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パリ協定6条4項とは|発行・取引の現在地と購入前の確認点【2026年版】

2026 11/06
カーボンクレジット入門
2026年10月31日2026年11月6日
パリ協定6条4項とは|発行・取引の現在地と購入前の確認点【2026年版】
監修増山 大知(カーボンリンク株式会社 代表取締役)

6条4項のクレジットには、JCMより活用先が広がる可能性があります。JCMは日本と相手国が共同で運営する二国間制度ですが、6条4項は国連の共通制度で発行されます。削減が起きた国が国際利用を承認し、利用先の国や制度でも受け入れられれば、日本との二国間協力の枠を越えて、ほかの国の削減目標や排出量取引制度などでの利用を検討できます。ただし、国連発行というだけで使えるわけではありません。承認の内容と利用先のルールを、用途ごとに確認する必要があります。

2026年7月集計ではミャンマーの2活動で約111万単位(1単位は1t-CO2e)の発行量が示され、10月には新たな方法論も採択されました。この発行量は、売買できる在庫や各国制度で使える量とは異なります。発行申請の承認、登録簿への発行、買い手への移転、制度での使用は、それぞれ別の段階です。

開発案件の「発行予定」や買い手向けの「6条対応」という説明は、活動承認、登録、発行、移転、使用の各段階で証拠を確かめる必要があります。JCMやJ-クレジットとの違いも、制度名より使い道で判断できます。

この記事を読むとわかること
  • 6条4項でJCMより活用先が広がる可能性と、その条件
  • 発行された単位が、国際利用の承認でどう使い分けられるか
  • 方法論から登録、検証、発行までの順序
  • 2026年10月時点の発行承認と暫定登録簿の限界
  • 購入候補の数量、権利、用途を見分ける確認項目
カーボンクレジットの調達条件を相談する
目次

パリ協定6条4項の仕組み

国連が運営するクレジット制度

パリ協定第6条には、国同士が協力して削減成果を移転する仕組みと、国連が監督するクレジット制度があります。後者がパリ協定クレジットメカニズム(PACM)です。国連の6条4項監督機関が方法論、活動の登録、第三者機関の認定、発行に関する制度を管理します。

活動が承認された方法論に従って削減・吸収量を測り、独立した審査を経て認められた単位をA6.4ERと呼びます。1単位は1t-CO2eの削減・吸収に対応します。削減見込みを発表しただけではA6.4ERにならず、対象活動の登録と実績の検証が必要です。

国連管理という表現は、国連が自ら設備を設置したり、すべてのクレジットの買い手になるという意味ではありません。実際の活動は事業者が進め、ホスト国が参加や活動を承認し、認定された第三者機関が検証します。国連側はその結果を制度上の要件に照らして扱います。

出典:Paris Agreement Crediting Mechanism|UNFCCC

ホスト国と監督機関の役割

排出削減や吸収が起きる国をホスト国と呼びます。ホスト国は6条4項に参加する要件を満たし、対象活動を承認します。活動を実施する事業者、監督機関、認定された指定運営機関(DOE)の役割は分かれており、事業者が「申請した」だけでは登録済みとは言えません。

DOEは活動の設計や監視結果を独立に確認する機関です。登録を求める活動は、方法論との適合性、追加性、削減量の計算、持続可能な開発上の要件などを示します。登録後に測定した削減・吸収量も、発行の前に検証を受けます。

この分担は買い手にも関係します。提案資料にホスト国のレターがあっても、それが活動の承認なのか、国際利用の承認なのか、単なる参加意思なのかは文書で確認します。名前が似た承認を一つにまとめると、使えると考えていた用途に単位を充当できない可能性があります。

出典:Registration|UNFCCC

JCMと6条2項との違い

日本の二国間クレジット制度(JCM)は、パリ協定6条2項の協力的アプローチに基づき、日本とパートナー国が運営します。これに対して6条4項の発行主体は国連のメカニズムです。両者はパリ協定第6条に関わりますが、登録簿、承認、発行、利用の手続が同じではありません。

