JCM(二国間クレジット制度)とは|2026年制度改革と企業活用の全体像
J-クレジットの国内供給が需要の3〜4%にしか達しない構造の中、企業の脱炭素調達戦略ではJCM(Joint Crediting Mechanism:二国間クレジット制度)の存在感が急速に高まっています。2026年3月にはJCMプロジェクト基準が公表され、4月には日・オマーン間の協力覚書署名でパートナー国が32か国に拡大。GX-ETS義務化フェーズの本格化とあいまって、JCMは「国内クレジット不足を補う海外調達の主軸」として、制度的成熟期に入りました。
本記事では、JCMの仕組み・2026年制度改革のポイント・パートナー国の現状・GX-ETSとの連携・企業活用の経路までを、実務目線で整理します。

JCMとは何か|パリ協定6条2項の先進実装
JCMは、日本が2013年から推進する二国間の温室効果ガス削減スキームです。日本の脱炭素技術・資金・知見をパートナー国(途上国・新興国)に提供し、現地での削減プロジェクトを実施。その削減量を日本とパートナー国の両方が排出削減実績としてカウントできる仕組みです。
国際的にはパリ協定第6条2項(協力的アプローチ)の先進的な実施例として注目されており、COP29(2024年バクー)以降のパリ協定6条ルール精緻化の中で、JCMの先行事例性が国際標準形成に影響を与えています。
制度の三重の目的
JCMは単なるクレジット創出の仕組みではなく、三重の政策目的を持っています。
- 削減実績の創出:日本のNDC(2030年46%削減目標)達成への貢献
- 技術輸出と産業競争力:日本企業の脱炭素技術が海外市場に展開する経路
- 二国間関係の強化:パートナー国の脱炭素戦略への貢献を通じた外交・経済関係深化
このうち2番目の目的が、近年特に重視されています。「クレジット創出を入り口に、現地での技術普及・継続的なビジネス関係を作る」というモデルが、政府支援スキーム設計の中核に据えられるようになりました。
2026年3月:プロジェクト基準公表で制度改革
2026年3月26日、環境省・経済産業省・農林水産省・JCMA(4省庁・機関連名)でJCMの適用が認められるプロジェクトの基準が公表されました。これはJCM制度の透明性向上と民間企業参入促進を狙う重要な制度改革です。
3つの核心要件
公表された基準は、プロジェクト適用のために3つの要件を求めます。
① クレジットによる事業インセンティブ(追加性/Additionality)
クレジット収入がなければ事業が成立しないこと。クレジットなしでも収益が成立する案件はJCM対象外。逆に言えば、採算が取れない低炭素投資こそJCMが支援すべき対象という思想に基づきます。
② パートナー国NDCへの貢献
相手国の国別削減目標(NDC)に実質的に寄与すること。形式的な貢献では不可。
③ 波及・横展開の可能性
現地での技術普及・制度普及につながる再現性があること。単発の設備投資ではなく、現地産業への技術移転・モデル化が期待される案件を優遇する設計です。
手続き要件
- 機器調達・建設開始前にPIN(Project Idea Note)を提出
- 日本企業または日本政府の役割・資金貢献を明示
- 基準を満たしても最終適用にはパートナー国政府の合意が必要
PINの早期提出義務は実務負荷が高く、FS段階から政府エンゲージメントが必要なため、大企業・総合商社が有利な構造は残ります。一方で基準明文化により「応募前に適格性を判断できる」透明性は大きく向上しました。
パートナー国32か国の現状
JCMのパートナー国は2013年のモンゴル(第1号)からスタートし、2026年4月のオマーン署名で32か国に到達しました。
主なパートナー国(地域別)
| 地域 | 国 |
|---|---|
| アジア | モンゴル、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン、カンボジア、ラオス、バングラデシュ、スリランカ |
| 中東 | サウジアラビア、UAE、オマーン |
| アフリカ | ケニア、エチオピア、セネガル |
| 中央アジア | アゼルバイジャン、ウズベキスタン |
2026年4月のオマーン署名は、中東産油国とのJCM関係構築の戦略的拡大として位置づけられます。オマーンは2050年カーボンニュートラルを国家目標に掲げ、再エネ・省エネ・CCUSへの投資を急いでおり、日本のプラントエンジニアリング企業にとって有望な案件形成先です。
現状の削減実績
2025年5月時点でJCM累積削減量は約60万t/年水準。政府目標は2030年累積1億tですが、現状ペースでは目標との大きなギャップがあります。民間参入の拡大が制度継続のカギです。

