JCM(二国間クレジット制度)は、日本とパートナー国が協力して削減・吸収量を創出し、貢献に応じて配分する制度です。2025年12月にJCM適用基準が公表され、2026年4月のオマーン参加でパートナー国は32か国になりました。制度の動向は2026年5月29日時点の環境省・関係省庁の概要資料で確認できます。
本記事では、JCMの仕組み・2026年制度改革のポイント・パートナー国の現状・GX-ETSとの連携・企業活用の経路までを、実務目線で整理します。

- JCMとは何か|パリ協定6条2項の先進実装
- JCM適用基準と民間案件の手続き
- パートナー国32か国の現状
- GX-ETSとの連携:企業にとっての意味
- 民間企業の活用経路
JCMとは何か|パリ協定6条2項の先進実装
JCMは、日本とパートナー国が技術・資金面で協力し、削減・吸収量を貢献に応じて配分します。日本へ移転された分は相当調整によりパートナー国の実績と二重計上しません。出典:JCMの概要と最新動向(2026年5月)。
JCMはパリ協定第6条2項の協力的アプローチの一つです。国際移転や承認の扱いは案件・パートナー国の手続きに従うため、JCMという名称だけで個別クレジットの用途が確定するわけではありません。出典:民間JCM組成ガイダンス(2026年5月改定)。
制度の三重の目的
JCMは単なるクレジット創出の仕組みではなく、三つの政策目的を持っています。
- 削減実績の創出:日本のNDC(2030年46%削減目標)達成への貢献
- 技術輸出と産業競争力:日本企業の脱炭素技術が海外市場に展開される経路
- 二国間関係の強化:パートナー国の脱炭素戦略への貢献を通じた外交・経済関係深化
日本政府は、従来の政府資金による事業に加え、民間資金を中心とする案件形成を促す方針を示しています。案件ごとに適用基準と相手国との合意を確認します。
JCM適用基準と民間案件の手続き
JCM適用基準は2025年12月8日に環境省・経済産業省・農林水産省・JCMAが公表しました。民間案件向けの組成ガイダンスは2026年5月に改定されています。出典:JCM適用基準(2025年12月8日)、民間JCM組成ガイダンス。
3つの核心要件
適用基準は、JCMを利用する付加価値について、次の3点の説明を求めています。これに加え、PINの提出時期、日本側の役割・資金貢献、相手国との合意も必要です。
① クレジットによるインセンティブ:クレジット収入が事業実施に必要かを説明します。収益があっても、クレジットなしでは投資回収が長期化するなど実施が難しい事業は検討対象で、一律のIRR・回収年数基準はありません。
② パートナー国NDCへの貢献:事業・技術の難易度や導入量・速度など、優れた点を説明します。
③ 波及・横展開の可能性:現地企業の参画、技術習得、地域産業への効果などを説明します。3点だけで機械的に採否が決まるわけではありません。
手続き要件
- 原則として機器調達または建設の開始前に、日本政府を通じて相手国政府へPINを提出。基準上の例外と分野別ルールも確認
- 日本企業または日本政府の役割・資金貢献を明示
- 基準を満たしても最終適用にはパートナー国政府の合意が必要
PINの提出時期には例外規定があり、森林・農業など設備調達を伴わない事業も扱いが異なります。適用基準を満たしても登録・発行が保証されるわけではなく、パートナー国政府との一致が必要です。出典:JCM適用基準。
パートナー国32か国の現状
JCMは2013年のモンゴルから始まり、オマーンとの署名を経て2026年5月29日時点で32か国です。国別の事業・手続きは同一ではありません。出典:パートナー国32か国一覧。
主なパートナー国(地域別)
| 地域 | 国 |
|---|---|
| アジア | モンゴル、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン、カンボジア、ラオス、バングラデシュ、スリランカ |
| 中東 | サウジアラビア、UAE、オマーン |
| アフリカ | ケニア、エチオピア、セネガル |
| 中央アジア | アゼルバイジャン、ウズベキスタン |
オマーンは2026年4月9日に32番目のパートナー国となりました。案件形成を検討する場合は、国別のJCMルールと現地の関係者・事業条件を確認します。
現状の削減実績
政府は2030年度までに累積約1億t-CO2の国際的な削減・吸収量の確保を目標としています。これは年間のクレジット供給量や販売可能量ではありません。出典:JCMの概要と最新動向。

