パリ協定6条と相当調整|JCMが国際的に通用する理由
「JCMクレジットはなぜ国際的に通用するのか」。その答えはパリ協定第6条にあります。JCMはパリ協定6条2項(協力的アプローチ)に準拠した二国間メカニズムとして、国際カーボン市場における正当性を確立しています。
本記事では、パリ協定6条の構造、JCMが該当する6条2項の意味、相当調整(Corresponding Adjustment)の実務、ITMOの概念、COP29以降のルール精緻化動向までを整理します。

パリ協定6条とは:3つの仕組み
パリ協定第6条は、各国が排出削減目標(NDC:Nationally Determined Contribution)を達成するための国際協力メカニズムを規定する条文です。3つの主要な仕組みが盛り込まれています。
6条2項:協力的アプローチ(Cooperative Approaches)
二国間または多国間の合意に基づき、国境を越えた削減量の移転を認める仕組みです。移転された削減量はITMO(Internationally Transferred Mitigation Outcome)として扱われ、買い手国がNDC達成にカウント可能になります。JCMはこの6条2項の代表的な実装事例として位置づけられています。
6条4項:6.4メカニズム(旧CDM後継)
UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の中央管理下で運営される国際メカニズムです。京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)の後継として設計され、UNFCCC事務局が認証主体になります。従来のCDM案件の6.4移管は2025年末が期限で、現在は新規案件の認証ルール整備が進行中です。
6条8項:非市場アプローチ
クレジット取引を伴わない国際協力(技術移転・能力構築など)を支援する枠組みです。市場メカニズムを補完する位置づけです。
JCMは6条2項の先進実装
JCMがパリ協定6条2項の「先進実装」と呼ばれるのは、ルール整備が国際的に進む前から二国間メカニズムを運用してきた実績があるためです。2013年から運用してきた経験は、COP29以降のパリ協定6条ルール精緻化の議論に直接インプットされています。
2024年10月には日本とタイの案件で初期報告(Initial Report)が提出され、ITMO認証プロセスの先行事例として国際的に注目されました。JCMは制度として「先に動いて、後からルールを国際標準化していく」という日本主導の戦略的ポジショニングを取っています。
相当調整(Corresponding Adjustment)とは
パリ協定6条2項のメカニズムを成立させる最も重要な技術的概念が「相当調整」です。
仕組みの全体像
- JCMでパートナー国(例:オマーン)で削減プロジェクトを実施
- 削減量(例:10万t-CO₂)が認証され、ITMOとして発行
- 日本がITMOを獲得し、自国NDC目標達成に計上
- パートナー国は自国のGHG目録から相当量を「相当調整」で差し引く
つまり、同じ削減量を日本とパートナー国が二重カウントしないための調整プロセスが相当調整です。これがなければ「日本もパートナー国もNDC達成」と主張できてしまい、地球全体の削減実績が水増しされてしまいます。
実務上の意味
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | パートナー国政府(自国GHG目録から差し引き) |
| 報告 | UNFCCCへの隔年透明性報告(BTR)で公表 |
| タイミング | ITMO発行・移転時 |
| 検証 | UNFCCC事務局による技術的レビュー |
国別運用差のリスク
相当調整の運用ルールは国際的な枠組みは決まっていますが、パートナー国ごとの実務運用には差があります。会計処理の方法、報告のタイミング、検証プロセスの厳格さなど、案件形成時点で国別リスク評価が必須です。
特に政情不安定な国・行政能力に課題のある国では、相当調整の確実な実施に懸念が残るケースがあり、案件形成時の法務・会計コストが高くなる要因です。

ITMO:国際移転された削減量
ITMO(Internationally Transferred Mitigation Outcome)は、パリ協定6条2項の中核概念です。
ITMOの特徴
- 国際的に移転可能な削減量:二国間合意に基づき、買い手国のNDCに計上可能
- トン単位の数量化:tCO₂相当(tCO₂e)で表現
- 多目的利用可能:NDC達成、CORSIA(航空業界)、ボランタリー市場など、相当調整を伴う限り用途を選ばない
- トラッキング義務:登録簿(Registry)での記録・追跡が必須
JCMクレジットとITMOの関係
JCMで創出されたクレジットは、相当調整を経たITMOとして国際移転されます。これにより、JCMクレジット保有企業はパリ協定下で「真の脱炭素貢献」を主張できる国際的根拠を得ます。
COP29以降のルール精緻化
2024年11月のCOP29(バクー)で、パリ協定6条の運用ルールが大きく前進しました。主な決定事項は以下の通りです。
- 6条4項のメカニズム承認体制の確立:旧CDM案件の6.4移管ルール明確化
- 6条2項報告様式の標準化:相当調整の透明性向上
- 方法論承認プロセスの簡素化:案件形成の予見可能性向上
これらの精緻化は、JCMにとっても国際標準化された運用環境の整備という追い風です。JCMがこれまで先行運用してきた仕組みが、国際標準形成に取り込まれていく流れが顕著になっています。

CORSIA・Verra第6条ラベルとの関係
国際カーボン市場における「6条準拠クレジット」の位置づけは、CORSIA(国際民間航空機関の航空業界カーボン規制)とVerra(ボランタリーカーボン市場の主要レジストリ)の動向によっても変化しています。
CORSIA:航空業界のクレジット適格性
2027年から本格稼働するCORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)では、航空会社が温室効果ガス排出をクレジットで相殺する義務を負います。CORSIA適格クレジットは6条準拠(相当調整済み)が条件となる見通しで、JCMクレジットの国際的価値を高める要素です。
Verra:6条ラベル発行
2026年4月、VerraがVCSプログラムのクレジットに対するパリ協定6条ラベル付与ガイダンスを改訂しました。Verraクレジットの中でも、相当調整を伴うものは「6条ラベル」付きで取引され、ITMOと類似の国際的位置づけを得ます。
JCMクレジットはVCSとは別レジストリですが、「相当調整済みクレジット」というカテゴリの中では同等の国際的信認を持ちます。
まとめ:JCMの国際的位置づけ
JCMがパリ協定6条2項の先進実装であることは、国際カーボン市場におけるJCMクレジットの正当性を担保する最重要要素です。相当調整・ITMO・6条ラベルといった国際的概念の中で、JCMクレジットは「日本政府が国際ルールに沿って認証した二国間クレジット」として、信頼性の高い調達対象になります。
GX-ETS対応・Scope3対応・CDP/SBT報告など、国際開示が前提となる用途では、6条2項準拠のJCMクレジットの国際的信認が、J-クレジット(国内独自制度)にはない強みとして機能します。
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