GX-ETSとの連携:企業にとっての意味
GX-ETSは2026年度に本格稼働し、年間10万t-CO₂以上排出の対象企業(約300〜400社)が義務参加フェーズに入りました。GX-ETSでは外部クレジットの利用が認められ、J-クレジットと並んでJCMクレジットが適格クレジットとして位置づけられます。
JCMクレジットの活用可能性
| 用途 | GX-ETS下での扱い |
|---|---|
| 排出枠の遵守手段 | 実排出量の10%まで利用可 |
| Scope3対応 | バリューチェーン外削減として活用可 |
| ESG開示 | 国際クレジットとして信頼性が高い |
| RE100報告 | 種類により対応可(要確認) |
国内J-クレジットの供給制約(年間100〜150万t)を踏まえると、GX-ETS対象企業がJCMクレジットを補完調達するインセンティブは大きい。海外プロジェクトを通じた創出のため、供給拡大余地も国内Jクレより明確に広いのが特徴です。
民間企業の活用経路
JCMはこれまで「政府資金中心」の制度でしたが、2026年の基準公表は民間資本主導への移行を促す制度設計でした。民間企業がJCMを活用する経路は3つに整理できます。
経路①:自社案件としての創出
商社・プラントエンジニアリング・電力・ガス会社などが、パートナー国での脱炭素プロジェクトをJCM案件として組成。創出されたクレジットを自社のGX-ETS遵守用・Scope3対応用に使うか、市場で売却します。
経路②:補助金活用
環境省JCM設備補助事業(最大1/2補助)、シナジー型JCM創出事業(2026年新設)、経産省FS調査、NEDO低炭素技術普及促進事業などの補助スキームを活用してプロジェクトコストを圧縮できます。中堅企業にとっては補助金活用が参入の現実的な経路です。
経路③:クレジット購入
自社で案件組成しない企業も、JCMクレジットを市場で購入してGX-ETS遵守・Scope3対応に充てることが可能です。流通市場はJ-クレジットよりも未成熟ですが、買取事業者経由の相対取引が現実的なチャネルになります。

JCMの構造的リスク
JCMの活用拡大には、構造的なリスク要因も理解しておく必要があります。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 供給量の絶対的不足 | 約60万t/年 vs GX-ETS需要数千万t規模 |
| パートナー国の政治・外交リスク | 政権交代・政策転換・外交関係悪化が案件に直撃 |
| 相当調整の複雑性 | パリ協定6条運用がパートナー国ごとに異なる |
| PINの早期提出義務 | FS段階からの政府エンゲージメント必要 |
| 制度の認知度不足 | 中堅・中小企業の認知度は依然低い |
特にミャンマー等の政情不安定国では実質的に機能停止状態の案件もあり、国別リスク評価が案件形成時の必須プロセスになります。
まとめ:JCMは「次の主役」になる
JCMは制度的成熟期に入りました。2026年3月のプロジェクト基準公表・GX-ETS本格稼働・パートナー国32か国到達という3つのイベントは、JCMが日本のカーボンクレジット市場で「次の主役」になる準備が整いつつあることを示します。
J-クレジットの構造的需給逼迫を補完する形で、JCMクレジットの調達・活用は2027年以降に本格化します。JCM案件形成において歴史的な好機と言える今、企業は自社のクレジット調達戦略にJCMをどう組み込むかを早期に検討すべきタイミングです。
関連記事として、JCMとJ-クレジットの違い・パリ協定6条と相当調整・JCM補助金スキームも参照してください。
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