6条4項で発行された単位でも、ホスト国が国際的な利用を承認すれば、6条2項の会計・報告ルールに関わります。そのため「6条4項か6条2項か」をクレジットの名前だけで二者択一にする説明は正確ではありません。どの仕組みで発行され、どの用途へ移すのかを分けて確認します。

JCMとの制度比較はパリ協定6条クレジットとJCMの違いで詳しく解説しています。ここでは6条4項で生まれる単位の状態と、買い手が受け取るまでの経路に絞ります。

パリ協定6条2項のJCMと、国連が発行する6条4項クレジットの関係を示す図

A6.4ERは承認の有無で使い道が変わる

発行単位としてのA6.4ER

A6.4ERは6条4項の活動から発行される単位の総称です。登録簿では固有の識別番号が与えられ、活動、ホスト国、削減・吸収が起きた年などを追跡できます。発行の記録があれば、事業計画に書かれた将来量とは区別できます。

しかし、発行済みという事実だけで国境を越えて使えるわけではありません。ホスト国がその単位を他国のNDCや別の国際的な目的に使うことを認めたかによって、分類と会計処理が変わります。買い手は「6条4項」という名称より、個別の単位の承認状態を確かめる必要があります。

取引契約に「A6.4ER」と書かれていても、ビンテージ、シリアル番号、ホスト国、利用目的が特定されていなければ、引き渡される単位の条件は決まりません。発行前の案件なら、数量は見込みとして扱い、後に発行される単位の条件を契約で定めます。

出典:Registry|UNFCCC

国際利用が承認されたAER

ホスト国が6条4項の単位を他国のNDCやその他の国際的な緩和目的に使うことを承認すると、AER(Authorized Emission Reduction)として扱われます。承認には利用目的などの情報が付与され、国際移転時には6条2項に沿った報告と相当調整が問題になります。

相当調整は、削減が起きた国と単位を使う国が同じ成果を二重に数えないための会計処理です。ホスト国が承認したAERでも、買い手の国や利用制度の条件まで自動的に満たすわけではありません。登録簿同士の接続も別の実装課題です。

たとえば韓国向けに承認された単位について、別の国の企業が同じ用途で使えると推測してはいけません。承認文書の対象、目的、数量、時期と、利用先制度の適格性を突き合わせます。国際利用を目的とする調達では、この確認が価格や引渡し条件より先に必要です。

出典:Registry|UNFCCC

ホスト国への貢献として残るMCU

国際的な利用の承認を受けていないA6.4ERは、MCU(Mitigation Contribution Unit)としてホスト国のNDCに貢献します。MCUは他国のNDC達成に使用できません。国連の登録簿説明では、国内の環境施策や気候資金への貢献に使う可能性が示されています。

MCUが価値を持たないという意味ではありません。ただし、MCUを購入・支援した企業が「自国の排出量を相殺した」「他国のNDCに使った」と主張できるかは別問題です。貢献の説明と排出量の相殺主張を混ぜないことが必要です。

将来ホスト国が条件を満たして承認し、AERに変わる可能性は制度上あります。しかし2026年10月時点の暫定登録簿では、発行後の承認は利用できないと国連が説明しています。「後で承認されるはず」という期待を、現在の単位の属性として価格に織り込むときは注意が要ります。

区分 ホスト国の国際利用承認 他国のNDCへの利用 買い手が確認するもの
A6.4ER 単位ごとに確認 承認状態だけでは決まらない 発行記録、番号、活動、ビンテージ
AER あり 承認目的と受入側ルールに従う 承認文書、相当調整、移転経路
MCU なし 使用不可 貢献の用途、主張の範囲
A6.4ERがホスト国の承認によってAERとMCUに分かれ、利用先が異なることを示す図

