類
「J-クレジット登録簿の口座を持っていないので、そもそも無効化ができない」という企業は少なくありません。結論から言うと、口座がなくても代理無効化で調整後排出量の控除に使えます。ただし、同意を確認する書類が必要です。

代理無効化でも調整に使える(環境省Q&Aが明言)
環境省Q&Aでは、オフセットプロバイダー等の他者が代理で無効化した場合でも、代理無効化に同意していれば、自らの調整後温室効果ガス排出量の調整に用いることができると明示されています。
代理無効化とは、登録簿口座を持つ事業者が自らの口座で無効化を実行する際に、「クレジット利用法人名」欄に依頼企業の名称を記載する方法です。依頼企業は口座を開設することなく、公式の無効化通知書に環境価値の利用者として記載されます。口座の新規開設は法人のみ・申請から2週間程度かかるため、初めての温対法対応や単年度のオフセットでは、代理無効化のほうが速く進めやすいのが実情です。
出典:Q&A(調整後温室効果ガス関係)|温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(環境省)
同意を確認する書類が必要になる
代理無効化を調整に使う場合の条件は、依頼企業が代理無効化に同意していることを確認できる書類の提出です。環境省Q&Aでは、算定割当量振替通知の備考欄への記載等が例示されています。
実務の段取りとしては、①依頼企業が代理無効化への同意を書面(メール等の記録を含む)で明確にし、②無効化実行時に「クレジット利用法人名」欄へ依頼企業の正式名称を記載し、③報告時に同意を確認できる書類を添える、という流れになります。同意の形式は制度側で厳格に様式化されているわけではないため、報告先に説明できる形で記録を残しておくことが肝心です。
そのうえで、無効化を実行する事業者側が「どの書類で同意を示すか」を理解しているかどうかが重要です。当社で代理無効化を承る際は、無効化前に利用法人名の表記(登記上の正式名称)と利用期間を確定させたうえで、温対法報告に使うことを前提とした書類の整え方までセットでご案内しています。依頼先を選ぶ際は、「温対法の調整に使いたい」と伝えたときに同意書類の話が出てくるかを確認すると、実務に慣れた事業者かどうかを見分けられます。
自社口座と代理無効化の使い分け
| 自社口座で無効化 | 代理無効化 | |
|---|---|---|
| 口座開設 | 必要(法人のみ・2週間程度) | 不要 |
| 調整後排出量への使用 | 可 | 可(同意を確認できる書類が必要) |
| 向いているケース | 毎年度・大量に無効化する | 初回・単発・期限が迫っている |
毎年度継続して大きな量を無効化するなら自社口座、まず今年度の報告に間に合わせたいなら代理無効化、という使い分けが現実的です。当社が代理無効化を承るケースでも、初年度は代理で対応し、調達量が増えた2〜3年目に自社口座へ移行する企業が目立ちます。最初から口座開設で構える必要はありません。
創出者・売り手側の注意点
調整後排出量のルールは、クレジットを買う側だけでなく、創出して売る側にも影響します。

売却分は自社の調整後排出量に加算される
前述のとおり、自ら創出した国内認証排出削減量を他者へ移転した場合、その量は自社の調整後排出量に加算されます。省エネ設備由来などのクレジットを売却して収益化する場合、自社が温対法の特定排出者であれば、(後述する森林・バイオ炭由来を除き)売った分だけ自社の調整後の数字が増えることを織り込んでおく必要があります。
たとえば先ほどの計算例の企業が、省エネ由来クレジット300t-CO2を創出して売却していた場合、調整後排出量は9,500+300=9,800t-CO2になります。売却収入と調整後排出量の増加はトレードオフの関係にあるため、特定排出者である創出企業は、売却しないことで加算を避けるのか、売却収入を優先するのかを年度単位で設計するのが賢明です。
森林由来・バイオ炭由来は加算されない
一方、森林の整備・保全による吸収由来と、バイオ炭の農地施用による貯留由来のクレジットは加算対象から除外されています。売却しても自社の調整後排出量に影響しない、売り手にとって使い勝手のよいクレジットです。
創出したクレジットの売却をお考えの場合は、当社のJ-クレジット買取センターで無料査定を承っています。創出の手順や費用はJ-クレジットの創出方法をご参照ください。
