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J-クレジット価格の推移と2026年以降の見通し|¥5,000突破の構造と買い手・売り手の戦略

公開 2026.05.11·更新 2026.05.11

J-クレジットの取引価格が、2025年に明確な節目を超えました。再エネ電力由来クレジットの市場取引価格は¥5,000/t-CO₂台に乗り、2023年水準と比べて2倍近い水準に張り付いています。これは「カーボンクレジット相場が緩やかに上がっている」という生やさしい話ではなく、GX-ETS義務化、Scope3対応の本格化、SBT認証企業の急増という3つの需要要因が、年間100〜150万tという供給制約に同時にぶつかった結果として起きている構造的な価格上昇です。

本記事では、J-クレジット価格の最新の現在地、過去5年の推移、¥5,000を超えた構造要因、2026〜2028年に向けた価格予測を整理したうえで、買い手企業が今からやるべき調達戦略と、売り手(クレジット保有者)にとっての売却タイミングまで実務目線で踏み込みます。

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J-クレジット価格の現在地|2026年の取引水準

J-クレジットの取引価格を語るとき、最も重要なのは「単一の価格はない」という前提です。J-クレジットは創出されたプロジェクトの種類(再エネ電力・森林吸収・省エネ・農業など)と取引チャネル(市場取引・相対取引・買取事業者経由)の組み合わせで価格が分岐します。

種別別の取引価格レンジ

2026年4月〜5月の直近実勢で見ると、J-クレジットの取引価格は概ね次のレンジに収まります。

種別市場取引価格レンジ特徴
再エネ電力由来¥4,800〜¥5,500/t最も需要が厚い。RE100やCDP対応で指名買い
省エネ由来¥1,800〜¥2,800/tScope1削減との競合で価格は中位
森林吸収由来¥10,000〜¥18,000/t国内自然由来クレジットの希少性プレミアム
農業由来¥5,000〜¥9,000/t件数が少なく単価がぶれやすい

再エネ電力由来は2023年初頭まで¥2,500/t前後で推移していました。それが2024年に¥3,500〜¥4,000/tに上がり、2025年後半には¥5,000/t台に乗りました。2年でほぼ2倍という上昇ペースです。森林吸収由来はもともと希少性プレミアムが乗っていましたが、ここに来てさらに上値を試す動きが鮮明になっており、自然由来クレジットへの選好シフトを示唆しています。

J-クレジット制度における「取引」の3経路

価格を理解するには、J-クレジットがどこで取引されているかを押さえる必要があります。実務上は3つの経路に整理できます。

  1. 東京証券取引所カーボン・クレジット市場(JPX):2023年10月本格稼働。日次の約定価格が公開され、最も透明性の高い価格指標。
  2. 入札販売(J-クレジット事務局):年数回の入札方式。落札価格は公表される。
  3. 相対取引(買取事業者・直接取引):当事者間で価格を決める。市場価格を参考にしつつ、ボリューム・種別・無効化用途で個別調整される。

JPX市場の約定価格が「市場参照価格」として機能し、相対取引はそこにスプレッドを乗せるかたちで決まる構造です。買取事業者は売り手にとって出口流動性を提供する役割を担っており、特に少量保有の個人・中小事業者にとっては、JPX参加コストを負担せずにマーケット価格水準で売却できる重要なチャネルになっています。

過去5年のJ-クレジット価格推移

J-クレジット制度自体は2013年度に開始されていますが、活発な価格形成が始まったのは2021年以降です。ここでは過去5年の推移を、政策イベントと紐づけて整理します。

2021〜2022年:低位横ばい期

2021年〜2022年前半までは、再エネ電力由来でも¥1,200〜¥2,000/t、省エネ由来は¥1,000/t前後という低水準で推移していました。当時はESG投資の盛り上がりの初期段階で、Scope2削減のためにJ-クレジットを購入する企業は限られていました。「とりあえずRE100に申告するための最低限の購入」という用途が中心で、需要は薄く、供給側も急いで創出する動機が弱い時期でした。

2023年:GXリーグ・JPX市場稼働

2023年4月にGXリーグが発足し、同年10月にJPX東京証券取引所カーボン・クレジット市場が本格稼働しました。これにより「J-クレジットに公開市場価格が付く」という構造変化が生じます。価格は2023年中に¥2,500/t前後まで切り上がりました。市場参加企業も急増し、価格発見機能が成立した第1年として記録される時期です。