クレジットはどの順番で発行されるか

方法論で削減量の測り方を決める

6条4項の活動では、まず適用する方法論を確認します。方法論は対象技術、基準となる排出量、追加性、監視項目、削減・吸収量の計算方法を定めます。類似技術のクレジットが別制度で発行されていても、6条4項の方法論へ自動的に移行できるわけではありません。

2026年10月の第23回監督機関会合では、調理用エネルギーの転換と家庭調理の効率改善に関する方法論2件が採択されました。同時に、反転リスク評価、サンプリングと調査に関する方法論ツール2件も採択されました。反転リスクは、吸収・貯留した炭素が後から失われる可能性を指します。

これは制度の対象活動と評価手順が増えたことを意味します。一方、方法論の採択は、個別事業の登録や新しいクレジットの発行を意味しません。事業者がその方法論に沿って申請し、活動の条件を満たす必要があります。

出典:第23回パリ協定6条4項監督機関会合に参加しました|環境省

ホスト国承認と活動登録を分ける

活動を登録するには、ホスト国の参加要件と活動の承認が必要です。事業者は設計文書などを準備し、DOEの確認を経て登録を申請します。国連の登録ページは、申請フォームと必要書類を示しています。

ホスト国が活動を承認した時点は、発行可能量が確定した時点ではありません。登録された後も、計測期間中に事業が実施され、監視計画に沿ったデータが得られなければ、対象期間の削減量を示せません。

カーボンリンクが開発候補を買い手に説明する際は、ホスト国の参加・活動承認、国際利用の承認、登録の状態を別の欄で示すのが適切だと考えます。文書名だけではなく、対象活動と発行期間が一致するかを確認すれば、早期の案件を発行済み在庫として扱う誤りを避けられます。

出典:Registration|UNFCCC

監視と検証で実績を確定する

登録後は、活動が生んだ削減・吸収を監視します。設置台数や燃料使用量のように、方法論が指定する指標を対象期間ごとに集めます。削減見込みはこの時点でも予測であり、監視したデータから計算した量と一致するとは限りません。

発行申請には、検証を担うDOEの関与が必要です。事業者が作った監視報告を第三者が確認し、適用方法論、対象期間、計算結果を審査します。国連の発行案内も、検証後にDOEが発行を求める流れを説明しています。

買い手が将来量を契約するなら、監視で量が下振れしたときの扱いを定めます。代替単位、引渡し時期、承認を得られなかった場合の終了条件を分けておくことで、「削減量の見込み」と「納入するクレジットの量」の混同を減らせます。

出典:Issuance|UNFCCC

発行申請と登録簿への記録

検証後の発行申請が認められると、A6.4ERを登録簿に記録する段階へ進みます。国連の登録簿は単位に固有番号を付け、活動、ホスト国、ビンテージ、保有者、利用履歴を追える設計です。発行後の分配も活動参加者の指示に従って行われます。

同じ「発行」という言葉でも、監督機関による申請の承認と、登録簿上の残高の成立は資料上で分けて読む必要があります。2026年2月の国連発表は「初の発行を承認した」と説明し、当時は14日間の異議申立て期間を残していました。発表日だけで、第三者への移転と利用が完了したとは判断できません。

カーボンリンクが調達候補を評価するなら、発行申請の公表、承認結果、登録簿の番号、口座残高、移転の証憑を順に求めます。いずれかが未成立なら、その段階に合わせた表示と契約条件を置き、完成した在庫と同じ表には載せません。

6条4項の方法論、ホスト国承認、登録、監視、検証、発行、分配の順序を示す図

2026年10月時点でどこまで進んだか

ミャンマー案件で初の発行が承認された

2026年2月26日、国連はミャンマーの改良調理用ストーブ事業について、6条4項で初となるクレジット発行を監督機関が承認したと発表しました。この活動は京都議定書のCDMから移行した案件です。韓国での利用が承認された分は韓国の事業者へ移転し、韓国の排出量取引制度で使える可能性が示されました。

国連発表の表現は「移転できる」であり、特定の売買や使用がすでに完了したという報告ではありません。残りはミャンマーのNDCに使うと説明されています。同じ事業からの単位でも、承認された利用先で扱いが分かれる例です。

