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J-クレジット需給逼迫の実態|供給100万t vs 需要6,000万tの構造とこれから起きること

2026 7/16
市場・価格
2026年5月10日2026年7月16日
J-クレジット需給逼迫の実態|供給100万t vs 需要6,000万tの構造とこれから起きること
監修増山 大知(カーボンリンク株式会社 代表取締役)

「J-クレジットが足りない」。2026年初頭から、調達担当者の間でこの言葉が当たり前のように交わされるようになりました。GX-ETS義務化のスタートとScope3対応の本格化を背景に、J-クレジットの需給バランスは構造的に逼迫しています。供給は年間100〜150万t、需要推計は最大6,000万t規模。需要が供給の30〜40倍に達するこのギャップは、価格上昇を促すだけでは解消されない構造問題です。

本記事では、J-クレジット需給ギャップの数字を整理し、需要側・供給側それぞれの構造を分解したうえで、「需要は伸びるのに供給が伸びない理由」と、今後3年で何が起きるかを実務目線でまとめます。

j-credit-shortage hero illustration
この記事を読むとわかること
  • 数字で見る需給ギャップ
  • 需要を押し上げる3つの構造
  • 供給が伸びない理由
  • 種別別の逼迫度
  • 補完手段としてのJCMクレジット
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目次

数字で見る需給ギャップ

まず数字を整理します。

項目 規模(年間) 出典/根拠
J-クレジット供給量 100〜150万t 2023〜2025年実績平均
GX-ETS需要(10%上限) 1,500〜2,000万t 対象企業排出量 × 10%
Scope3対応需要 推計2,000〜3,000万t SBT認証企業10,711社
RE100・ESG対応需要 1,000万t以上 大手企業のオフセット予算積み上げ
合計需要推計 約6,000万t 供給の30〜40倍

供給は需要の約3%にすぎません。これは「足りない」というレベルではなく、「そもそも需要を満たす設計になっていない」というレベルの構造です。EU-ETSがピーク時に直面した需給タイトと比較しても、日本のJ-クレジット市場の需給ギャップは桁が一つ大きいと言えます。

需要を押し上げる3つの構造

構造①:GX-ETS義務化と10%外部クレジット枠

2026年4月、改正GX推進法が施行され、GX-ETSは義務参加フェーズに移行しました。対象は年間排出量10万t-CO₂以上の企業(約300〜400社)で、合計排出量は日本全体の約4割を占めます。GX-ETS下では、企業が排出枠の遵守手段として実排出量の最大10%まで外部クレジット(J-クレジット・JCMクレジット)を利用可能です。

10%という数字は地味に見えますが、対象企業合計の排出量から逆算すると最大1,500〜2,000万tの需要枠が顕在化します。この枠だけでJ-クレジット年間供給量の10〜20倍に達する規模感です。GX-ETSは2026年度を助走期間とし、実取引の本格化は2027年度以降ですが、先行調達は既に始まっています。

構造②:Scope3とサプライチェーン要請

CSRD(EU企業サステナビリティ報告指令)、SBTi(Science Based Targets initiative)、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、ISSB(IFRS S2)といった国際開示フレームワークが2024〜2026年にほぼ同時に整備されました。これにより大企業はScope3排出(サプライチェーン上の間接排出)の算定・削減・開示を強く求められるようになります。

サプライチェーン要請は連鎖的に拡大します。トヨタ・ソニー・コマツといった大手企業が取引先にScope3対応を求めれば、その先の数千〜数万社のサプライヤーがJ-クレジット購入で対応するという二次波が発生します。この波は2026〜2028年に本格化する見通しで、年間2,000〜3,000万tの追加需要を生み出すと推計されています。

構造③:SBT認証企業の40%増

SBTiが2026年4月に公表した「Trend Tracker 2025」によれば、SBT認証取得企業は2025年末で9,764社(前年比+40%)まで急増しました。2026年初には1万社を突破し、現時点で10,711社まで到達しています。日本企業のSBT採用は世界最多水準で、東証プライム企業を中心に拡大しています。

SBTi基準ではScope1・2の代替としてのオフセット使用は基本的に認められませんが、Beyond Value Chain Mitigation(バリューチェーン外削減への貢献)としての活用は許容されつつあります。SBT認証企業は「目標未達のままでは認証取消」リスクを抱えるため、保険的なクレジット調達ニーズが恒常化します。

供給が伸びない理由

需要側が三方面から拡大している一方、供給側は2023〜2025年の3年間、年間100〜150万tで頭打ちのままでした。「価格が上がれば供給も増える」という市場原理が機能しにくいのがJ-クレジット市場の特徴です。

プロジェクト形成のリードタイム

J-クレジット創出には、計画策定・登録・実施・モニタリング・認証の一連プロセスが必要で、新規プロジェクトが認証クレジットとして発行されるまで通常2〜4年かかります。再エネ電力由来は比較的早く、森林吸収由来は10〜20年のモニタリング期間が前提です。

つまり、2026年に需要が爆発しても、2026年中に供給を増やすことは構造的に不可能です。2027〜2028年の供給を増やすには2024〜2025年にプロジェクト形成が始まっている必要があり、そのパイプラインは政府目標から逆算すると明らかに細いのが現状です。

MRVコストと小規模事業者の参入障壁

モニタリング・報告・検証(MRV)のコストは案件規模によらず一定の固定費がかかります。1案件あたり数十万〜数百万円のMRVコストは、年間数百t程度の小規模プロジェクトでは収益的に見合わず、小規模事業者がJ-クレジット創出に参入する経済合理性が低い構造です。