GX-ETSとの連携:企業にとっての意味
2026年度に始まったGX-ETS第2フェーズでは、J-クレジットとJCMクレジットが適格対象です。2030年度まで、両者の無効化量の合計を各年度の実排出量の10%まで算入できます。2031年度以降のクレジット利用ルールは未定です。詳しくはGX-ETSでのJCM利用と利用年度・年限の整理を確認してください。出典:経済産業省・環境省資料(2026年6月29日)。
JCMクレジットの活用可能性
| 用途 | GX-ETS下での扱い |
|---|---|
| 排出枠の遵守手段 | 実排出量の10%まで利用可 |
| バリューチェーン外の貢献 | 自社・取引先の排出削減実績とは分けて説明 |
| 情報開示 | 制度・開示基準の条件と証憑を個別確認 |
| RE100 | 電力属性の要件を個別確認。JCMクレジット一般の適格性は示さない |
JCMとJ-クレジットのどちらを使うかは、対象年度、個別クレジットの適格性、数量、引渡し時期で判断します。GX-ETSの10%は利用上限であり、調達できる数量や需要実績を示すものではありません。
民間企業の活用経路
政府支援事業に加え、民間資金を中心とする案件形成の手続きも整えられています。民間企業には、自社案件の形成、補助事業への参画、発行済みクレジットの購入という選択肢があります。
経路①:自社案件としての創出
商社や設備事業者などがパートナー国で案件を形成し、手続きに従ってクレジットの配分を受ける経路です。登録・検証・発行と、GX-ETS等での利用可否はそれぞれ別に確認します。
経路②:補助金活用
環境省のJCM資金支援や経済産業省の実現可能性調査など、事業の種類に応じた支援制度があります。募集年度、補助率、対象経費、クレジット配分は各公募要領で確認します。出典:政府支援プログラム一覧。
経路③:クレジット購入
案件形成を行わない企業も、発行済みJCMクレジットの保有者との相対取引を検討できます。購入前に登録簿の状態、配分済み数量、用途に応じた適格性を確認します。手順はJCMクレジットの購入方法、登録簿の実務はJCM登録簿手順書を参照してください。

JCMの構造的リスク
JCMの活用拡大には、構造的なリスク要因も理解しておく必要があります。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 購入可能量の不確実性 | 発行量と売り手が移転できる数量は異なる |
| パートナー国の政治・外交リスク | 政権交代・政策転換・外交関係の悪化が案件に直接影響 |
| 相当調整の複雑性 | パリ協定6条運用がパートナー国ごとに異なる |
| PINの早期提出義務 | FS段階からの政府エンゲージメント必要 |
| 制度の認知度不足 | 中堅・中小企業の認知度は依然低い |
国別の制度運用と契約上のリスクは案件ごとに異なります。売り手、クレジットの状態、相当調整の記録を確認します。
まとめ:JCMを使う前に確認する条件
JCMは2025年12月の適用基準公表、2026年5月の民間案件向けガイダンス改定を経て、案件形成の確認事項が明確になりました。購入を検討する企業は、まず利用年度と個別クレジットの条件を確かめます。民間JCM組成ガイダンス。
GX-ETSで2030年度まで利用できる枠は示されていますが、JCMの調達可能量・価格・発行時期は個別案件次第です。2031年度以降のルールも未定であるため、確定済みの用途と将来分を分けて検討します。
関連記事として、JCMとJ-クレジットの違い・パリ協定6条と相当調整・JCM補助金スキームも参照してください。
カーボンリンクは、JCMの候補紹介と用途・数量・希望時期などの条件整理、買い手・投資家・オフテイカー候補との調整を行います。発行、検証、正式な適格性判断は関係する実施主体・制度の手続きで確認します。