その後も進展がありました。日本の環境省が運営するArticle 6 Implementation Partnershipの2026年7月集計では、ミャンマーのCDM移行案件2活動が発行段階に達し、承認済み発行量は合計約111万t-CO2eとされています。UNEPコペンハーゲン気候センターの10月13日更新データも、ミャンマーのA6.4ER発行量を約111万単位と表示しています。

この実績は制度が発行段階に入った証拠です。一方、6条4項の全ての方法論で発行が始まった証拠にはなりません。新規開発の案件とCDM移行案件では登録までの経路も違い、発行済みの量を販売可能量や国際移転済み量へそのまま置き換えることはできません。

出典:UN carbon market approves first-ever issuance|UNFCCC

出典:Article 6 Implementation Status|A6IP、Myanmar|UNEP Copenhagen Climate Centre

10月に方法論と共通ツールが増えた

2026年10月5~9日の第23回監督機関会合では、調理用エネルギーの転換と家庭調理の効率改善の方法論が採択されました。反転リスク評価とサンプリング・調査の共通ツールも採択されています。対象活動の計算と検証に使うルールが広がりました。

この進展は、方法論が不足していた技術や活動を検討するための基盤になります。ただし、事業者が新しい方法論に適合するか、登録申請が認められるか、どの量を発行できるかは案件ごとに異なります。方法論の採択日を、単位の発行日や販売開始日として扱えません。

日本政府はJCMでの経験を生かして6条4項の制度運営へ貢献し、会合結果を参考にJCMの拡大にも取り組むと表明しました。これはJCMの申請手続が今回の採択で直ちに変わったという発表ではありません。JCMは引き続き6条2項の制度として確認します。

出典:第23回会合の結果|環境省

暫定登録簿で運用されている

国連は正式なメカニズム登録簿を開発する間、暫定メカニズム登録簿を用意しています。国連の説明では、暫定版は事務局が発行や必要な取引を扱うオフラインの仕組みです。最終版の調達と実装は進行中で、公開時期は別途発表されます。

暫定版で口座を開けるのは国と活動参加者です。完成版の説明にある「公的機関や民間企業が口座を開ける」という記述を、そのまま暫定版の一般購入者へ当てはめてはいけません。発行後承認も暫定版では利用できません。

旧CDMのCERを6条4項登録簿へ移す手続も進んでいますが、CERの移転と新しいA6.4ERの発行は異なる取引です。登録簿への移転量をそのまま「6条4項で新規発行された量」と数えると、供給を誤認します。

出典:Registry|UNFCCC

6条4項クレジットは取引できるか

登録簿内の移転と商取引

国連の制度説明では、A6.4ERは登録簿の口座保有者間で取引できます。登録簿は保有者と移転履歴を追跡し、発行後の分配や移転を記録する役割を担います。ただし暫定版の口座対象は国と活動参加者に限られ、誰でも登録して直接受け取れる状態ではありません。

「取引できるか」には二つの意味があります。売買契約を結べるかという商取引の問題と、目的の単位を登録簿上で移せるかという制度上の問題です。売買の合意があっても、売り手が約束した単位を持たない、買い手へ移せない、用途の承認がないといった事情があれば、履行できません。

したがって、発行済み単位の現物取引と、将来発行を条件にした契約を区別します。将来契約では発行量がゼロになる場合、承認内容が変わる場合、登録簿の運用が遅れる場合の扱いまで明記する必要があります。価格だけを先に比較すると、同じ商品を比べているとは限りません。

国際移転にはホスト国の承認が要る

A6.4ERを他国のNDCやその他の国際的な目的に使うには、ホスト国による承認が必要です。承認済みのAERは、国際登録簿や各国の登録簿との相互運用が整い次第、接続先へ移せる設計です。2026年10月時点で、その接続は国連が開発中と説明しています。