中小規模の省エネ案件・農業案件をクレジット化する仕組みは制度として用意されていますが、実務上は集約事業者の存在が必要で、ここがボトルネックになっています。「作れる事業者は限定的」という制約は、価格が上がっても短期的には解消しません。

種別の偏在

供給の中身を見ると、再エネ電力由来と省エネ由来が大半を占め、森林吸収由来・農業由来は希少種です。一方で需要側は「自然由来クレジット」へのプレミアム評価が高まる傾向にあり、種別ミスマッチが価格上昇の二次要因になっています。森林吸収由来は2026年に¥10,000/t超、希少ロットは¥18,000/tに達しています。

j-credit-shortage demand_drivers illustration
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種別別の逼迫度

種別 年間供給量 需要強度 価格レンジ 逼迫度
再エネ電力由来 60〜80万t 極めて高い(RE100・GX-ETS) ¥4,800〜¥5,500 ★★★
省エネ由来 30〜40万t 中(Scope1代替難) ¥1,800〜¥2,800 ★
森林吸収由来 5〜10万t 高(自然由来プレミアム) ¥10,000〜¥18,000 ★★★
農業由来 1〜3万t 中(特定用途のみ) ¥5,000〜¥9,000 ★★

逼迫度が最も高いのは再エネ電力由来と森林吸収由来です。再エネ電力はRE100・GX-ETS両面の需要を一手に引き受け、森林吸収由来は供給量自体が少ないため買い手の指名買い性質が強くなっています。

補完手段としてのJCMクレジット

国内J-クレジットの供給制約を踏まえると、GX-ETSの10%枠を埋めるためにはJCMクレジット(二国間クレジット制度)の活用が現実的な補完手段になります。

JCMはパリ協定6条2項に準拠した二国間クレジットで、相当調整済みの国際クレジットとして信頼性が高く、海外プロジェクト由来のため供給拡大の余地も大きい制度です。2026年4月にはオマーンが32か国目のパートナー国となり、地理的拡大も加速しています。GX-ETS下ではJCMクレジットもJ-クレジットと同様に外部クレジット利用枠の対象です。

「国内J-クレジット主軸+海外JCMで補完」というハイブリッド調達が、需給ギャップ時代の実務的な解になります。

J-クレジット種別別の需給逼迫度(再エネ電力由来・省エネ由来・森林吸収由来・農業由来)

今後3年で起きること

需給ギャップが解消する見通しがない以上、2026〜2028年のJ-クレジット市場では以下の現象が連鎖的に起きると見られます。

  1. 再エネ電力由来の価格が¥7,000/t台に切り上がる:先行調達需要が継続し、踊り場を抜けて緩やかな上値追いの展開
  2. 森林吸収由来のさらなる希少化:プロジェクト数が伸びず、¥20,000/t超の取引が常態化する可能性
  3. 複数年契約の標準化:スポット調達のリスクを避けるため、買い手は供給者との長期契約を志向
  4. 集約事業者・買取事業者の役割拡大:小規模供給者の出口流動性を提供する事業者が市場インフラとして重要度を増す
  5. JCMクレジット調達の本格化:国内供給制約を背景に、海外案件への投資が拡大

まとめ:構造的需給逼迫は「価格」だけでは解消しない

J-クレジットの需給ギャップは、価格が上がれば供給が増えるという通常の市場原理が機能しにくい構造に根ざしています。プロジェクト形成リードタイム・MRVコスト・種別偏在という3つの供給制約は、政策的な後押しがあっても短期的には解消しません。

買い手企業にとっては、「価格が高いから買い控える」のではなく、「価格上昇を前提に早期確保する」ことが経済合理性のある選択になります。売り手(クレジット保有者)にとっては、売り急ぎを避けて適切なチャネルで売却することが利益最大化の鍵です。

J-クレジット市場は、需給ギャップが恒常化する「構造的タイト市場」のフェーズに入りました。この前提を共有したうえで、買い手・売り手双方が中長期視点で戦略を構築する局面に来ています。


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この記事を書いた人

カーボンリンク編集部のアバター カーボンリンク編集部

カーボンリンク株式会社が運営するGX専門リサーチメディア「Carbonlink Research」の編集部。J-クレジット制度(経済産業省・環境省・農林水産省共同運営)・GX-ETS(排出量取引制度)・JCM(二国間クレジット制度)・国際カーボンクレジット市場を主要テーマとし、企業のGX担当者やクレジット保有者が意思決定に使えるリサーチ記事を執筆・監修している。カーボンリンク社はJ-クレジットの調達から、語れるオフセットストーリーの設計・発信支援までを一体で提供する「カーボンオフセットデスク」をはじめ、「J-クレジット買取センター」、仲介事業者向けプラットフォーム「OTC Hub」を運営しており、累計3.5億円を超える取引の最前線で得た実務知見を記事に反映している。

この記事の監修者

増山 大知の写真 増山 大知 カーボンリンク株式会社 代表取締役

カーボンリンク株式会社 代表取締役。J-クレジットの調達から、地域に語れるオフセットストーリーの設計・発信支援までを一体で提供する「カーボンオフセットデスク」をはじめ、「J-クレジット買取センター」、仲介事業者向けプラットフォーム「OTC Hub」を運営。累計3.5億円を超えるカーボンクレジット取引の実務経験をもとに、Carbonlink Research の全記事を監修している。

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