2024年:Scope3規制波及で需要が伸びる

2024年は欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)が本格適用に入った年で、日本企業もサプライチェーン上流に位置する取引先からScope3削減のエビデンス提示を求められるケースが急増しました。SBT認証取得企業数も2024年末で世界9,764社まで伸び、日本はその中で世界最多級のシェアを占めるに至りました。

この需要拡大を受けて、J-クレジット価格は¥3,500〜¥4,000/t台のレンジに切り上がります。供給側のプロジェクト形成は2024年も年間100〜150万t水準で頭打ちのままでした。「需要は伸びる、供給は伸びない」という需給ギャップが、2024年中に明確に観測されはじめます。

2025年:¥5,000突破と先行調達の本格化

2025年は「GX-ETS義務参加フェーズが2026年4月から始まる」という確定情報を前にした先行調達の年でした。年間100万t以上排出する企業(約300〜400社)が対象になることが具体的に詰まり、各社の調達部門・サステナビリティ部門が次年度以降のクレジット必要量の試算を本格化しました。

2025年中盤に再エネ電力由来は¥4,500/t台、年末には¥5,000/t台へ。森林吸収由来は¥10,000/tの心理的節目を上抜けし、後半には¥15,000/t台で約定する事例も観測されました。価格上昇は単発のイベントではなく、月次で着実に切り上がる「トレンド相場」の様相を呈しています。

2026年(直近):義務化開始と価格の踊り場

2026年4月、改正GX推進法が施行され、GX-ETSは義務参加フェーズに移行しました。ただし2026年度は排出量の算定・届出を行う「助走期間」とされ、実取引の本格化は2027年度以降と位置づけられています。市場の論点は「初年度は様子見か、それとも一段の値上げか」に分かれましたが、現状の市場価格は¥5,000〜¥5,500/tのレンジで足元を固めており、踊り場相場と見るのが妥当です。

¥5,000を超えた構造的要因

J-クレジット価格が¥5,000/tという心理的な閾値を超えたのは偶然ではありません。需要側に3つの構造要因、供給側に2つの制約要因が同時に重なった結果です。

需要側①:GX-ETSの外部クレジット利用枠

GX-ETSでは、企業が排出枠の遵守手段としてJ-クレジットおよびJCMクレジットを利用できます。利用上限は年間実排出量の10%まで。これは見落とされやすい数字ですが、年間100万t排出する企業であれば最大10万t、500万t排出する大手電力・鉄鋼であれば最大50万tを外部クレジットで補完できる計算になります。

GX-ETS対象企業の合計排出量は日本全体の約4割を占めると言われており、仮にそのうちの数%でも10%枠を埋めようとすれば、J-クレジット年間供給量(100〜150万t)を完全に飲み込むほどの需要が顕在化します。10%上限は決して小さくないというのが実務上の感覚値です。

需要側②:Scope3とサプライチェーン要請

CSRD・SBT・CDP・ISSB(IFRS S2)といった国際開示フレームワークがほぼ同時に整備されたことで、大企業はScope3排出(サプライチェーン上の間接排出)の算定と削減を強く求められるようになりました。Scope3削減の手段としてのJ-クレジット活用は、SBTiの基本ルール上「Scope1・2の代替」とは認められませんが、「Beyond Value Chain Mitigation(バリューチェーン外削減への貢献)」としての活用は許容されつつあります。

さらに重要なのは、大手企業がサプライヤー(中小企業含む)に対してScope3対応を要請する「サプライヤーエンゲージメント」の連鎖です。トヨタ・ソニー・コマツといった大手が取引先に脱炭素対応を求めれば、その先の数千〜数万社のサプライヤーがJ-クレジット購入で対応するという需要の二次波が発生します。

需要側③:SBT認証企業の年40%増

Science Based Targets initiative(SBTi)が2026年4月に公表した「Trend Tracker 2025」によれば、SBT認証取得企業は2025年末で9,764社、前年比+40%の成長を記録しました。2026年初には1万社を突破し、現時点で10,711社(バリデーション済み)まで拡大しています。日本企業のSBT採用は世界最多水準で、東証プライム企業を中心に急速に拡大しています。