相当調整も、単位を誰が保有するかという所有権だけでは決まりません。対象となる利用目的、最初の国際移転の時点、各国の報告が関わります。買い手が「相当調整済み」と聞いたら、どの国がどの対象年の削減成果をどう報告するのか、根拠を求めます。

カーボンリンクが買い手候補を整理する際は、AERであることに加え、受入国側の制度、登録簿の接続、買い手の口座経路を別の条件として扱います。ホスト国承認の有無だけで「日本企業がすぐ使える」と結論づけることはできません。

出典:Registry|UNFCCC

実際の売買成立は別の証拠で確かめる

国連が初の発行を承認したことと、二次市場で価格が成立したことは別です。発行、分配、保有、移転、取消しは登録簿が示す事実ですが、売買価格や契約条件が常に公表されるわけではありません。2026年10月時点の国連の初号案件発表から、一般的な取引価格や市場の厚みを導くことはできません。

売り手の発表に「買い手が決まった」と書かれていても、引渡しが済んだかは確認が必要です。予約、前払、購入オプション、現物移転は、買い手の負う発行リスクと利用可能時期が異なります。調達担当者は契約の形式と登録簿上の進捗を一緒に見ます。

将来分の長期契約は、開発資金を先に支える手段になりえます。しかし承認と発行が未確定なら、納入数量も使用可能性も確定していません。見込み量を「購入可能な在庫」として掲示する前に、その差を明示する必要があります。

段階 確認できる証拠 買い手が判断できること まだ確定しないこと
構想・方法論選定 事業計画、適用候補の方法論 技術と対象活動 登録、発行、数量
ホスト国承認・登録 承認文書、国連の登録記録 制度上の活動状態 対象期間の実績量
発行申請承認 監督機関の決定 審査結果と発行へ進む条件 口座残高、買い手への移転
発行・分配 シリアル番号、残高 現存する単位の属性 自社用途への適格性
移転・使用 登録簿の取引と取消し記録 受領または使用の完了 公表されない売買価格
クレジットの用途と引渡し条件を整理する
6条4項クレジットを調達する際に発行、ホスト国承認、移転経路、利用制度を順に確かめる判断図

価格と調達条件をどう見るか

市場の参考価格を一律に置けない理由

2026年10月時点で、6条4項の全案件に適用できる公的な単一価格は示されていません。国連の登録簿は単位の発行や保有を追う仕組みであり、調達価格の一覧ではありません。初号案件の承認をもって「6条4項相場」を円/t-CO2eで示す根拠にはできません。

価格に差が出る要因には、発行済みか将来分か、ホスト国が何の用途を承認したか、方法論とビンテージ、引渡し時期、数量、代替納入の有無があります。MCUとAERを同じ「6条4項クレジット」の値札で比較すると、買い手が取得する使用権が異なります。

見積もりを取るときは、契約価格と単位の対象年、発行・承認・移転が未成立の場合の負担を同じ書面に置きます。仲介手数料や税、登録簿費用が含まれるかも明示します。公開されていない成約価格を、類似制度の価格から補って提示しないことが、初期市場では特に重要です。

発行量と販売可能量は一致しない

事業資料に記された年間削減見込みは、方法論による推計です。監視・検証後の発行量とは異なり、さらに制度上の控除、契約上の配分、ホスト国向けと国際利用向けの区分で、買い手が実際に取得できる量が変わります。

6条4項には適応資金への拠出と、世界全体の排出削減に充てる取消しの仕組みがあります。これらの制度的な控除に加え、開発者、投資家、ホスト国の間の契約配分も確認します。「年間削減量が100万t」だから「100万tを販売できる」とは計算できません。

カーボンリンクでは、将来の案件を説明するとき、総削減見込み、検証対象量、発行後に残る量、買い手への配分予定を分けて示すべきだと考えています。公表資料が最初の数値しか示さない場合は、残りを販売可能量として推定せず、開発者への確認事項に残します。