よくある失敗と実務チェックリスト
最後に、調整後排出量まわりで実際に起こりがちな失敗を押さえておきましょう。いずれも、仕組みを知っていれば防げるものばかりです。
ありがちな5つの失敗
- 購入しただけで無効化していない:控除に効くのは無効化した量です。口座に保有しているだけのクレジットは調整に使えません。
- 無効化の処理日が7月にずれ込んだ:期限判定は通知書に記載される処理日ベースです。6月末ギリギリの手続きは、社内決裁の遅れひとつで期限を落とします。
- 自社創出クレジットを控除に使おうとした:控除対象は他者創出クレジットのみです。創出事業者はむしろ売却分の加算に注意が必要です。
- 代理無効化の同意書類を用意していなかった:代理無効化そのものは有効でも、同意を確認できる書類がないと報告時に説明できません。依頼時点で書類の整え方まで確認しましょう。
- 1通の無効化通知書を複数年度で使い回した:無効化通知書は単年度のみの使用とされています。年度ごとに必要量を無効化してください。
報告前チェックリスト
- 無効化通知書の処理日は期限内(対象年度またはその翌年度6月まで)か
- 無効化時に入力した特定排出者コード・利用期間は報告内容と整合しているか
- 控除に使うクレジットはすべて他者創出か
- 代理無効化の場合、同意を確認できる書類は揃っているか
- 自社創出クレジットの売却があった年度は、加算(森林・バイオ炭由来を除く)を反映したか
このチェックリストを報告作成の直前に一巡すれば、主要な確認漏れを減らせます。
よくある質問(FAQ)
Q. 調整後排出量の報告は義務ですか?
温対法の特定排出者に該当する事業者は、制度に基づき温室効果ガス排出量を毎年度報告します。調整後排出量は基礎排出量とあわせて報告・公表される項目です。クレジットの無効化等がない場合、調整後排出量は調整後排出係数ベースの排出量がそのまま報告されます。
Q. 無効化が7月にずれ込んだら、その年度の報告には使えませんか?
期限判定は通知書に記載される無効化の処理日が基準です。処理日が6月中であれば、通知書の受領が7月でも対象年度の報告に使えます。処理日が7月以降になった場合は、その翌年度の報告での使用を検討することになります。
Q. 非化石証書でも調整後排出量を減らせますか?
非化石電源二酸化炭素削減相当量として、令和4年度報告から調整に使用可能になりました。電気の使用に伴う排出への対応なら非化石証書、排出量全体へのトン単位の控除ならJ-クレジット、と性質が異なるため、目的に応じて使い分けます。
Q. 控除に量の上限はありますか?
温対法の調整後排出量については、環境省Q&Aに控除量の上限は示されていません。一方、GX-ETSでは適格クレジット(J-クレジット・JCM)の使用上限が各年度の実排出量(無効化量控除前)の10%と定められています。同じクレジットでも報告先によってルールが異なるため、複数制度の対象になっている企業は、制度ごとに必要量と上限を分けて管理してください。
Q. 自社で創出したJ-クレジットを自社の調整に使えますか?
使えません。控除の対象は他者が創出したクレジットを取得して無効化したものに限られます。自社創出分は、他者へ売却すれば収益になりますが、(森林・バイオ炭由来を除き)売却量は自社の調整後排出量に加算されます。
まとめ
調整後排出量は、J-クレジットの無効化によって企業が能動的に減らせる、温対法報告の中核の数字です。要点を整理します。
- 調整後排出量=①エネ起源CO2+②非エネ起源CO2+③その他ガス−④無効化クレジット+⑤売却した創出クレジット
- 控除に使えるのは他者創出クレジットの無効化分。J-クレジットが調達しやすさ・用途の広さで第一候補
- 期限は算定対象年度またはその翌年度4〜6月。判定は無効化の処理日ベース
- 口座がなくても代理無効化で調整に使える。ただし同意を確認する書類が必要
- 創出クレジットの売却分は加算される(森林・バイオ炭由来は例外)
当社カーボンオフセットデスクでは、必要量の見積もりからクレジット選定・調達・代理無効化・同意書類の整備・無効化通知書のお渡しまで、温対法報告を見据えた一連の実務を代行しています。報告期限が迫っている場合も、まずはご相談ください。