SBT認証企業は「目標未達のままでは認証取消」というレピュテーション・リスクを抱えるため、自社削減で不足する分を確実な手段で補完する動機を持ちます。J-クレジットは政府認証クレジットとして信頼性が高く、SBT認証企業にとっての保険的な調達対象になりつつあります。

供給側①:プロジェクト形成のリードタイム

J-クレジット創出には、計画作成・登録・実施・モニタリング・認証までの一連のプロセスが必要で、新規プロジェクトが認証クレジットとして発行されるまで通常2〜4年を要します。再エネ電力由来は比較的早く、森林吸収由来は10〜20年のモニタリング期間が前提です。

つまり、2026年に需要が爆発しても、2026年中に供給を増やすことは構造的に不可能です。供給増には2024年〜2025年に開始されたプロジェクトのパイプラインに依存するしかなく、そのパイプラインも2030年累積目標から逆算するとペースが遅いという指摘がなされています。

供給側②:MRVコストと事業者の負担

モニタリング・報告・検証(MRV)のコストは、案件規模によらず一定の固定費がかかります。小規模事業者にとってはJ-クレジット創出の収益性が見合わず、結果として「J-クレジットを作れる事業者は限定的」という制約が残ります。中小規模の省エネ案件・農業案件をクレジット化する仕組みは制度として用意されていますが、実務上は集約事業者の存在が必要であり、ここがボトルネックになっています。

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2026〜2028年の価格予測

J-クレジット価格の今後を考えるとき、参考にすべき類似事例は2018年〜2020年のEU-ETSです。EU-ETSは2018年に¥1,000/t台から¥3,500/t台へ短期間で切り上がり、その後¥10,000/t超まで上昇しました。トリガーは「市場安定化リザーブ(MSR)」による余剰枠の自動吸収、つまり制度設計による需給タイト化でした。

日本のJ-クレジットも、構造としては類似のフェーズにあります。GX-ETSの10%利用枠は需要側のキャップとして機能しますが、それ以下のレンジでは需給ギャップが価格を押し上げる余地が残ります。GX-ETSの排出枠上限価格は¥4,300/tに設定されていますが、J-クレジット現物価格が¥5,000/tを超えている時点で既に逆ざや構造になっており、これがどこまで持続するかが鍵です。

シナリオA:踊り場継続(確率35%)

2026年度は助走期間として価格が¥5,000〜¥6,000/tのレンジで横ばいする可能性があります。GX-ETSの実取引が2027年度以降と先延ばしになっており、企業の調達需要も2027年に向けて段階的に積み増していくパターンが予想される場合です。

シナリオB:緩やかな切り上げ(確率45%)

最も蓋然性が高いと見られるシナリオで、2026〜2027年に再エネ電力由来は¥6,000〜¥7,500/tへ、森林吸収由来は¥20,000/tに迫る水準まで切り上がる展開です。GX-ETSの本格稼働を見越した先行調達が継続し、SBT認証企業の追加需要が乗ることで、需給ギャップが恒常的に維持されます。

シナリオC:急騰(確率20%)

EU-ETS型の急騰シナリオ。何らかのトリガー(規制強化・大型企業の一斉調達・供給制約の顕在化)で再エネ電力由来が¥10,000/tを超える展開です。森林吸収由来は¥30,000〜¥50,000/tレンジに乗る可能性もあります。確率は低いですが、シナリオBの先にこの展開が続く可能性は十分に視野に入れるべきです。

いずれのシナリオでも、「2025年水準に戻る」シナリオはほぼ排除されます。GX-ETS義務化という構造変化が後戻りしないため、需給バランスのフロアが上方シフトしたと考えるのが妥当です。

買い手企業の調達戦略

J-クレジット価格が構造的に上昇トレンドにある以上、買い手企業(GX-ETS対象企業・SBT認証企業・サプライチェーン要請を受ける企業)の調達戦略は「いつ・どれだけ・どの種別を」買うかの最適化問題になります。