出典:Article 6.4の適応資金拠出|UNFCCC

買い手が求める証拠を整理する

購入検討では、まず用途を一つ定めます。自国の制度履行、国際航空の義務、任意の気候貢献では、同じ単位に求める条件が異なります。次にその用途を認める制度の規則から、必要な承認、対象年、クレジット種別、取消し方法を確認します。

売り手には、活動番号、方法論、対象期間、ホスト国の承認文書、発行・保有の記録、移転に使う口座を求めます。未発行なら、どの項目が予定で、いつ何を条件に確定するかを表にします。契約相手が実際の口座保有者でない場合、引渡し権限の証明も必要です。

公的な登録簿は単位の存在と移転状態を示しますが、契約履行の信用や事業の社会的影響を全て保証するものではありません。企業の調達判断では、方法論の適合性に加え、現地での実施、苦情処理、データ品質について事業者の資料も確認します。

その確認は一度で終わりません。契約前には予定された活動と権利関係、発行時には実際の数量と単位番号、使用前には承認用途と取消しの証憑を確かめます。時点ごとに資料を更新すれば、契約時には正しかった説明が、発行後の条件変更や数量の下振れによって古くなったまま使われることを防げます。

日本企業の利用をどう判断するか

日本の制度履行に自動で使えるわけではない

海外の6条4項クレジットを発行できることと、日本のGX-ETSや温対法で使えることは別です。日本の制度にはそれぞれ対象単位、使用上限、対象年、手続があり、国連発行という属性だけで自動的に適格になるわけではありません。

JCMクレジットは日本の制度と接続する別の仕組みです。海外クレジットを日本で制度履行に使う買い手は、最初に日本側の使用ルールを確認し、次に候補単位がその対象に含まれるか調べます。制度の比較はGX-ETSで使える海外クレジットも参照できます。

6条4項の単位が将来、日本の利用制度に追加される可能性を否定するものではありません。しかし将来の政策変更を現在の適格性として販売すると、買い手の義務履行に影響します。購入契約では、制度上使えなかった場合の扱いを明記します。

CORSIAには別の適格性審査がある

国際航空のCORSIAで使うには、国際民間航空機関(ICAO)が認めるプログラムと対象期間の条件を満たす必要があります。6条4項の単位だから自動的にCORSIA適格になるわけではありません。ICAOは履行期間ごとに利用できるプログラムと単位条件を公表しています。

さらに、プログラムが掲載されていても、全てのビンテージや国の単位が対象とは限りません。航空会社向けの調達では、対象となる履行期間、ユニットの発行年、ホスト国の承認や二重計上を防ぐ条件を、ICAOの最新資料で照合します。

日本のGX-ETSに使えることとCORSIAに使えることも別です。企業が複数の制度を扱う場合は、必要量を合算せず、用途ごとに適格な単位を分けます。市場で同じ「Article 6 credit」と呼ばれていても、使用可能な買い手は同一ではありません。

出典:CORSIA Eligible Emissions Units|ICAO

任意の気候貢献と排出相殺の説明

企業が排出削減事業を資金面で支える場合、MCUでもホスト国の緩和に貢献する説明は考えられます。一方、自社の排出量を差し引いたと説明する場合は、二重計上や排他性について別の確認が必要です。単位の保有と対外主張の妥当性は同じ判断ではありません。

公表文では、購入した単位の種類、量、対象年、取消しの有無、ホスト国での扱いを明らかにします。発行前の資金提供であれば「将来の削減活動を支援している」と現在形の事実を示し、まだ生じていない削減を達成済みとして数えません。

カーボンリンクの調達相談では、制度履行、対外的な貢献説明、将来の調達予約を同じ提案に混ぜない方針が必要です。用途が一つに定まらない段階では、単位の価格より先に、会社がどの主張をしたいのかを決めます。

よくある質問(FAQ)

Q. 6条4項のクレジットはもう発行されていますか?

はい。2026年2月にミャンマーのCDM移行案件で初の発行が承認され、7月集計ではミャンマーの2活動で約111万単位の発行量が示されています。ただし、この数字だけで買い手への移転や利用が完了したとは言えません。

発行の完了を案件ごとに判断する際は、監督機関の決定に加え、登録簿上の番号と残高を確認します。将来の方法論で発行される見込み量は、発行済み単位ではありません。

Q. 日本企業はA6.4ERをすぐ購入できますか?

契約の検討は可能ですが、2026年10月時点の暫定登録簿で口座を開けるのは国と活動参加者です。一般の日本企業が登録簿へ直接入って自由に移転を受けられると案内することはできません。

実際の取引には、対象単位の発行・保有状態、口座間の移転経路、ホスト国の承認、利用先制度の条件を確認します。将来単位の契約なら、未発行時の扱いも必要です。

Q. AERとMCUはどちらも海外で使えますか?

他国のNDCなど国際的な目的に使う単位は、ホスト国がその目的を承認したAERです。国際利用を承認されていないMCUは、ホスト国のNDCに貢献し、他国のNDCには使えません。

MCUの資金支援や国内利用の可能性と、他国への排出削減成果の移転は分けて考えます。将来の承認可能性を現在のAERとして表示しません。

Q. 6条4項クレジットの価格はいくらですか?

案件に共通する公的な相場は確認できません。発行済みか将来分か、承認用途、方法論、ビンテージ、数量、引渡し条件をそろえて個別に見積もります。

旧CDMのCER価格やJCMの取引価格を、A6.4ERの現在価格として転用することはできません。価格と同時に、買い手が取得する利用権を明確にします。

Q. JCMクレジットと同じものですか?

同じではありません。JCMは日本と相手国が6条2項に基づいて運営する制度であり、A6.4ERは国連の6条4項メカニズムから発行されます。

方法論、登録簿、承認、移転、使用先を別々に確認します。日本での購入手続や用途はJCMクレジットの購入方法で整理しています。

まとめ

6条4項は、初回承認に続いてミャンマーの2活動で発行量が確認され、方法論も追加されました。暫定登録簿での運用も始まっています。一方、国際利用に必要なホスト国承認、単位の移転記録、買い手側の適格性は案件ごとに確認する必要があります。

調達を検討する企業は、まず用途を決め、候補単位の発行状態、AERかMCUか、登録簿上の受領経路、使用制度の条件を順に確認してください。この順序なら、将来の削減見込みを現在使えるクレジットとして扱う誤りを避けられます。

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この記事を書いた人

カーボンリンク編集部のアバター カーボンリンク編集部

カーボンリンク株式会社が運営するGX専門リサーチメディア「Carbonlink Research」の編集部。J-クレジット制度(経済産業省・環境省・農林水産省共同運営)・GX-ETS(排出量取引制度)・JCM(二国間クレジット制度)・国際カーボンクレジット市場を主要テーマとし、企業のGX担当者やクレジット保有者が意思決定に使えるリサーチ記事を執筆・監修している。カーボンリンク社はJ-クレジットの調達から、語れるオフセットストーリーの設計・発信支援までを一体で提供する「カーボンオフセットデスク」をはじめ、「J-クレジット買取センター」、仲介事業者向けプラットフォーム「OTC Hub」を運営しており、累計3.5億円を超える取引の最前線で得た実務知見を記事に反映している。

この記事の監修者

増山 大知の写真 増山 大知 カーボンリンク株式会社 代表取締役

カーボンリンク株式会社 代表取締役。J-クレジットの調達から、地域に語れるオフセットストーリーの設計・発信支援までを一体で提供する「カーボンオフセットデスク」をはじめ、「J-クレジット買取センター」、仲介事業者向けプラットフォーム「OTC Hub」を運営。東証プライム上場企業を含む10業界以上の法人との直接取引を行い、省エネ・農業・再生可能エネルギーのJ-クレジット買取成約実績を持つ。累計3.5億円を超えるカーボンクレジット取引の実務経験をもとに、Carbonlink Research の全記事を監修している。

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