戦略①:複数年契約による価格固定

スポット市場で都度購入するよりも、信頼できる供給者と複数年契約を結び、年次の購入量と価格レンジを事前に決める方法が有効です。供給者側にも収益の安定化メリットがあり、ボリュームディスカウントも引き出しやすくなります。価格上昇局面では「将来の値上がりを織り込んだ固定価格」で買えるため、買い手にも有利な選択肢です。

戦略②:種別ポートフォリオ

再エネ電力由来だけに集中するのではなく、省エネ由来・森林吸収由来を混ぜたポートフォリオ調達が推奨されます。種別ごとに価格動向は異なり、需要の用途別最適化(Scope2削減には再エネ電力、Scope3全体への上乗せには森林吸収)が可能です。

戦略③:早期確保の経済合理性

「来年買えばいい」という判断は、価格上昇トレンドの中では経済合理性を失います。年率10〜20%の値上がりが想定される局面では、1年早く調達する方が現金正味現在価値(NPV)で見て安いケースが頻発します。財務部門との連携でクレジット調達を「将来のコスト確定」として位置づけ、調達時期の前倒しを検討すべきです。

戦略④:JCMクレジットとの組み合わせ

J-クレジットの供給制約を踏まえると、GX-ETSの10%枠を埋めるためにJCMクレジット(二国間クレジット制度)の活用も選択肢になります。JCMはパリ協定6条2項に準拠したクレジットで、相当調整済みの国際クレジットとして信頼性が高く、海外プロジェクト由来のため供給拡大の余地も大きい。「国内J-クレジット主軸+海外JCMで補完」というハイブリッド調達が、今後の主流になる可能性があります。

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売り手(クレジット保有者)の売却戦略

価格上昇局面では、クレジット保有者にとっては売却タイミングの最適化が利益最大化のカギになります。「いま売るべきか、保有を続けるべきか」は、保有者の事業特性と資金繰りで答えが変わります。

売却タイミングの判断軸

判断軸早期売却が有利保有継続が有利
創出コスト低い(早期回収優先)高い(プレミアム狙い)
資金繰りタイト余裕あり
種別省エネ系(価格鈍化)森林吸収系(上昇余地)
用途売却専用自社使用と併用検討

出口チャネルの選択

売却チャネルは大別して3つです。

  1. JPX市場での売り出し:価格は透明だが、参加コスト(口座開設・取引手数料)と買い手の指名買い性質に依存
  2. 入札販売への応募:定期的に実施され、まとまった売却に向く
  3. 買取事業者経由の相対取引:少量保有・即時現金化に最適。市場価格水準で売却可能

特に個人事業主・中小規模の創出事業者にとっては、買取事業者を経由した相対取引が現実的かつ最も流動性が高い選択肢になります。市場参加コストがゼロで、複数銘柄の混合売却にも対応でき、書類手続きも事業者側で巻き取ってもらえます。

売り急ぎを避けるべき局面

2026年現在の相場環境は、売り急ぎを避けるべき局面です。需給ギャップが構造的に維持される見通しの中で、半年〜1年先送りすれば10〜20%の値上がりが期待できる種別が多数あります。資金繰りに余裕があるなら、保有を続けることが選択肢として正しい局面に入っています。

ただし、流動性の低い種別(特殊な地域・時期のプロジェクトクレジット)は、買い手が現れるタイミングを逃すと売却機会自体を失うリスクもあります。「価格は良いが買い手がいない」リスクと、「待てばさらに上がる」期待のバランスを、各保有者の事情で見極めることが重要です。

まとめ:J-クレジット価格の構造的トレンドを読み違えない

J-クレジット価格が¥5,000/tを超えたのは、GX-ETS義務化・Scope3規制波及・SBT認証急増という需要側3要因と、プロジェクト形成リードタイム・MRVコストという供給側2制約が同時に重なった結果です。この構造は2026年中に解消する性質のものではなく、少なくとも2028年頃までは需給タイトが維持される見通しです。

買い手企業にとっては、早期調達と複数年契約による価格固定が経済合理性を高める局面。売り手にとっては、売り急ぎを避けて適切な売却チャネルを選ぶことが利益最大化の鍵になります。

「カーボンクレジット価格は政策次第」という見方は半分正解ですが、政策が方向を変える可能性が極めて低い現在の局面では、価格上昇トレンドを前提とした行動計画こそが実務的な解になります。


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